第22話(最終話) 科学的考察の及ばぬ秘密ノ誘惑
「ふむ――、君が見たのは
得心したように頷かれた。そう――、きっとそうなのだ。
私が見たのは、世界の終わり、その時に吹き抜ける大暴風――
京都伏見――、
明治年間に出来た煉瓦造りの司令部。京都を
それでも、本部である師団司令部は今日も静かなもので、私はここの師団長閣下に面会していた。
陸軍中将、
現在、石原閣下は中央から左遷の体にあり、つい二、三ヶ月前に師団長に任じられた。
落ち込んでいるかと思っていたが、私の報告を聞き、意気軒昂とした様子だ。
「それで、鈴木はこれから――?」
「はっ、新井氏を軟禁し、情報の独占と政治工作、近衛氏を総理に推薦する動きを加速させるようです」
「ふん――、やはりキツネよな。奴は、いつも体の良い所に居たがる風見鶏だ」
石原が感情的に侮蔑した。
「いくら情報を独占しても、先行きが見えないようでは、これはただの駄文なのだ。
「ええ」
――嘘をついた。
甲斐にも、鈴木閣下にも、嘘をついた。
これは、私達が観たい鏡像ではない。
この世を変えようとする、
甲斐は、神意が胸に写った時も
声も、言葉も、聞かなかった。
きっと新井君も観ていないだろう。
だが、私は観た――、聞いた――。
「世界統一――。この欧州戦争のみではない。何れ来たる人類最大の課題解決は、畢竟あらゆる知力、科学力、精神力を総動員した大闘争に寄るしか途はないのだ。それこそが、世界最終戦争――」
石原の独特の思想――。
いや、『
そこに宗教的装いが、強烈な印象となって彼の口から紡ぎ出される。
感化される将軍、有志は多い――。
「何れ一発で都市を破壊する――、記事ではニュークと言ったな。君が見たのは、この世の
瞼に焼き付いて、耳に焦げ付いて離れない。
身を焦がす塗炭の苦しみはあれど、光景を観て、音を声を聞いたのだ。
世を覆う破滅の風。
末法の世に相応しい叫喚の大地。
天より下りし、神々しい光のさざめき。
それは、地獄かユートピアか。
「
――そう、それが全ての元凶。
正体不明だからこそ、皆、懊悩し、振り回される。
「でも、私には分かります」
「ほぅ――、それは」
「これは、きっと
勝つのは我らぞ――。
声は確かにそう言っていた。映し出す鏡像は、全てこの国に警鐘を鳴らし、あわよくば有利に働かせている。
だが、この国の、国民の生存へ向けて――、という具合ではない。
一時は英米と和平を結ぶ方向かも知れないが、私が見た
きっと何れの時にか、この国を破滅という名の大暴風に晒し、その後に歓呼で迎えられる永久平和を実現しようとしているのだ。
「世界統一に失敗した、未来の怨恨――。俄に得心は出来ぬな」
石原閣下としてはそうだろう。
彼の宗教的に信ずるところと、私が見たところ、聞いたところ、感じたところは、必ずしも一致するものではない。
「今の宗教否定の風潮はあまりに強く、予言は世迷い言、無知蒙昧で非科学的なものと断ずる声が多い。だが、人間の脳細胞など質も量も限られており、あまねく宇宙を科学的に検討するなど限界があるに決まっている。宇宙森羅万象を理解出来るのはほんの一部に過ぎぬ。だから――」
しかし、一致する所もある――。
「――宇宙には霊妙の力があるのだ。人間も宇宙霊妙の一部。つまり、この霊妙な力を使い、
そうだ、――私は、神意を解明し、声に応えるのだ。
嗚呼――、
紛うことなき、霊妙の由。
きっと未来に絶望した神様か、お釈迦様が、今を変えろと告げているのだ。
『未来』が『過去』である『今』を変えようとする――、言わば『逆因果律』の
この戦争はこのままでは負ける。だが、それは世界の統一も、永遠平和ももたらさぬ。
真の理想郷が顕現するには、
人智を超えた領域に、私は全てを委ねる――。
宇宙霊妙の力は、私を、いや世界を
その先を――、私は観たい――。
了
科学的考察の及ばぬ秘密ノ誘惑 月見里清流 @yamanashiseiryu
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