劣等種

鳴平伝八

劣等種

 重い重い塊。

 一筋の黒い糸が、なんの前触れもなく現れる。

 そいつは自覚するとぐにゃっと形を変えて、捻じれてしまう。

 するとそれを突き刺すように、もう一筋の糸が現れる。

 やっぱり黒い。

 ピンと張ったかと思うと、すぐにぐにゃりと曲がってしまう。

 最初の糸と同じように歪んだ糸が重なる。互いに動きは止まらず、どんどん絡まっていく。

 後を追うように、別の糸も現れて、それを繰り返す。


 黒い糸の集合体は黒い塊となった。

 最初の一筋も、最後の一筋も、どこにあるかなど皆目見当もつかない。

 それがわかったところで、それを解く術を、この持ち主は知らない。


 救えない、肥大しゆく塊。

 解けない、複雑な絡まり。


 解決法を本当は知っている。

 根源を無くすしかないことを本当は知っている。

 一筋一筋の絡まりを、丁寧に、根気よく、解いていくしかない。


 それ以外に道は無いとわかっている。


 だから




 僕はここに文字を綴る。

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