9. 山賊退治

 死にたい。


 そう願ったのはいつからだろうか?


 奪われるは初めてじゃない。


 家族とともに暮らしていた村を焼かれた。


 幼馴染は斬られてから川に捨てられ、両親は眼の前で焼かれた。


 村人は全員殺された。


 彼女だけが生き残った。


 なぜか、彼女だけは見逃された。


 今でも理由はわからない。


 見逃され生き残ったことが、幸せだったとは思えなかった。


 少女が一人で生きていけるはずもなく、さまよった挙げ句山賊に捕まった。


 そして奴隷のような日々を送りながら、毎日を過ごしていた。


 彼女――シンモラは生きていく意味を見いだせなかった。


 幸い捕まった歳は、まだ10にも満たない歳のため、男どもから狙われることはなかった。


 しかし、それも時間の問題であった。


 体はシンモラの意思に反して、成長していった。


 そして、ついにその日が訪れてしまった。 


 男の一人が欲情し、シンモラに襲いかかってきたのだ。


 シンモラは無感情でその姿を見つめていた。


 まるで他人事のように感じられた。


 シンモラは諦めたように空を見ていた。


 何も見えない真っ暗な空を眺めていた。


 暗い森の中で、汚物のような男によって、彼女は大切なものを奪われようとしていた。


「ふはははは! 喜べ、山賊共! 今日が貴様らの記念日だ! 盛大な死をプレゼントしてやろう!」


 突如、森の中で少年の――アークの声が響き渡った。


◇ ◇ ◇


 最近オレの領地で山賊共が暴れまわっているらしい。


 まあずっと昔からそうだったが。


 だがそろそろオレも看過できん。


 ここはオレの領地だ。


 オレのモノを無断で奪うなど言語道断。


 万死に値する。


 それに最近、兵士に魔法を使うのにも飽きてきた。


 あいつらを殺すことはできんから、毎回毎回手加減しないといかん。


 オレは本気で魔法が使いたいのだ。


 その点、山賊なら殺しても構わん。


 山賊共をオレの魔法の実験台にしてやろう。


 ということでオレは山賊狩りをしようと思う。


 オレが山賊狩りに出かけようとすると、ランパードに怒鳴られた。


「なりませぬ! もし今、あなた様を失ったらガルム領はどうなるのですか!? わざわざアーク様が行かれる必要はございません!」


 ふむ、無礼なやつだな。


 オレは死なんぞ?


 ていうか、一人で行くわけじゃないんだし大丈夫だろ。


 領地の兵士も連れて行くつもりだし。


 ふはははは!


 兵士共をオレのお遊びに連れていけるなんて、さすが伯爵だぜ!


 ランパードになんて言われようが、オレは山賊退治に行く。


「オレが行くことに意味があるのだ。他のやつらに任せるなどできるわけがなかろう。止めるなよ、ランパード」


「アーク様……そこまで仰るなら私はもう止めません」


 ということで、オレは山賊狩りに行った。


 山賊は最高だった。


 力をセーブしなくていい。


 暴れまわれるのだ!


 ヒャッハー!


「ぎゃあああ!」


「逃げろー!」


「狂人アークが出たぞー!」


 山賊共が叫び声を上げながら逃げ回る。


 オレは容赦なく山賊共を蹴散らしていく。


 山賊狩りたっのすぃぃ!


 これぞ貴族のお遊びだな!


 狩猟よりも全然楽しいぜ!


 山賊が命乞いを求めてきた。


「た、助けてだせぇ! なんでもしますんで!」


「この領地から出ていく! だから命だけはお助けを!」


 ふはははは!


 なんだこの惨めな生き物共は!


「なあ。うじ虫共、クズ虫共、貴様らはオレが誰だけわかるか?」


「い、ガルム伯爵……」


「様をつけろ、様を」


「ガルム伯爵様です!」


「そうだ。それなら、答えは決まっておろう? オレのモノを奪った罪は重い」


 山賊共は怯えた目でオレを見てきた。


「だがオレは優しい」


「助けてくれるんですか!?」


「はっ? 寝言は死んでからほざけ」


 なんて感じで山賊共を殺しまくり、拠点を潰しまくっていたら、うちの領地に山賊がいなくなってしまった。


 チッ。


 もう終わりか。


 つまんねーな。


 戦利品として、山賊に捕まっていた奴らをゲットした。


 とりあえず、うちで雇い、薄給で働かせることにした。


 あと謎の鉱山もゲットした。


 ちょうど山賊刈りにも飽きていたところだ。


 次は金儲けでもするか!


◇ ◇ ◇


 シンモラ。


 彼女は原作では、ほとんど登場しないキャラである。


 しかし、重要なキャラの一人である。


 主人公の幼馴染である。


 主人公がランスロットなどとともにガルム領に行く回がある。


 その歳に、主人公は幼馴染であるシンモラに出会うのだ。


 だが、時すでに遅し。


 シンモラは山賊共によって散々弄ばれており、心も身体もまともな状態ではなくなっていた。


 主人公は死んだと思っていた幼馴染に会えたのに、シンモラの無惨な姿を見る羽目になるのだ。


 そして、シンモラは主人公に会えた安堵感で息を引き取ってしまう。


 主人公にトラウマを残すという、鬱アニメらしい終わりを迎える。


 それが本来のストーリーのシンモラだ。


 しかしこの世界では、アークの介入によってシンモラは救われてしまった。


 そして彼女はガルム領で働くことになったのだった。


 アークのもとで働くようになったシンモラは次第に元気を取り戻していくようになる。


 アークは図らずも、主人公の幼馴染を救うという大きな原作改変シナリオクラッシュをしてしまうのだった。

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