暗走

 左耳には好きなアーティストの楽曲が聞こえている。

 右耳からは何かが動いて草がかさつく音がする。

 心臓の鼓動は速くテンポを刻む。

 何よりも大きな息遣いが、聴覚を一定間隔で刺激する。

 一歩踏み出すごとに、もう止まってしまいたいと考える。


 人生は一度きりだとか、夢は願えば叶うとか、ドラマみたいなセリフがある。

 ただ、どのドラマもアニメも、その主人公は一分も否定できないほどに努力していた。

 キラキラ輝いて見える大好きなアーティスト。

 強い言葉で攻撃されるTVの中のひと。

 頭が良くて人の先頭に立つ人。


 俺は、それを見て、住む世界が違うのだと、違う生き物なのだと考える。


 否応なく努力していることを理解しながら、目を背けた。




 何度も繰り返した。




 努力なんて意味がないのは、努力をやり切っていないから。




 どうか、もう少し、この努力と呼べるかわからない生き方が続けられるように。





 きっと努力など、人から言われて初めて努力と呼べるのだろう。





 大好きなアーティストに一歩でも近づけるように。





――PRAING RUN――





 今日も祈り、暗闇を走る。





 頑張っているねと言われるために。

 認めてもらうために。

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劣等種 鳴平伝八 @narihiraden8

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