最終話 「赤黒い真実」

十数年ぶりに訪れた街はすっかり様変わりをしていた。


懐かしいという感慨よりも、驚愕の方が上回っていた。

当時から都会だったと思っていたが、これほどまでに変わっていたとは。

いや、それほど自分が田舎暮らしに馴染んでいたのかもしれない。


同窓会の会場へは、件の地下街を通るのが最短のルートだった。

下り階段を一歩踏み出したときは、さすがに躊躇いがあった。

しかし、いざ地下に降りてみれば、そこもまた別世界に様変わりをしていた。


大規模リニューアルをされたことは風の便りで知っていたが、これほどまでだったとは。

最早、観光客のおのぼりさんだ。

キョロキョロと周囲をみまわしては、「へぇ!」とか「はぁ!」という言葉しか出てこない。

警戒心など忘れ去り、すでに古い友人たちとの邂逅に胸を膨らませていた。


あの噴水広場があった辺りに差し掛かった時は、さすがに慎重になった。

しかし、そこにはもう噴水はなく、色鮮やかなLED照明で照らしあげられた奇麗なモニュメントがある。


ただただ純粋に「綺麗だなぁ……」と見上げていた。


その時、背後からトントンと肩を叩かれた。

同窓会に訪れた同級生の誰かかなと思い、子供の様に無邪気に振り向いた。


そこには、……新庄がいた……。

青白い顔で……。

不気味に歪んだ形容のし難い笑顔で……。

手には以前よりも鮮明な赤い傘を持って……。


「……ずっと、待ってましたよ。」

「……新庄……君……。」

「酷いじゃないですか……。待ちくたびれましたよ。」

「いや……それは……。本当にすまなかった。」


私は何の違和感もなく深々と頭を下げていた。

これが、私に出来る精一杯の行いだと思った。


「そうじゃないでしょ?……ひとつだけ……お願いを聞いてくれますよね……?」


思い返せば、あの身代わりにしてしまった女性も、最初は不自然に硬直した私を心配して近づいて来てくれたのかもしれない。

そして、もっと不可解な老婆を見てしまい声をかけてしまった……。


新庄にしても、昼休憩にたったひとり喫煙所で昼食をとる私を心配して声をかけてくれた……。

それとも、声をかけさせられたのか……?


やはり、ここには帰って来るべきではなかった。

いや、むしろもっと早く来るべきだったのかもしれない……。


漠然とではあったが、私の中に浮かんでいた真相。

決して認めたくはなかった事実。


「ひとつだけ、教えて欲しいんだ……。」

「……なんですか?」

「その傘は、私の祖父が作ったものなのか……?」

「えぇ。……まぁ、作っただけじゃないみたいですけど……」


色鮮やかだった赤い傘の先端が、みるみると赤黒く変色していく……。

不可思議だった点と点が、線となってつながっていってしまう。


「……もしかして、あの老婆は……祖父が……。」


ニヤッと新庄が笑う。


知りたくはなかった。

私の記憶の中にいる祖父は、いつも優しく笑っていた。

でも……ついに知ってしまった……。


この不可思議な出来事の原因は、やはり私の一族の因縁によるものだったのだ。


「もう良いですか?」


私は、小さく、そして力強く頷いた。

一瞬、新庄の笑顔が以前の様な屈託のないものに見えた。


「私を…探してください……。」


それが、私の聞いた最後の言葉だった……。






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私を…探してください……。 進藤常吉 @tsunekichi

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