第4話 小屋を入手

「やったあ! これでゼンも私たちの仲間ですね!」

 チャンカナは喜んでいるが、俺はマスターと占い婆さんの方を見た。

「今日から仲間、という事でいいのか?」

「ゼンさん――いや、ストッKINGの力は、きっと我がギルドの役に立つ事でしょう」

「そうじゃそうじゃ、この男は逃したらいかん!」

「じゃあよろしく」

 握手の為に差し出した俺の手を、ソッと触れるだけのマスター。いきなり心の隔たりを感じてしまった。

 まぁいい。

「マスター、早速だが仕事と宿が欲しい。十万円しか路銀が無くてな」

「仕事ならロビーの掲示板で好きな依頼を選ぶといい。あちらこちらでモンスターの被害が出ている。宿は――失礼だがその臭いだと、どこからも断られるだろう。私の使っていない小屋があるから、そこにするかね? 窓も無ければ水も通っていない物置き小屋だが……」

「是非とも」

 俺は、まず小屋へ案内してもらう事にした。明るい内に寝床を作って安心し、それからモンスター退治に行きたいからだ。

「チャンカナ、お前はロビーで依頼を選定しておいてくれ」

「何でですか? 私も自分が寝起きする場所を見たいです!」

「水も無い小屋よりは自宅の方がいいだろう? ギルドも一緒だし、通ってくるといい」

「嫌です! 私は神様にゼンと協力するよう言われたのですよ! それに、夜間のスメルズゼットにも多大な興味が――」

「ああもう! 解った解った! じゃあ付いてこい!」

「はい!」

 小屋暮らしはどうかなと思ったが、本人が望むなら仕方ない。俺はチャンカナを伴い、マスターの後を付いていく。


 その小屋は、大きい公園の隣にあった。中にはこの世界のスポーツ道具が入っていて、でも今は使っていないそうだ。

「道具は処分していいから好きに使って。これ、鍵ね」

「ありがとうございます、じゃあ遠慮なく」

「ではまたロビーで」

 そう言うと、マスターは去って行った。俺は早速、室内に入ってみる。

「よしよし。小屋と言っても、スポーツの道具さえ処分したら、そこそこ広いじゃないか」

 間仕切りを立てれば、二部屋は確保出来そうだ。なので早速スポーツ道具を小屋の外に出そうと思ったら、スメルズゼットが咳払いする。

「その一件は儂に任せてくだされ!」

「掃除をか?」

「この道具に儂を宛がってくだされば、散り散りにして吸い込みますぞ!」

「そんな掃除機みたいな……お前の力だと床板まで斬っちまうんじゃないか?」

「木人と岩で感覚は得たでござる! またの機会がありますれば、おが屑も砂も出しもうさん!」

 じゃあ物は試しと、野球のバットみたいな物にスメルズゼットを宛がう。するとバットだけが消えた。不思議なものだ。

「かっかっか、ゼン殿のストッキングのお陰ですこぶる快調!」

 スメルズゼットの新たな力に、チャンカナの記録が始まっている。とても楽しそうだ。なので、邪魔しないよう他の道具も吸いに掛かる。

「頼むぞ、スメルズゼット」

「応!」

 俺は音も無く吸い込まれていく道具たちを見つつ、我ながら凄い兵器を覚醒させたものだと思っていた。軽いから長時間持っていても疲れないし、喋ってくれるから使いやすいし、斬るだけじゃなくて様々な用途に使える。難点はデカすぎるのと口臭くらいか。でもまぁデカいのは長所でもあるし、口臭は上の中、臭いに耐性のある俺なら、ちょっと気になる程度だ。

 そう考えているうちに、スポーツ道具とやらは全て無くなっていた。ここにベッドでも置けばいいだろう。

「おいチャンカナ、買い物に――ん?」

 いつの間にかチャンカナが居ない。てっきりスメルズゼットに夢中かと思っていた。携帯が無いので連絡も取れないし、俺は小屋の片隅に座ってチャンカナを待つ。すると、異世界で独りぼっちという感じがして不安になってきた。こちとら両親の庇護のもと、五年もニートをやっていたのだ。

「ゼン殿? やけに静かでござるが……?」

 俯いていた俺に、スメルズゼットが声を掛けてくる。そうだ、俺にはコイツがいた。

「例えチャンカナに捨てられても、俺は一人じゃなかったな」

「かっかっか! ゼン殿は大船に乗ったつもりで居てくだされ!」

「そう、そして俺にはストッキングもある……幾らでも出てくる無限のストッキングが……出でよ! チャコールグレー二十五デニール!!」

 天高く手を伸ばせば、ムニッとした感触。引っ張りだすと望みの物が手に入った。

「この大人びた色……タイツとの境界線になる厚み……最高じゃないか……!」

 俺は重ね穿きは五枚までと決めていたが、異世界だし六枚目があったっていい。そう思ってハーフパンツを下ろしたら、聞き覚えのある悲鳴が上がった。現れたのはチャンカナだ。

「ゼン! いきなり脱いでいて驚きました!」

「驚いたのは俺だ! 何も言わず、急に消えて!」

「ごめんなさい、作業の邪魔になると思いまして!」

 チャンカナの手にはバケツと雑巾があった。水も汲んで来たようだ。

「さ、これで小屋の中を拭きましょう! 住むんですからね、きっちりと!」

「ええー……面倒だな。寝られればそれでいいだろう?」

「ダメです! 天井、壁、床の順に拭きますよ! 埃は上から下に落ちるんです!」

「天井って……脚立も無いのにどうやって拭くんだ! 身長が足らんわ!」

「……便利な兵器があるじゃないですか?」

 チャンカナの視線がスメルズゼットに注がれる。

「この剣先、雑巾を挟むのに丁度いいと思うんです!」

「おいおい、伝説の兵器にそんな事を――」

「儂は構いませぬぞ! ささ、雑巾を挟みなされ」

 当の本人がそう言うので、俺は剣先に雑巾を挟んだ。そうして天井を拭けば、とても綺麗になる。あまりにピカピカなのでチャンカナも驚いていた。

 俺はスメルズゼットを床に置き、雑巾を取る。雑巾は真っ白のままだ。

「おい、どうやって天井を拭いたんだ?」

「剣先から蒸気を出し、雑巾に汚れを吸わせるでありましょう? その汚れを分解したのじゃ!」

「便利な家電だな」

「カデン?」

「いや、こっちの話。じゃあついでに壁と床も頼むぞ!」

「心得た!」

 また新しい能力が判明して、チャンカナも喜んでいるだろう。そう思っていたら、彼女は床に正座し、五指を組んでいた。

「クサル神さま、我らに明るい道をお与えください……」

 チャンカナはそんな風に呟いたあと、すっくと立ち上がる。

「……なんだ今のは?」

「クサル教徒は決まった時間に祈るんですよ」

「へぇ……」

「一日に三回、朝、正午、夜って感じですね」

「今は正午か?」

「そうですよ!」

 俺は元の世界で夜メシを食い損ねている。そこから何時間経過したのかは判らないが、昼と聞いて腹が鳴った。

「掃除が終わったらメシを食って、寝床を買いに行くか」

「はい!」

 チャンカナの良い返事を聞いてから、俺はまた掃除に戻る。すいすいスメルズゼットを動かすだけなので簡単だ。


 やがて、掃除が終わる。

 俺はスメルズゼットを鞘に収めてから、メシを食うため街中に向かった。しかし、臭いのせいか道行く人が避けていくので参ってしまう。これだと入店拒否は間違いない。なのでチャンカナを派遣し、テイクアウトのクレープ風な何かで済ませる。

 家具屋でもそうだ。俺たちが店に入ると、客がサーッと逃げていく。わずかに残るのは店員のみ。全員が鼻にティッシュを詰めている。

「すまん、今すぐ寝床の類が欲しいんだが。布団かベッド、どちらでも」

「フトン……? ベッドなら取り扱っておりますが」

「ああ、こっちには布団が無いんだな。じゃあベッドで」

「ベッドは職人が組み立てに参りますので、今すぐと言うのは……申し訳ございません」

 なんという事だ。俺は小屋の床で寝なければならないのか。しかもベッドの値段を聞いたら、一台十五万円もした。つまり俺に必要なのは――あっちこっちの家具を面白そうに見ている、チャンカナの分も入れて三十万円。予算を大幅に上回っている。

「手持ちが足りないけれど、寝床風にはならないか?」

「ではベッドの上に敷くマットをお持ちになったらいかがでしょう? ベッド本体を後で買うなら無駄にもなりませんし」

 マットの厚みは七、八センチくらい。幅はシングルで九十センチ。とりあえずはコレでいいだろう。

「値段は幾らだ?」

「一枚四万五千円でございます」

 高くないかコレと思ったのでチャンカナを呼ぶ。しかし、この世界では良心的な値段だと聞いた。

「……そうか、二枚で九万、そうかぁ~……」

 必要経費だというのに思い切れない俺。そこに店員が近寄ってくる。

「いまお買い上げになられましたら、すぐご指定の場所までお届けしますよ!」

「この商売上手が! 南にある公園の隣の小屋まで頼む!」

 これで俺の手持ちはクレープを食べたため一万円以下だ。この金額だと、シーツもタオルケットも枕も買うのが憚られた。小屋にはポツンとマットだけが置かれるのだろう。その装備だと、俺はちっとも落ち着かないと思われる。引きこもっていたいが、嫌でもギルドの仕事をするしかない。

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ニートの引きこもり、今日も大好きなストッキングを重ね穿き! もう三週間は風呂に入っていません! ~異世界転生したら最強3K冒険者『ストッKING』になりました~ けろけろ @suwakichi

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