かくれんぼ

チャーハン

御神木

 突然ですが、貴方は寝る時に見た夢を覚えていますか?

 三十秒ほどでいいので、思い出してみてください。


 ほら、中々思い出せないですよね。

 見た夢と言うのは、基本的に忘れてしまいます。

 夢は記憶整理や感情整理に人間が生理的に行う現象です。


 そのため覚えていないのは至極当然です。


 ですが、見た夢を覚えているという人も意外といるんです。

 例えば、死ぬかもしれない夢。

 

 道を歩いていたら突然腹を包丁で刺されたり――

 山道から無意識に飛び降りてしまったり――


 そんな夢を見た時は、嫌な風に記憶が残りますよね。

 人間と言うのは、悪い夢が記憶に残りやすいのです。

 いうなれば、生物が長生きする為の術と言えるでしょう。


 さて、前置きはこの辺にして本題にうつりましょう。


 私は小学校一年生の頃、山梨県で生活しておりました。

 自然に囲まれた場所で、富士が見えた覚えがあります。

 当時は叔父と叔母、父と母の五人で暮らしておりました。


 自然豊かな地域で育った私は体を動かすのが大好きな子供になりました。当時はガラケーを使用していたため、外で遊ぶことが主でした。


 休日はこぞって鬼ごっこや缶蹴り、少人数野球をしました。

 その中でも一番遊んだものは、かくれんぼでした。


 私達のかくれんぼは少々規模が大きいものでした。何せ山の中で行うものですから探すのも一苦労だったのです。えぇ、ちゃんとルールは決めておりました。


 隠れる側の条件として、崖や神社には近づかないという点です。私達は幼少期の頃から神仏や自然を蔑ろにしたり馬鹿にしたりするなと育てられてきたものですから、そこらへんはしっかりと線引きしておりました。


 ですが、ルールを決めていても破ろうとする愚か者は出るものです。

 あれは当時にしてはやけに蒸し暑い夏休みの事でした。私は鬼の役で最後の一人を捜すために山の中を歩いていました。


 最後の一人は何故か見つけることが出来ませんでした。降参した私は見つけた子供達に無理を言って捜すのを手伝ってもらうことにしました。


 幸い、子供は見つけることが出来ましたが場所が非常に悪かったのです。なんと、その子供は無断で神社に侵入していました。私達は驚きのあまり見つけたというよりも先に「速くその場所から出ろ、祟られるぞ」と伝えました。


 ですが、その子は私達の言う事を聞かずその場所から出ようとしませんでした。

 見かねた私達は神社に入り無理やり腕を引っ張りました。直後、私達は違和感を感じました。四人で動かしているにもかかわらずびくともしなかったからです。

 

 大木を無理やり引っ張っている感覚とでもいうのでしょうか。私達が焦っていると子供が涙を流しながら「どうしよう、動けない」と涙を流します。焦りに焦った私達はどうすればいいか分からず口論し始めました。


 そんな時、私はその子が持っている何かに気が付きました。無性に気になった私は右手の指で挟んでいる物を無理やり引っこ抜きます。

 

 指に挟んでいたものは、枯葉でした。何故落ちているのだろうかと思った直後、私の身体に変化が訪れます。急に体が重くなったのです。まるで大岩を乗せられているような感覚でした。


 私は一瞬他の子どもが悪戯していると考えましたが、パニック状態になっている彼らがそんなことをするとは思えませんでした。すると、後ろから声が聞こえます。


「カエセ……カエセ……カエセ……カエセ……」


 若い女性の呪怨みたいな声でした。恐怖を感じた私の身体が硬直します。ですが、そのお陰で私はとあるものが目に入ります。樹齢数百年はありそうな大木でした。妙に冴えた私は体を木の方に動かします。すると、体がするりと動きました。


 一歩一歩転ばない様に神社を歩きます。子供達の喧騒が聞こえなくなったのを確認してから、私は葉っぱを木の近くに置きました。直後、私が聞いていた呪怨は聞こえなくなり体が軽くなりました。


 私は一緒に遊んでいた子供達にすぐここから出ようと伝えました。それを聞いた子供達は全員外へと出ました。あの時の声は何だったのか考えながら家に帰りました。


 その日、私は神社に向かった事を言いませんでした。いえば説教をくらうと思ったからです。静かな普段通りの時間を過ごし、夜になりました。

 

 私は普段の様に家族と眠りにつきました。



 ここから話すのは、私が夢で見た話です。


 私はその時、家ではなく神社に立っていました。何故神社に立っているのか分からなかった私はその場所から立ち去ろうとします。

 夜の山道は視界が悪く足取りも安定しません。それでも私は足を止めませんでした。そんな時です。後ろから声がします。


「カエセ……カエセ……カエセ……カエセ……」


 私はその言葉を聞いた直後、後ろを振り返りました。そこにいたのは、四本脚を持つ犬の形をした何かでした。何かという言い方をしたのは、明らかに犬ではない生物だったからです。


 それは――生気のない瘦せこけた女の顔を持つ人面犬でした。私は必死に山道を駆けました。酸素が上手く吸えなくて息苦しくても逃げてみせる。そんなことを感じていたのです。ですが、相手は犬です。到底勝ち目はありません。


 私は犬にとびかかられ転倒しました。体中に痛みと冷たさが走ります。女が呟く言葉がどんどん強くなります。それは、この状況を楽しんでいるようでした。


 人面犬は、人間の口から犬の口に変化し私の首をかみ切ろうとしてきました。その直後です。私は顔に水が当たる感覚で目を覚ましました。


「起きたか、○○君」


 私は呆気に取られながら水をかけてきた人物を確認します。そこにいたのは、学校の校長先生でした。何で校長先生がいるのか分からないでいると、神社でよく見る服装の人が声をかけてきます。


「○○君。君は○○神社の御神木に手を触れたかい?」


 その言葉を聞いた直後、私はあの時の事を思い出しました。

 隠れてた子供が持っていた葉っぱ。それじゃないかと思ったんです。

 私は触りました、と伝えました。


「なるほど……○○先生、早急にお祓いが必要な状況です」

「そうですか……せめて彼だけでも、何とかお祓いしてあげてください」


 こうして私は、神社で一週間お祓いを行い、家に帰されました。

 翌日の事です。私はかくれんぼで遊んでいた子が大怪我したと聞きました。

 理由は知りませんが、その子は数か月後に引っ越しました。


 現在も、連絡が取れません。


 後日――


 今回のことは御神木の祟りという結論になったようです。

 有名な鉄道会社も祟られないように厳重注意している御神木があるように、私達が訪れた神社にも古くからある御神木があったのです。


 今回私とその子が祟られたのは御神木の葉っぱに触れたからだと言う事でした。幸い、私は五体満足でいられましたが――


 もし葉を返してなかったら――どうなっていたのでしょうか。

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かくれんぼ チャーハン @tya-hantabero

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