第2話

「だから言ったでしょ! 学校で噂になってんのよ、あんたに恋人ができたって! 本当なの!?」

「そんなこと……ふふふっどっちが先に恋人ができるかどうかというのも、勝負だったわね」

「もちろんよっ。それで、どうなの? 噂は……」

「嘘よ。でたらめだわ」


本当のことはあっさりと聞けた。その瞬間、あたしの中にあった焦りは消えた。なんでこんなに焦っていたのか分からないけど。それでもこいつに恋人がいないって分かっただけでなんていうか、嬉しい。そして今、焦りのせいで隠れていた私の心にあるモヤモヤと切なさがまた、浮かび上がってきた。


「今度は私が聞く番ね。あなたにはいるのかしら?」

「恋人……? そんなの居る訳ないじゃない。恋人なんて作ったらあんたとの勝負ができなくなるじゃない」

「どうして? 恋人がいたとしても私との勝負なんて簡単にできると思うのだけれど」

「……っっ!」


あたしは無言でこいつの肩を掴んで、顔を近づけた。相変わらず良い顔よねっ。


「あんたにとって。あたしとの勝負は片手間でできちゃうような軽いものだったの? 片手間でできるならそれで満足しちゃうの?」

「それは……」


あたしに詰められたせいなのか、こいつは目を伏せた。いいや、あたしと同じくらい魅力的で素敵なこいつがそんなことで困る訳がない。こいつのことはあたしが一番知っているんだからっ


「あたしはそう思ってないっ。もしも私に恋人ができたらきっと、その人と毎日イチャイチャしちゃってあんたとの勝負なんかできなくなるっての。」

「そう……よね」

「あんたは、あたしに恋人ができたら良いって言うの? あんたとの勝負ができなくなっても良いって言うつもりっ?」

「そんなことはないっ!!」


教室中に響いたこいつの大声に少しびっくりした。肩も少し震えている。

顔を見ると、目の端に、ほんの少しだけ涙を浮かべて、こいつはあたしをじっと見つめてきた。いつも冷静で周りの人からは氷とも揶揄されることもあるこいつが、こんな風に感情を見せるなんて……珍しい。


「……あなたに恋人ができるなんて、考えたくはないわ。本当、想像もしたくないわね」

「ちょっと、それはひどくない?」

「ひどくなんかないわっ。あなたに恋人? ありえないわ。えぇありえませんとも。そんなことになったら私は……」

「私は……なによ」

「……なんでもないわ」


取り乱していたことに気付いたのか、こいつは息を吐いた。またあたしの顔に吐息がかかった。胸が、痛い。なんでよ。


「……決めた」

「何?」

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