第9話 プロキア連邦共和国・・・ハルトマンの演説①

「プロキア連邦共和国の皆さん、こんにちわ

イリヤ ハルトマンと申します。

 今回、大統領候補として選出された事に、只々、驚きを持っております。

正直に申し上げまして、私では、とても大統領など務まりません。

私は現在、ただの町医者です。そんな私に、国を引っ張る事など、出来るはずもありません。国民のみなさんも、同様に思われている事でしょう。

 ただ、AIという最先端技術により選ばれた3名の候補者の内の1人であるという事実に、そこには何かしらの意味があるのではないか。とも思っています。


 そこで、これから申し上げる事は、大統領に選出されたら、こうするという事ではなく、国民の一人として、こういう国になってほしい、こうしたらよいのではないか という願いやら思いを、この場をお借りして、申し上げたいと思います。

 政治ド素人のたわ言として、聞いて頂けたら幸いです。


 まず最初に、プロキアは大きな過ちを犯してしまいました。

偽りのプロパガンダに騙されていたとはいえ、ライナ共和国および世界中の国々に取り返しのつかない損害・迷惑を掛けてしまった事は、変えようのない事実であり、国の責任・国民の責任として、全世界の人々に詫び、償いをしなければなりません。


 既に我が国の石油・天然ガスの採掘場は、ライナ共和国およびその同盟国の管理下に置かれ、運営がさてれいますが、この事を国民の皆さんは、どの様にお考えでしょうか。

 『一刻も早い、戦争賠償・戦後補償をしなければならないので、当然の成り行き』とお考えでしょうか。それとも『我が国の重要な施設を乗っ取られ、これは侵略に他ならない』とお考えでしょうか。

 私は、前者の方・・・当然の結果だと考えています。

本来、敗戦国のたどる道は、悲惨です。領土を奪われ、財産を没収されても不思議ではありません。しかし現実には、そうはなっていません。

 領土はそのまま。財産の没収もない。地下資源の採掘場にしても、他国の管理下にあるとはいえ、労働者は我が国の国民で、好待遇を受けて働いています。採掘される石油等についても、我が国が消費する分については、産出原価の10分の1という、ほぼ無料に近い価格での提供を受けています。

 これは、ライナ共和国およびその同盟国による『一刻も早く、プロキア連邦共和国に復興を果たしてほしい』という意向からのものです。

我が国は、何万ものライナ国民を虐殺し、市街地をミサイルで破壊しまくり、侵攻地から金品を略奪し、証拠を消し去るために家屋を焼き払うなど、様々な非道を繰り返してきたにも関わらず、 です。

 

 一刻も早く、戦争賠償・戦後補償を履行しなければなりません。これは、我が国の最重要・最優先課題である事は間違いないと、私は考えています。

 では、ここで我が国の現状について冷静に考えてみましょう。

戦争のために、国家予算のほぼ全てを費やしており、国家財政は破綻しています。

よって、再建に莫大な費用が掛かる工業分野への政府支援が、現在、ほぼ出来ない状態に陥っています。工業関係の早期正常化は難しいのではないでしょうか。


 更に、まだ世界が、我が国を許した訳では決してありませんから、今後も、各国から我が国への輸出制限は、継続されるでしょう。それによって、深刻かつ慢性的な部品不足に陥り、以前の状態に戻れたとしても、数十年はかかるでしょう。


 外国から誘致した企業は、ほぼ撤退をしており、今後、我が国へ戻って来てくるとは、とても思えません。それら企業に与えてしまった損害額も、天文学的数字に上るかと思います。将来、外国企業に戻ってきてもらうための最低条件として、まずは、損害賠償を全て果たす事が必須条件となり、それをクリアーしてこそ、初めて外国企業の誘致依頼ができる立場に立てるものではないでしょうか。


 多くの若者、優れた技術者も、数多く外国へ避難し、そのまま、その国の国民となられた方も少なくありません。

 戦争により、多くの国民の命も亡くしております。

これにより、深刻な労働者不足、技術者不足にも、陥っています。

となると、工業の復興をメイン政策とした国の復興という事は、非現実的だと考えます。


 以前は国の収益の大きな柱となっていた武器輸出も出来ません。

主だった軍事工場は解体されています。それ以前に、諸外国が軍事産業の成長を許す訳がありません。

 軍事産業に力を入れれば、それこそ、領土侵攻を受ける事になるでしょう。


天然資源、工業製品、武器輸出という、外貨獲得手段の柱が、どれも見込めないという事を、まずは認識して頂きたいです。


 では、逆に、今の私たちに何が出来るのでしょうか?何が残されているのでしょうか?


 多くの国民を失ってしまいましたが、それでもまだ1億人以上の人々がいます。

国土もそのままです。


 その国土についてですが・・・・

 以前は、国土の60%を永久凍土に覆われていましたが、地球の温暖化により、現在では、その20%が、農耕地として活用できる土地となりました。

更に、農業研究者によれば、それらの土地はとても肥沃で、農業・畜産に適し、さらに国土が広いため、1年を通じて、その時々において、様々な種類の作物が出来るという利点もあるとの事でした。

 これは、すごい事です。これらの土地は、ほぼ未開拓です。もしこの土地で、農耕が進めば、その産物輸出は、我が国に莫大な利益をもたらす事になるのではないでしょうか。

 世界を見渡せば、急速な砂漠化により、広大な農耕地が消滅しています。逆に我が国は、農耕地が広がり続けています。まるで地球という生物が、地球規模でのバランスをとろうとしているかのようです。

 戦争中、海上閉鎖や、穀物輸出制限により、世界中の人々に迷惑をかけました。国によっては、深刻な食糧不足問題を引き起こしてしました。

もし、農業の爆発的発展に成功すれば、外貨獲得だけでなく、食料無償提供による、食料貧困国への援助も出来るはずです。

 『何が他国援助だ。そんな事を言えた立場か』と諸外国から批判を受けるかもしれませんが、私は、将来そのような国になってほしいと願っています。


 農産業の発展は、新たな雇用を生み、国民の食料事情に安心・安定をも、もたらします。実りには、ある程度の期間が必要ですが、取り組みは、工業に比べて早く実施する事が出来る事も利点です。


 地球温暖化がもたらしてくれた我が国へのプレゼントとしてもう1つ。

 観光地の拡大です。もとより世界的に見れば、我が国の観光は、開かれた地とは言えませんでした。また厳しい冬が長く続くなど、一般観光には不向きな面があった事も否定できません。しかし、温暖な土地の広がりは、人の活動範囲を広げると共に、新たな観光地をも生み出します。

皆さんは、『アシュヨールド』という所をご存じでしょうか。ごく少数の方しか知らない様な場所ですが、すばらしい所ですよ。今までは、気軽に行ける場所ではなかったのですが、凍土が消滅し、今では、自家用車で行く事が可能となっています。

 このように、国民のみなさんでさえも知らないような、魅力的な土地が、数多く存在しています。

 もう一つ。首都や、地方都市の観光も、これまた世界的に見れば、開かれた物ものとは言えませんでした。時として観光者には、秘密警察が監視を行い、入国者にも厳しい事前審査を実施していました。これらが無くなるだけでも、観光者は増えるのではないでしょうか。

 観光産業の発展も、我が国の財政復活に向けて、大きな力となる事でしょう。


皆さんの中には、『農業や観光産業の発展を柱とした国の復興』などという、生ぬるい政策で、国の復興など果たせるものか、とお考えになる方も見えるかもしれませんが、今から出来る事、ライナ協和国およびその連合国からの制限を受ける可能性が少ないと思われる事、世界に迷惑を掛ける政策ではない事、将来性がある事などを考えてみてください。

世界には、観光や農業で国を支えている所も少なくありません。

一見、消極的な政策に映るかもしれませんが、私は、これがベストな政策だと思っています。

 





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