第3話

こいつと勝負をするようになってから、いつの間にか感じるようになっていたあたしの中のモヤモヤと切なさ。未だにこの感情の正体は分からないけど、分からないならそのままこいつにぶつけてやる!


「あたしと付き合いなさい。あんたをあたしの恋人にしてあげるっ」

「……何を言ってるの?」


胸のドキドキでどうにかなりそう。いや、もうなっているのかもしれない。でもっここまで来たんだから後は突っ切るしかないでしょ!?


「あんたとあたしが付き合えば、今回みたいに恋人ができたかどうかで無駄に悩む必要はなくなんのよ」

「えっと……いや、そのっ……」

「あんたとあたしは恋人同士になるのっ」

「……っ」


目の前の氷女は燃え上りそうなくらい顔を赤くしていた。何も言えなくなったのかうつむいている。うんうん、こいつのこういう姿が見れるのも勝負の良さってもんよ。


「それに、どっちが先に恋人ができるかの勝負も、少なくとも引き分けには持ち越せるからね」

「……そうね。勝てないのは悔しいけれど、少なくとも負けるよりは良いわ」

「全くよ。だから……」


あたしはこいつの肩の上に置いていた手を少し下にずらして、腕をつかんだ。そんなあたしの腕の動きに驚いたのか、こいつは身体をピクっと痙攣させた。うんうんっ。


「あんたと恋人になって、ずっとあんたと勝負してやるから。もちろん勝つのはあたし。」

「そうね。私もそうしたいわ。でも一つ間違いがあるわね。勝つのは私よ?」


夏服へと衣替えをした今。夏服を着るようになったのにもう暑い。まだまだ夏服に切り替えるほど周りの気温は高くないし実際寒かった。でも今は、体中が熱い。心臓の音がうるさい。こいつも、同じなのかな。

そうじゃなきゃ。許してやんないから。


「言うじゃん。それじゃあ勝負をしようじゃない」

「良いわ……」


お互いの背中に腕を回し合って抱きしめた。勝負の内容は、言わなくてもお互い分かってる。


「……っ」

「んっ……」


こいつの唇があたしの唇とくっついた。初めてをこいつに捧げるなんて思わなかった。それは多分、こいつもそう思ってるはず。だからこそ、こいつが想像していないような事をしないと勝てないんだっ。


「っ!?」

「……っ! ……っ」


あたしは勢いよく舌をこいつの口の中に突っ込んだ。舌でこいつの口の中を探って舌を見つけ出す。そして、舌で舌を絡めて、あたしの唾液をたくさん、たっくさん送り込んだ。そしてこいつの唾液を舌で絡めとって、喉を鳴らして飲み込んだ。

こいつはあたしの大胆な行動に心底驚いたみたい。ビクッと身体を跳ねて硬直した。

ふふんっ初めてのキスだからとついばむようなバードキスで留めるつもりだったかもしれないけど、あたしはその程度じゃ許さないっての! もう知ってるはずでしょ?

しかしこいつが動きを止めていたのはほんの少しだった。すぐにこいつも負けないとばかりに自分の舌を積極的に絡めてきてあたしに自分の唾液を飲ませにかかってきた


「ぷはっ……はぁ……はぁ……」

「んっ……はっ……はっ……」


長くて激しいファーストキスを終えた私たちはすっかり息が乱れていた。抱きしめ合ったままお互いに熱い吐息を交換する。

こいつには負けたくないし誰にも渡したくない。胸の奥底からそう想った。

キスをしたら少しはこの変な胸の高鳴りも収まるかと思ったけど、そんなことはなかった。むしろもっとこいつが欲しくなっている。あたしはどうしちゃったんだろう。いやいつも通りよね、こいつを負かす。うん。そうなんだからっ


「決定……だからね……あんたはあたしの恋人っ」

「そうね……あなたは私の恋人よ。それと……」

「最初の勝負は……あたしの勝ちよね」


どっちがよりキスが上手いか。恋人になって最初の勝負はあたしの勝利だ。しかしこいつはそうは思ってないみたい。


「いいえ。確かにあなたがあんなに激しくて情熱的なキスができるとは思っていなかったけど、私が負けた訳じゃないわ」

「……なら、もう一度……」

「……ええ……」


再びあたしとこいつの唇が重なり合った。お互いがお互いを貪るように舌を絡め合い、唾液を交換する。普段の学園では誰よりも上品なふるまいをしていたこの氷女がこんなキスをするなんて、みんなが知ったら驚くだろうな。


「……っ……覚悟しなさい。あんたが敵わないって思うくらい……あたしは完璧な恋人になって……やるんだから」

「んっ……私だって……あなたの良い女になって……受け止めきれないくらいの愛情を……あなたに注いであげる……」


きゅうぅぅっと胸が締め付けられた。ずるい。そんなこと言うなんてずるい!

さっきよりも激しくキスしたから、その分息切れも早かった。あたしたちは抱き合ったまま熱く乱れた吐息をぶつけ合って息を整える。胸が当たって苦しいけど、離れたいとは思わない。


「ほら……息は整ったでしょう? 勝負の続きを……しましょう」

「分かったわ。あんたを、屈服してやるっ」


その後あたし達は下校時刻ギリギリになるまでずっと、教室の中で勝負をしていた。

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夕方の二人きりの教室での百合の話 畳アンダーレ @ojiandare

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