地上にて
あれから三ヶ月が経った。
俺達はあの後、奇跡的に助かる事ができた。
彼の持ち物や身につけている物、そして仲間の変貌ぶりに驚いていて忘れていたのだが、俺達は彼の持っていたローションが食べられるものだった事を思い出し、それも口にすることで更に2日後に吹雪が止むまで耐えることが出来たのだった。
仲間が、普段は飲ませるばかりで自分が飲むのは初めてだなと言っていたが疲れていたのもあって無視することにした。
だが、きっとあの時のやり取りのおかげで気力が回復したという部分もあるように思う。
そして何とかベースキャンプまで戻り、待ってくれていた皆に彼が命を落とした事を伝えた。諸々を隠して。
悲しんでいたが、やはり俺達が戻ってきてくれて良かったと喜んでいる。
ほとんど諦めていて、次の日には降りる予定だったようだ。
そして帰国すると報道陣に囲まれて、様々な事を聞かれたが、失った仲間の食料を食べ、何とか凌いだというに留めた。
彼のご家族にも、挨拶を、そして謝罪をしたが彼も本望だと思いますと仰っていた。当然ドMであることは伝えなかった。
そして今、手記を出版するために、原稿を書いているところだ。
きっとそれにも本当のことは書かないだろう。あれは俺達2人だけの秘密にしようと考えながら、あの時を思い出していたが、ふと気付いた。
しっかり防寒着も脱がした状態のままにしていたから、彼はあの山で、裸のまま貞操帯をつけたまま亀甲縛りで寝ているのだ。
とはいえ、また登頂するというのも厳しく正直もうやりたくないというのが本音だ。
まあ、でもいいんじゃないかな?彼はMだし。たまたま辿り着いた登山者に見せつけてほしいと思いながらまた筆を走らせた。
雪山にて ボラギノール上人 @shiki1409
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