第4話 僕のちんちんを食べるんじゃない

 携帯のアラームで目を覚ます。


 最初に思った事は、なんて馬鹿な夢を見たんだ、である。


 まぁ、陽炎だって人の子だ。


 あんな事があったのだから、頓珍漢な夢を見る事だってあるだろう。


 そう思って布団をめくると。


「ぐ~……がぁ~……ぐ~……がぁ~……」


 制服姿の優花が気持ちよさそうに隣で眠ていた。


「………………」


 とりあえず頬を抓るが、やはり覚めはしない。


 そんな事をするまでもなく、陽炎は急速に覚醒に向かっていた。


「なんであたしが出て行かなきゃ駄目なのよ!?」

『ここは僕の家であって君の家じゃないからだ』

「そうだけど!? 自分ちなんか帰れるわけないでしょ!?」

『なんでだよ』

「子供が死んだばっかりなのよ!? 絶対空気最悪だし! 親が泣いてる所なんか見たくないでしょうが!?」

『なら他所に行け。なんにしたって僕には関係ない話だ』

「あんたって本当に最低ね……。人の心とかないわけ!?」

『わがままが通らないからって僕を非難するなよ。自殺したのは君の意思だし、迷惑を被ってるのは僕の方だ』

「あっそ! あぁそう!? いーわよいーわよ! あんたなんか大っ嫌い! 最初からムカつく奴だと思ってたし! こんな所こっちだって願い下げだわ!」


 わめくだけわめくと優花は壁をすり抜けて何処かに行った。


 かくして陽炎は静寂を取り戻し、安らかな眠りについたはずである。


「……それがなんで僕のベッドで寝てるんだよ」


 理由なんか分からない。


 とにかく陽炎は腹が立った。


 とくにこの幸せそうな寝顔を見ていると無性にイライラしてくる。


「おい! 起きろよ! なんで僕のベッドで寝てるんだ!」


 声を潜めて呼び掛けるが、優花が起きる気配はない。


 それでも起こさないわけにはいかないので、無駄だと知りつつすり抜ける身体に手を伸ばす。


 文字通り手は空を切るだけなのだが、幽霊と言えど女の子の身体の中に手を突っ込むのは謎の罪悪感がある。


 なんて思っていると。


「ぐ~……うぇへへ。いただきま~すぅ」

「うわぁっ!?」


 優花が寝返りをうち、陽炎の股間の辺りに顔をめり込ませる。


「ん~。もぐもぐ、おいひ~」

「バカ!? やめろ! 僕のちんちんを食べるんじゃない!?」


 これには流石の陽炎も焦った。


 わたわたと股間の辺りで手を振るが、勿論何の意味もない。


「かー君? 大丈夫~?」

「だ、大丈夫!? ちょっと寝ぼけただけだから!」


 一階から呼び掛けられ慌てて返事をする。


 このまま優花に構っていたら家族にキチガイ認定されてしまう。


 知らない女、しかも幽霊にベッドを穢されるのは心外だが、とりあえずここは放置して学校に行く支度をする事にした。


 一階に降り、顔を洗って朝食を食べる。


 正常な姿を見せて家族を安心させると、歯を磨いて服を着替える。


 幽霊とはいえ、寝ている女の子の隣で着替えをするのはなんとなく恥ずかしかった。


 幸い優花は起きなかった。


 今更起きられても面倒なのでその方がこちらとしても都合は良い。


 後はトイレを済ませるだけなのだが。


「あれ? 四谷君いないじゃん。一人で学校行っちゃったのかな……」


 優花の独り言が階段を降りて来る。


 陽炎は焦った。


 既にチャックをおろし、相棒は発射体制に入っている。


 まさかトイレに突撃してくる事はないと思うが、相手がアレでは自信はない。


 むしろ、仕返しとばかりにガン見してくる可能性の方が高い気さえしてくる。


 陽炎だって思春期の男の子だ。


 一個上の女の子におしっこをしている所なんか見られたくない。


 お腹に力を入れて、必死になって出かかっていたおしっこを塞き止める。


(早くどっか行ってくれ!)


 必死の祈りも虚しく。


「は! もしかしてお風呂の最中だったり? 昨日は散々意地悪されたし、壁から出てきて驚かしちゃお~っと」


(止せバカやめろ!?)


 能天気な声が近づいてくる。


 間取りで言うとトイレは階段と風呂の間にある。


 あとは言わなくても分かるだろう。


 叫びたいが、そんな事をしたら家族にキ印認定待ったなしだ。


 そして悲報。


 陽炎のちんちんが限界を迎えた。


(あ、あ、あぁぁっ)


「うわぁっ!? びっくりしたっ!? 四谷君? こんな所でなに……」


 右手の壁から優花が顔を覗かせる。


 陽炎は必死になってイヤイヤと頭を振った。


 それに合わせて相棒もふるふると揺れた。


 先端から勢いよくチャージビームを迸らせながら。


「ヒョッ」


 優花の目が点になり、パクパクと空を食む。


 黒目がちの大きな瞳は恥ずかしそうに涙に濡れて、ピンポン玉のように陽炎と相棒の間を行き来した。


「え~と、わざとじゃないって言うか……。お互いに不幸な事故って言うかー……。あ、あたしも自殺する所見せたんだからおあいこ! って事にはならないかなぁ……」


 放水が終わるまでしっかりガン見すると、優花は媚びるような笑みを浮かべて言った。


「なるわけないだろ!?」


 陽炎がガチギレしたとして、いったい誰が責められるだろう。

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自殺しようとしている学校のアイドルを見殺しにしたら憑かれたんだけどこんな同棲は望んでない 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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