第2章 牛人の国 コリーナ
第14話
「もぉ一杯どうだい」
「こっちのもいけるよ」
「この焼き菓子、売り物にならないやつだけど、よかったらどうぞ」
トリル達は、たくさんの
「スー……他種族間の交流は、あまり盛んじゃないんだよね?」
「そのはずなのですが……」
ミルクが注がれた木の杯を受け取りながら、スーは小さく言った。
トリルはあらためて周囲を見渡してみる。チェーロという名の街は、人族の街とは随分違った。街を囲う石壁は低く、
アインはと言えば、広場の一角で大柄な
「やるなぁ、若いの!!」
「
周りが囃し、当人達も汗だくになりながら笑って体をぶつけあっている。
「びっくりしたでしょう、急に囲まれちゃって」
トリルとスーが座る円卓に、皺の多い茶色い顔をした
「あの、実は私、
「
クスッと笑ったトリルに微笑みを返し、女性は「それに」と言葉を次ぐ。
「あんなにきれいな白い毛並みを見ちゃったら、細かなことは気にならなくなっちゃうわよ」
女性はアインの方をうっとり見つめる。周りを見ると、確かに、白と言えるような毛並みの
「白い毛色には、何かいわれがあるんですか?」
「
トリルとスーが互いに目を合わせる。
「サルヴァトーレ――って、私達が知ってる英雄と同じ名前だよね。肌の色はともかく、白馬にまたがってるし……何か、繋がりがあるのかな」
「可能性はありますね。種族が違っているのに似通った言い伝えがあるなんて、不思議な感じがします」
「もらうぞ」
トリルが持っていた杯が宙に浮いた――と上を向くと、それを奪ったアインがそこにいた。いつの間にぶつかり合いを切り上げて来たのか、アインはぐっと杯をあおり、
「あの体格だけあって、
アインは膝を折り、二杯目のミルクを口に含んだ。
「随分抵抗がないなと思ったら、そういえば、
「ああ。カストラートの襲撃から逃げ延びた俺は、ルーラードという
手ぬぐいで汗を拭きながら、アインが言葉を紡ぐ。
「それって、コリーナのどの辺りなの?」
「北の方だ。山の名は知らん」
「北の山といったら、モンテ山だろうね」
別の女性が話に入ってきた。ミルクの女性は角が短めで横に伸びていたが、こちらの女性は角がそれより長く、上の方に伸びている。牛の頭に人の体というイメージしかなかったが、よく見ると角にもみな違いがあって、個性があった。
「そうなのか? あの辺りは山が多かったし、俺の知己も山の名など言っていなかったように思うが――」
「でも、アインが過ごした山がモンテ山だとしたら、危ないんじゃないの? 例の怪しい人物が近くに住み着いたっていうことになるから……」
「もしかして、アンタ達、最近北の方で悪さしてる連中に心当たりでもあるのかい?」
三人は、無言で頷いて応えた。
「それなら、ちょっと相談に乗ってやって欲しい奴がいるんだよね――カデンツァ! カデンツァはいる!?」
女性の呼び声に応えて姿を見せたのは、体の大きな
「お客人方! 是非とも話を聞かせて頂きたい!!」
圧倒されながらも、スーが代表して情報を提供する。コリーナで
「なるほど――合点がいった。ヌヴォロの街に繋がる北の道を通っている途中、何者かに襲われて荷を奪われた、という話が増えていたのは、それが原因だな」
「実際に被害が出ているのですね」
「うむ。被害は食料の類を奪われたというのがほとんどで、命に関わるような事件は起きていないんだがね。ただ、このところ頻繁に発生しているものだから、行商人達が怖がってしまって」
「他に道はないの?」
「ない。この国で大きな街といえば、ここチェーロと北のヌヴォロだから、ここの流通が止まってしまうとうまくないんだ。実際、ほら、そこにいる連中は足踏み状態さ」
カデンツァが手で示した先には、なるほど、見るからに大荷物を傍らに、暗い表情をした三人が居た。
「今年のチェーロ印の果実水は、角がふやけるほどに良い出来で、早く運ばせてやりたいんだが」
「では、俺達が彼らの護衛に就くというのはどうだ」
アインが口を開いた。
「見ての通り、俺達は戦働きに慣れている。モナルキーアを出てから、
その言葉に、近くにいた人々がざわついた。聞こえてくる言葉の端々を聞くと、どうやらアイン、つまり白い毛並みの
「しかし、何の報酬もない、というわけにもいかないのだろう」
カデンツァが苦笑する。
「人族の取引というのは、そういうものだと聞く。何かを与える代わりに、何かを得る。私達
恥ずかしながら、とスーが口を開く。
「私達人族の取引とはそういう文化です。しかし、私達は旅の身。次の街に行くついで――という言い方では失礼かも知れませんが、旅の道連れに荷運びの方々がいらっしゃっても、何もおかしいことはないと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます