13. 人体実験

 ふはははは!


 やっぱり権力は最高だぜ。


 あの前世の糞上司と同じ顔をしたやつをぶちのめすことができた。


 糞上司に仕返しができてスッキリだぜ。


 だが実際、同じ顔の違う人物なんだよなぁ。


 まあ同じ顔ってだけでオレからしたらギルティーだ。


 粛清対象である!


 オレはカミュラに命じて、ハゲノー子爵のことを洗いざらい調べさせた。


 あいつの秘密を暴くためだ。


 パーティーでは「カツラよりも、もっと大きな秘密があるということも」と言ったが、実際あいつに秘密があるかどうかなんて知らん。


 だがまあ、何かしら後ろめたいことをやっているだろう。


 あの顔で善人なわけがない。


 クソ上司と同じ顔に、良いやつなんているはずないからな!


 きっと叩けばホコリが出てくる。


 秘密を暴いて、やつを社会的に葬り去ってやろう。


 そうすればオレの復讐も完了だ。


 ハゲノー子爵に恨みはないが、悪いのはクソ上司と同じ顔で生まれたことを恨むんだな。


 ふはははは!


 権力最高だぜ!


 楽しくなってきたぜい!


◇ ◇ ◇


 カミュラに命じてハゲノー子爵を調べさせてたら、わんさかとヤバいものが出てきた。


 不正が出まくって笑えてきた。


 これでやつは没落決定だな。


 ふははは!


 気分がいい!


 オレはハゲノー子爵のところに乗り込み、不正の証拠を突きつけてやった。


 ハゲノー子爵のやつが、


「なぜ私の邪魔をするのだ!?」


 とかなんとか叫んでいたが、オレは言ってやった。


「貴様が(前世で)行った不正で、一体どれだけの苦しみを生み出したと思う?」


「正義感か?」


「そうだ」


「はっ、くだらんな。実にくだらん! 正義など偽善だろう!」


「ハッ、違うな。正義とは己の都合のことだ。正義を振りかざすというは、己の欲望を押し付けるということだ」


「ではなぜ邪魔をッ――!?」


「貴様の絶望した顔が見たい。それだけだ」


 ふはははは!


 ハゲノー子爵の絶望に染まった表情は傑作だったぜ!


 あの顔が見たかったんだ。


 スッキリしたぜ!


 ついでにハゲノー子爵の家から、良いモノを見つけた。


 獣人族がいたのだ!


 まあ正確には獣人族ではないが。


 この世界、ファンタジー要素があるくせに獣人族が存在しない。


 だがしかし、ハゲノー子爵家の地下にキメラに改造された少女たちがいたのだ。


 オレは獣人族が好きだ。


 大好きだ。


 キメラも獣人族もオレからしたら似たようなものだ。


 オレはこいつらに向かって堂々と『貴様らはオレのもんだ』と言ってやった。


 人権なんてない。


 オレは悪徳貴族だからな!


 好き勝手やってやると決めたのだ!


 彼女らを一生オレのもとに置いてやる。


 キメラと成り果てたその姿を、オレに見せ続けるよう命じた。


 ははははっ!


 悪徳貴族最高だぜ!


◇ ◇ ◇


 カミュラはアークに命じられた通り、諜報部隊を指揮しハゲノー子爵の調査を始めた。


 すると思いもよらないものが出てきた。


 奴隷だ。


 奴隷はこの国では禁止されている。


 だが、貴族が裏で取引されている分は見逃されてきた。


 ハゲノー子爵は借金のカタに少女を買い付けたり、少女を攫ったりして奴隷としていた。


 また適当な村を襲い、気に入る子供を誘拐することもあり、それによって滅びた村もあるほどだ。


 しかしそれだけなら、ただの貴族のお遊び・・・・・の粋を出ない。


 もちろん当事者にとっては、お遊びで済まされたらたまったものではないが。


 問題は奴隷がいたことではない。


 ハゲノー子爵の奴隷が極めて異常だったことだ。


 ハゲノー子爵は、見た目が良い少女を集め彼女らを玩具にして遊んでいた。


 その遊びの内容が残忍で残酷なものだった。


 少女と動物を交わらせていたのだ。


 交尾という意味ではない。


 それよりももっと残酷で救いのない実験だ。


 少女と動物を合成させ、キメラを作り出していた。


 実験によっては9割以上の少女は死んだ。


 残った一割も、自分の体が作り変えられたことによって精神を病み、半分以上が自殺した。


 そしてハゲノー子爵は、生き残った少女たちを地下に幽閉し、少女たちに地獄を与え続けた。


 カミュラがこの事実を国に伝えたことで、騎士団が動く事態まで発展した。


 そして騎士たちが子爵家に乗り込み、ハゲノー子爵を拘束。


 地下の惨状を見た若い騎士たちは、あまりの状況に嘔吐し、しばらく悪夢にうなされるほどだった。


 ハゲノー子爵は拘束されたが、残った少女たちをどうするか話し合われた。


 そんな中、アークが「生き残ったものたちをすべて貰い受けよう」と宣言したのだ。


 キメラとは言うものの、彼女らは比較的実験に成功した者たちだ。


 見た目は、それこそファンタジー世界における獣人族と変わりない。


 アークにとって、どストライクな見た目をしていた。


 だからアークは彼女らを受け入れた。


 しかし、この世界の人達からすればキメラは受け入れがたいものである。


 少女たちに同情はするものに、そばに置きたいなどと考える者はいなかった。


 そういう背景もあり、アークは周囲から『哀れな者たちに救いの手を述べる心優しき人』と勘違いされるのであった。


 特にカミュラもアークの行いに感激し、大粒の涙を流すほどだった。


 と、それはさておき。


 ハゲノー子爵は奴隷売買、卑劣な実験および数々の不正を行っていたとして爵位を剥奪された。


 さらにそこから、芋づる式に奴隷の売買に関わっていたものがあぶり出されていった。


 この一件を裏で手を引いていたのは闇の手の者たちだったと判明した。


 闇の手の者は奴隷売買で多額な利益を得るとともに、優秀な奴隷を自分たちの手先としていた。


 そうして戦闘員を増やし、戦力を整えていた。


 しかし、アークの意図しない介入によって、奴隷売買は一気に摘発されることとなる。


 図らずしも、これによって闇の手の者たちは大きな損害を被った。


 この一連の事件を経て、カミュラはアークの彗眼に驚き、一層忠誠心を強めた。


 ちなみに、パーティーでハゲノー子爵に目をつけられていたバレット男爵令嬢だが、原作ではハゲノー子爵の奴隷にされていた。


 借金のカタに売られるのだ。


 彼女はキメラにされ数年間弄ばれた後、闇の手先に成り果てる運命にあった。


 そして干支・・・と呼ばれる、闇の手の者の暗殺部隊の一員となり、魔銃使いとして主人公たちに立ちはだかるはずだった。


 しかし、これもまたアークの介入によって防がれることとなった。


 こうしてそれぞれのキャラの運命が原作とズレていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る