アナリティクス

白川津 中々

◾️

「その、彼女とできなくなったらさ、別れるか?」




急に居酒屋に呼び出されたと思ったらくだらないお悩み相談。高校生か。




「相互に承知していたうえで契約を結んでいたにも関わらず履行されないのであれば関係見直しの材料になるんじゃないか?」


「そういうんじゃないんだよ僕が求めてるのは」


「だったらどういう返答を求めているのか事前に伝えておくべきだぜ」



長い付き合いだが、こいつは未だに察して欲しいとか行間を読めとか俺に言ってくる馬鹿な奴である。それこそ、いい加減に察しろと言う話だ。



「……彼女が最近、拒否するんだよ」


「なんか怒らせたんだろ」


「思い当たりがない」


「本人に聞けば早いぞ」


「恐いんだよ、何言われるか分からないし、もし別れ話になったらって思うと……」


「なんだ破局は避けたいのか」


「当たり前だろう。愛しているんだから」


「愛がどんな感情なのか分からんが、その愛とやらがあるにも関わらず、お前は"性行ができない場合の男女関係解消は是か非か"といったような事を聞いてきたのか。もはや答えが出ているようなものと違うか?」


「愛しているからしたいし、別れたくない」


「性行できない場合は愛が減ると」


「……満たされなくは、なる」


「言葉を誤魔化すな。素直に性的欲求の発散できない状況が耐えられないと言え」


「君は本当に情緒がない奴だな」


「愛も恋も専門外だ。LHCについてなら大いに感情的に感動的な話をしてやるぞ。あのトンネル内に陽子が超高速でぶっ飛んでるんだ。堪らんね。あぁ、断面図を見たい……半径と直径を測りたい……」


「君の話はいい。僕の悩みだ」


「相手を間違えている」


「他に友達がいないんだよ」


「俺が言えた事じゃないが、寂しい奴だな貴様は」


「その寂しい友人が困ってるんだ。アドバイスでもしてくれ」


「だから、専門外だよ。俺から有効な助言ができるとは思えん」


「なんでもいいんだ。今の僕に必要なのは外的働きによる心の機微。考えるきっかけにさえなればそれで満足だよ」


「あまり生産的とはいえんが……まぁ、率直な意見を述べるのであれば最初に言った通りだ。肉体関係が貴様にとってのメリットであり、それがないのであれば解消してもいいんじゃないのか」


「でも、それ以外は普通なんだよ。それに別れるったって情もあるし」


「だったら今のままでいいだろう」


「それができないから相談してるんだろ!」


「知るか馬鹿。そんな事より見ろよ、このちくわの穴、限りなく真円に近いぞ。いやぁ、美しい」


「穴なんかどうでもいいだろ!」


「貴様の悩みだって穴の話だろ!」


「あ、なんて最低な奴だ君は!」



もみくちゃ。喧嘩となりお開き。いつもの事である。

後日聞くと、結局女が浮気をしていたらしい。くだらない話だ。人間なんて自分以外他人じゃないか。どうして関わり合おうとするのか理解できない。あ、しかしそれでいったら俺もメリットなしで奴に付き合ってやっているのか。俺も度し難いものだ。もしやこれが恋か。だとしたら、なんとも生産性のない。いや、ケツなどに興味はないのだ。やはり俺は、πでも測っている方が性に合っている。




……






……そういや肛門も穴だな。





……




そうだな……

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