雪山にて2

「何書いてんだ。」

「手記だよ。もし俺がここで死んでしまっても、奇跡的に誰かが来たら俺達が一番最初に頂上に辿り着いたことが分かるだろ。」

「そんな事言うなって。まだ助かるさ。」

「念の為だよ、それにだ。」

 と言って、俺が座っている左隣を見た。

「既に1人こうなってる。」

 その先には仲間が1人横たわっており、もう既に事切れてしまっている。


 頂上から下山中、突然前も見えないような猛吹雪が降ってきて、何とか手探りで少しずつ進みながら歩いていくと奇跡的に岩肌に空いた小さい穴を見つけた。

 3人で急いでその穴に潜り込んで、吹雪が止むのを待っていたのだが、なかなか止まずに2日が過ぎたところで1人が倒れてしまった。そしてそのまますぐ息を引き取ってしまった。

「やっぱりあの時、既に体調が悪かったのかもな…。」

「そうなのかもしれないな…。本当に突然でどういうことなのか分からない…。」

「確かに…。だが、俺たちがこいつを連れて帰る事は出来ない。だから俺達が何とか下山して家族に伝えてやろうぜ。」

「そうだな…その為にも、食料はどれぐらいある?」

 と、俺が尋ねるとこれだけだ、と小袋に入ったナッツを一つ見せてきた。

「それだけか…ちなみに俺はこれだけだ」

 と言ってプロテインバーを2本見せた。

「まじか…大分きついな…。」

 たまたま、ガスバーナーを持ってきていた為、飲み水が氷を溶かすことで賄えるが、そろそろ食料が底をつきかけている。

 吹雪が止む様子もいまだに無く、いつ止むかなんて事も当然わかる訳がない。

 最近は、天気も分かるし万全で登頂に挑んだのだ。

 まさかこんなことになるとは誰も想定していなかったが、この不運の中で奇跡的に見つけたこの小さな穴が今の俺達を救っており、それは感謝するしかない。

 これが無ければ既に俺達は死んでいたのだから。

 とはいえ、おそらくここもまだ高度で言えば8000mを超えている。

 今までであれば、既にここでも世界最高峰の頂上にいるような環境なのだ。

 普通であれば、何日もいるべき場所では無く、なるべく早く降りないといけない。


「なあ。」

 そんな事を考えていると、また仲間が声をかけてくる。

「俺達がまず生き残らねえとだよな。」

「どうした、いきなり。」

「いや、俺達が生き残る為だ。こいつの食料を貰わないか?」

 と、横たわっている仲間を指差した。

「でもな…」

「もう、罪悪感を感じるような状況でもないだろ?それで死んじまったら伝えてやる事もできねえぞ」

「…そうだな。」

 俺たちは彼に手を合わせ、心の中で申し訳ないと謝罪をしながら、バックパックをひっくり返し、中身を全部出した。

「おい…何だこれ…何だこれは!!」

 仲間が叫びながら、その中の容器を一つ手に取る。

「いやこれ…おいおい…」

「いやこれ、ローションじゃねえか!!!!」

「え?何?どういうこと?」

「いや、だからこれローションじゃねえか!!!何でこんな大事な登山の!大事な登頂で!!ローション持ってきてんだこいつは!!!」

「ごめん、ちょっとまだ理解できてないんだが…」

「だから!こいつは摩擦を軽減させる事が出来て、本来潤滑しない部位を潤滑させたり!しかもこれは食べられて甘い匂いのするやつだから!舐め合ったりしちゃったりするローションだろうが!!」

「ちょ、ちょっと落ち着けよ…そんでちょっとお前詳しすぎないか?」

 しかし何で彼はこんな物を…、と他の物を見ていると、変なものが目についた。

「こんな物もあったけど、これは何だ?」

「お前…これお前…」

「いや、これボールギャグやないかい!!!!」

「え?なんて?」

「いや、だからこれボールギャグやないかい!!!ボールの両端に紐が付いていてそのボールを咥えさせて紐で固定するやつやないかい!!そんで、口を閉じる事も喋ることもできなくなる上に、ボールに穴が空いていて、そこから涎が垂れ流される事で恥ずかし恥ずかしになっちゃうボールギャグやないかい!!!」

「え?何で口調変わっちゃったの?それになんでそんなに饒舌になっちゃうの?」

「こいつ、他に食料っぽいもの持ってねえよ!!どうしてくれんだ!!」

「と、とりあえず一旦落ち着けって、余計に体力減らしちゃうから。な?」

「せめて俺らに服くれよ、寒すぎるって。」

 仲間がそう言いながら、服を脱がそうとするのを、流石にそれは…と止めようとして掴んだ手がそれて、仲間の手が彼の下半身に触れたところでコツンと音が鳴った。

「おいおい、まさかそんなはずは…そんな訳ねえだろ?そんな訳…」

 と、言いながらズボンを脱がしていく仲間が全部下ろしたと同時に呟いた。

「やっぱり、やっぱりやないかい…」

「今度はどうした?」

「いやこれ…いやこれ貞操帯やないかい!!!貞操帯全体で押さえ付け、外界から完全に隔離することで自由を封じるやつやないかい!!小型に作ることで抜き取れなくする上に、勃起した時に適度な拘束感と苦痛を与える貞操帯やないかい!!!」

「しかし、こいつこんなの付けててトイ…」

「排尿は穴が空いているから出来るやないかい!!!ただ構造的に座位を強いられるやないかい!!!!それが貞操帯やないかい!!!」

「詳しすぎて、ちょっとお前にも引いてるんだけど…」

 そしてその貞操帯の脇からロープが見えた。

 と同時に仲間が鼻息荒く呟いている。

「まじかまじか…やりたい放題やなこいつ…ほらほら…あーやっぱりねほらほら…」

 と上半身を脱がせているこいつも完全にやりたい放題だ、後怖い。

「いや…これほら、いやいや…」

 あ、助走が来たなと思っていると、案の定叫び出した。

「いや、やっぱりこいつ亀甲縛りしてるやないかい!!!緊縛プレイの代表的な縛り方の亀甲縛りやないかい!!見た目の派手さほど拘束力はない亀甲縛りやないかい!!だからどちらかといえば、羞恥心目的やないかい!!!なお菱縄縛りと混同するケースが多いから注意が必要やないかい!!!」

「これってツッコミをしてるの?それとも解説してるの?なんなの?」

「ていうか…ていうか…いやいやいや…」

 上着のポケットから取り出したメモを広げながら呟いている。

「まだなんかあるのか…?」

 と、言いながらメモを除くとこう書かれていた。

“この世で一番高いところで自分でしてきなさい!それまでは何もしてあげないから。”

「こいつただのドMやないかい!!!!」

「お前はお前で多分Sだろ!!!」

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