マホマホ☆~私は魔女になる~

主城

マホマホ☆私は魔女になる

「マホマホマホ……」


 町外れの森の奥の奥。ぽつんと佇む一軒家。

 花が咲き乱れる中庭。

 中央には白いカフェテーブル。上にはティーポットとカップが置いてある。

 優雅なティータイムが楽しめそうな雰囲気だ。


 そんな場所で私はヒミツの特訓をしていた。

 えっ、何の特訓かって? それは……。


「マホマホ! カップにお茶を注いで!」


 木の枝みたいな杖を振り、テーブル上のティーポットに命じる。

 するとティーポットがゆっくり浮かんできた。

 カップに近づいていき、真上まで来るとちょろちょろとお茶を注ぎ始めた。

 そして……カップからお茶がこぼれる直前で止まり、元の場所へ帰って行く。


「……やった! 成功!」


 私はとても喜んだ。だって、何十回練習しても出来なかったがやっとうまくいったからだ!

 あーっ、言っちゃった。もう少し内緒にするつもりだったのに。


 そう、私が今やっているのは魔法の特訓。

 私は魔女の見習いなのだ!


「よーし、じゃあこのまま次なる魔法を!」


 私はもう一度杖を握り、今度はカップに命じる!


「マホマホ! カップのお茶を飲ませて!」


 ”マホマホ”というのは魔法を出すときの掛け声。秘密の呪文みたいなものね。


 呪文に応えるかのようにカップが宙に浮く。

 私の元までやってきて、中のお茶を……。


 バッシャー!!


 と、私の顔面に浴びせてきた!


「あっぷ……! 飲ませるって……そんなダイナミックにしなくても!」


 地面に落ちたカップに対し、ずぶ濡れの顔のまま私はツッコんだ。

 残念ながら魔法は失敗だ……。


「ふふふ。頑張ってるわね、アンズさん」


 私が落ち込んでいると、誰かが庭に入ってくる。


「あ! !」


 その方は、私に魔法を教えてくれている師匠……。

 同じ高校に通っている先輩だ。



 ――師匠との出会いは今から一年ほど前に遡る。


 都立綿來士律わたくしりつ高校。

 首都東京の中心地から離れる事二時間。

 え、ここ東京なの? ってぐらいの田舎町に位置するこの学校は、知る人ぞ知る超名門の女子校だ。名前に【女子】って付いてないけど……細かい事は気にするな!


 そんな学校でトップの成績を誇るのが、三年の桃華先輩だ。


 

 頭脳明晰成績優秀。運動神経抜群。

 生徒にも、教師にも、子供にも、老人にも、動物にも、誰に対しても優しい。

 まさに完璧な人間。パーフェクトヒューマン。

 それが桃華先輩という人だった。


 だが私は見てしまったのだ。そんな先輩の隠された一面を。

 ある日の昼休み。誰もいないはずの校舎裏で……。

 

「マホマホマホ……。開け、魅惑の袋とじ!」


 先輩がちょっと某週刊漫画雑誌のちょっとHな袋とじを魔法で開けようとしているところを……。 


「瀬尾ヒロインが全員集合して、真夏の海で組んずほぐれつ……。早く見たい……! 早く……!」


 なんというか、凄く欲望にあふれているって感じだ……。

 先輩は私がいることに気付いたのか、はっとした表情でその場に固まる。 

 憧れの先輩のそんな姿を見て私は、


「――かっこいい!」

「え?」


 正直先輩の醜態なんてどうでも良かった。

 それよりも、袋とじを開ける不思議な力に注目していた。


「凄い凄い! どうやってるんですか、それ!!」

「あ、あなた……。魔法を見て驚かないの……?」

「魔法!?」


 魔法。

 その”言葉”、その”響き”に私のテンションは最高潮に達する。


「凄い! 先輩って魔法使いだったんですか!?」

「魔法使い……。まあ私は魔女だけど……」

「魔女ォォォ!?」


 ここで私のテンションは限界を超えリミットブレイクした!


「私、昔から魔女っ娘アニメ見ててそういうの憧れてたんですっ!」

「そ、そうなの……」


 もはや、袋とじを必死に開けようとしていた先輩の方が私に引いている。

 そんなことも気にせず私は腕をブンブン振って自分の魔女っ子愛を力説した。

 それはもう……文字数でいうと5万字を超えるくらい。


 ソレを聞いているうちに先輩も私の魔女愛に感心したらしく、ニコッと微笑みかけて、こんなことを言ってきた。


「……ねぇ。そんなに好きならなってみる? 魔女に」

「魔女になれるんですか!?」

「私の厳しい修行に耐えるコトができれば、ね」

「~~っ! やります! 私、魔女になります!」


 二つ返事で答える。

 こうして私は先輩――師匠に弟子入りして、魔女を目指すことになった。



 週末。

 先輩に案内された通り、私は森の奥にある小屋へとやってきていた。

 ここで魔女としての修行が始まる。


 はじめに、師匠から杖をプレゼントされた。

 杖は魔女にとっての必須アイテム。

 包丁がなければ料理が出来ないように。

 バットがなければ野球が出来ないように。

 杖がなければ魔法を使うことも出来ないのだ。

 

 ……私としては、魔女っ子アニメに出てくるようなカラフルで可愛らしいものを想像していたのだが、渡されたのは普通の木の棒。

 ああ最初はこんな感じで後々凄い良いやつになるのねと思っていたけど、師匠曰くどうやらどんなに偉い魔女になっても杖は変わらないらしい。


 ――ちょっとやる気がさがった。

 でもまあホ○ワーツみたいなもんかと無理矢理納得することにした。


「さて杏さん。貴女にはまず、魔女試験合格を目指してもらいます」

「魔女試験?」


 魔女試験。

 一年に一度行われる認定試験。

 魔女になりたい者は必ず受けなければならない、大事な試験。

 

 これに合格する事で初めて一人前の『魔女』を名乗れるという。 

 

「一年後に行われる試験に向けて、ビシバシ鍛えていくから、そのつもりで」

「ちなみに不合格になるとどうなるんですか……?」

「落第した者は……命を失うッ!」

「ええっ!?」

「……とまではいかないけど、魔女になる資格が永久に失われるわ」

「結構シビア!」

「だから魔女になるためには、相当気合いを入れなきゃいけないわよ」

「が……頑張ります!」


 生半可な気持ちでは駄目ということだ。なんか俄然やる気が出てきた気がする。

 

「それじゃあ早速魔法を教えるわね」

「どんな魔法ですか!? 口から炎出す魔法? それとも服だけ溶かす魔法?」

「そんな漫画に出てくるような魔法いきなり伝授するわけないでしょ。……そもそも、それだけの魔法を使えるほどの魔力の持ち主なんて、魔女界でもそうそういないわ」

「がっくり……」


 魔力とは魔法を使う為の力。人間誰しもが持っているけど、みんなその事に気づかぬまま生きている。

 気づいたとしてもコントロール出来ずに終わる……らしい。

 だが魔女だけは魔法の杖によってを魔力を使いこなすコトが出来るのだ! 杖何気に凄い!

 ……何で魔女だけなのって? 知らん! 細かい事はよく分からない!


「最初は魔法の基本。物を浮かす魔法を教えましょうか」

「空中浮遊!」

「試験で使う必須魔法よ。浮かせたい物に向かって、杖で指して唱えるの。マホマホ……!」


―――――――


「マホマホマホマホ……!」


 ――そして冒頭のシーンに戻る。

 私は師匠の前で、覚えた魔法を披露していた。


 コップにお茶を注ぎ、それを口に運ぶ。

 それを手を使わずに行うという魔法を、なんと私はつい先ほど成功させたのだ!


「どうですか師匠! 私はやれば出来る子なんですよ!」

「ええ凄いわ。だけど……、ずぶ濡れね」


 師匠の言うとおり、それこそ成功に至るまで私は何度も水をかぶっている。

 でも成功したのだから全部チャラだろう。


「後はもう少し魔力を制御できれば、もっと上手くできると思うわ」

「はい……!」


 運命の大一番。魔女試験はいよいよ、あと一ヶ月後に迫っている。

 問題点があるのなら、それまでに直しておかないと。


 と、ここで師匠から驚きの知らせが。


「もう練習を見てくれない!?」

「見てくれない……というか、見れないの。試験本番前の一ヶ月は、誰にも頼らずに一人で練習するって、ルールで決まっているのよ」

「じゃあ後は自主練しかないって事ですか……?」


 試験を前にして緊張が高まっている。

 こういう大事なときこそ、師匠に付いていてほしいのに。

 しかし師匠は優しく微笑む。


「心配いらないわ。今まで通りにやれば大丈夫。貴女は私の弟子なんだから、自信を持って」

「……、はい……!」


 師匠も期待してくれてるんだ。

 そうだった。私はこの師匠のもとでおよそ一年も頑張ってきたじゃないか。


 それこそ過酷な修行もしたじゃないか。

 杖を一日一万回振ったし、滝に打たれながら魔法の特訓もした。

 そんなきつい試練を乗り越えてきた自信が、今の私にはある!


「待っててください師匠! 一ヶ月後、もっと凄い私を見せてあげますから!」

「フフッ。楽しみにしてるわ♪」


 師匠からのエールを受けて、私はこれまで以上に修行を頑張った。


 そしてあっという間に約束の一ヶ月は過ぎ……。

 運命の試験当日がやってきた。


―――――――――――

 

 今日は待ちに待った魔女試験の日。

 魔女・桃華はとてもソワソワしていた。


 何故なら弟子の杏と一ヶ月ぶりに会うからだ。


 試験に挑むため修行に励んでいた愛弟子の晴れ舞台が、もう目の前に迫っている。

 果たしてあの魔女キチがどのように成長しているのか。師匠としてはもう気が気でない。


 待ち合わせ場所である公園の前で待つこと十分。


「師匠。お待たせしました」

「あら杏ちゃ――――」


 弟子の声に振り返ってみるとそこに立っていたのは。


「……筋肉ムキムキになってるーーー!!!」


 ゴリゴリのマッチョガールになった杏であった。


 一瞬コラ画像かなと疑うほど筋肉が盛り上がった上半身。

 逆に日常生活しづらいでしょってぐらいのモリモリ具合。

 それに加え引き締まった下半身。脚は以前よりスラッと伸びている。

 驚異の股下九十センチ。菜々緒もびっくり! 二メートル級の高身長!


「どうしたの杏!? そんな戸○呂弟みたいな体型して!」

「この一ヶ月、寝る間も惜しんでみっちり魔法の特訓したんですよ。……そしたらいつの間にかこの身体に」

「いやいやいや…………」


 一体どんな特訓したらそうなるんだ……。

 しかも格闘家とかならまだしも、魔女だよ……?


 桃華は弟子のやる気にちょっと……、いや、だいぶ引いている。


「それで? 試験内容は?」

「え、ええ……。『腕を使わずにミートソースパスタを作る』よ」

「……普通ですね」

「ええ。師弟でリアルファイトとかじゃなくて良かったわ。今の貴女とやったらひとたまりもなさそうだもの」

「あはは。手加減しますよ。身体が残るぐらいには」

「怖!」


 杏達は試験会場の古びた洋館へとやって来た。

 大広間には、試験官である三人組の老魔女がすでに並んで待機していた。

 三人とも魔女界では知らない者はいないほどの有名な権威である。


 真ん中に立っている白髪の魔女がまず挨拶をする。

 

「よくお越しくださいました、杏さん。今日は貴女の日頃の鍛錬の成果を存分に発揮してください」

「押忍! ごっつぁんです!!」

「魔女が言う返しじゃない……」


「試験内容は把握していますね? テーブルの上にパスタ作りの材料一式が置いてあります。それに手を触れずに、魔法の公使だけでミートソースパスタを完成させる。これが今回の試験です。制限時間は30分。準備ができ次第始めてください」


「分かりました。じゃあ、音楽ミュージックスタート」

「は?」

「マホマホ!」


 デン! デン!

 杏がそう言うと、どこからともなく音楽が流れてきた。

 アメリカの某ロックバンドによる有名な曲だ。


 杏は曲のリズムに合わせてパスタを作り上げていく。

 時々ファイティングポーズを決めながら。

 その度に白い歯を見せて笑顔を見せる。調理には関係ないけど……。


 勿論ただ無駄にポージングしているだけではない。

 こんなコトをしている間にも、着々とパスタはできあがってきている。


 手を使わずにお湯を沸騰させて麺をゆで……。

 ゆであがったら水切りをしてすかさずお皿に盛り付ける……。


 ココまでは完璧。いよいよ最後の仕上げだ。

 ミートソースの缶詰を開けて、それをかければ完成する。


 既に缶詰がお皿の上に待機している状態。


 曲の盛り上がりも最高潮。

 サビに入るその瞬間に杖を振って、ソースをかける!


 イッツマイ――


「ヤーーーーーー!!!!」


 パァァァン!


 思い切り缶が爆ぜた。

 中のミートソースが飛び散る。まるで鮮血のように。

 赤い液体が部屋中の壁を、床を、試験官達の顔を染めていく。

 試験会場はあっという間に凄惨な事件現場のようになってしまった。


(これは……ダメか……)


 桃華は天を仰いだ。


 パスタの調理は失敗。

 さらには魔女界の権威である老魔女達の顔に泥を――いや、ソースを塗ってしまったのだ。叱られるレベルではすまない。

 間違いなく試験は不合格。杏が魔女になる権利は永遠に失われる……。


「……素晴らしい……」


 と、思っていたのに。

 試験官達はみな杏に対して拍手をしていた。


「缶を破壊するほどの魔力……」

「今の時代、あれだけの魔力を持つ者は滅多にいませんよ」

「ええ。彼女はこれからの魔女界を担う存在になるかもしれないわ」


 試験官の意思は決まった。


「「「合格です! あなたの力でどんどん活躍していってください!」」」


「えぇ……?」

 

 弟子への手放しの賞賛に一番困惑する桃華。


 一方満場一致の合格をもらった杏は、どこか遠くの方を見ていた。

 念願の魔女になれて、嬉しさが爆発してるはずなのに。

 逆に何だか落ち着いている。


「……杏さん? どうしたの?」

「師匠……。私、今までの修行を経て、気づいたことがあるんです」


 杏は右拳をギュッと握って、胸に当てる。


「魔法で一番大切なもの……、それは……力!」

「ん?」

「力があればどんなに大変な試練でも乗り越えられる! 皆を笑顔に、そして健康にできる! 溢れる力こそパワー!」

「あれ……?」


「私はこれからもこの力を使って乗り越えていきます! どんな困難も、グーパンで!!」

「○ッシュルみたいになっちゃった……」


 『魔法=パワー』という考えは魔女の世界の常識を変え、杏は魔法世界の革命家に成長していくのだが、それはまた……別の話。







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マホマホ☆~私は魔女になる~ 主城 @kazuki_isiadu97

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