9月19日
あれから、一度も先輩を見ていない。
何度ここに来ても、何も変わっていない。
そろそろ現実に向き合うべきなんだと、嫌でも思ってしまう。
◆◆◆
今日は一週間ぶりにここに来た。
あの日から、頭の中に嫌な音が、ぐるぐると響き渡っている。
冬海先輩なんて、最初から俺の妄想だったんじゃないか。
そう思わせられる程、先輩の面影が跡形もなく消え去っていた。
ここに縛り付ける訳にはいかない、そう先輩は言っていた。
先輩のためにも、ここに来るのはもうやめよう。
と、何度も思った。
でも、押し寄せる後悔と、哀れな期待が俺の手を引いてくる。
俺を想ってくれた先輩の気持ちすら無下にしてしまう自分に腹が立つ。
と同時に、何処か慰めを求めている自分もいる。
俺は何度ここに来れば気が済むんだ。
いつ、あの日の事と向き合えるんだ。
頭の中の嫌な音がどんどん大きくなる。
俺は、いつになったら―
ピッ―
ガラガラッ
ガタンッ
誰も触れていない自販機が、音を鳴らした。
ぐるぐると鳴り続けていた俺の頭の中の音は、その自販機の音に吸い込まれるように消え去った。
自販機が吐き出したのは、この季節にはまだ早い、暖かい缶コーヒーだった。
自販機の横で、胡座をかきながらニヤニヤと笑う先輩が、
見えた気がした。
◆◆◆
ニヤニヤしてる先輩を思い出して、決めたことがある。
俺は、明日も明後日もここに来よう。
今までみたいに、情けない顔をして来るんじゃなくて。
笑顔で。
ここに縛り付けられずに、先輩に会いに行こう。
まだ暑さが抜けきっていない9月の空気の中、缶コーヒーを啜った。
自販機に行くといつも居る女の子に恋をした話 めんたい粉 @rntry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自販機に行くといつも居る女の子に恋をした話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます