短編 殺りに行く

海月

殺りに行く

男の子をりに行く 

昼食は後回しで

恋しちゃったから 

夫には絶対に秘密な……


校門の少し手前で

隠れるように待ちぶせる

それから落ちついて

すれ違いざまに狙うのだ

殺意をさとられる 

はずなんてない

だって私は

いつもどおりの普段着で

ビニールのサンダルで

小走りにぶら下げて来た

スーパー用の買物籠で


中には昨日の新聞紙で

分厚くくるんだ包丁

かなわない想いが

血濡れてしまう──凶器



🔰 🔰 🔰 🔰 🔰 🔰

あ、やって来た。周りを気にしてうつむきながら。

やっぱり私と会うのを恥じてるのね。……憎い。

あ~、でもあの初めての恰好、なんて可愛いの。飛びついて抱きしめたくなる。

だけどそれは駄目。ちゃんと成功させなくちゃ。


動悸を打ちだした胸を抑えながらすべらせ落とした右手で、私は買物籠の新聞紙包みを素早くつかんだ。と同時に近づいて来た息子のキッチンエプロンごと激しく引っぱり寄せ、

大きな前ポケットへ新聞紙を突っこんだ。


「か、母さん…」


一瞬にらみ上げられて驚いた、顔の真近さ!



いつのまにかこんなに大きく育った息子はこの春、気になる女の子に誘われた調理クラブへ入部したのだった。それでキッチンエプロンも買ってやったのにつけあがり、今日は肝心な包丁を忘れたから持って来てくれとのラインがあったのだった。


無言のままに私は素早く息子の脇を離れ、歩きだす。



フンだ、カッコつけのバカ息子め。今から女の子にデレつくようになっちゃって。

今日のクラブの献立カレーだって、どうせその子とイチャイチャ作りたいだけよ。だから私も、今夜のメニューはカレーにしてあげるわよ。あんたらのおままごととは年期が違う母の味で、た~んと口直しさせてあげなくちゃですもんね~だ。


恋心はズブッと殺れたかどうだかわからないが、なじみのスーパーへと私は向かいだしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編 殺りに行く 海月 @medusaion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る