第7話 プロキア連邦共和国・・・疲弊

 敗戦により政府が弱体化し、報道規制も以前の様には出来なくなっていた。

しかし、長年染みついた政府寄りの報道姿勢、全てをさらけ出す事への恐怖、国民の受ける衝撃など、様々な要因により、今まで、各機関は報道内容を、知らず知らずのうちにセーブしていた。

 しかし、結果がどうなろうとも、真実を報道する事になったのである。

そして、ついにその時は来た・・・・・


 番組を全て変更し、侵略戦争特集 として、特別番組のみが放送された。

  国営放送ヴィラジーチの無き今、国内最大手となった、ザーコンの社主 ワレリー ボルコフが、冒頭の挨拶を行う。

「みなさん、おはようございます。社主のワレリー ボルコフです。

我々ザーコンは、これからの1週間、先の侵略戦争の【隠されていた事実】をお伝えします。流される映像・音声は、全て実際に起こった事で、フェイク動画や音声加工等した物では決してありません。

 国民の中には、政府のプロパガンダを信じ、今だ、他国からの侵略を防ぐ為、もしくは、ライナ共和国から迫害を受けている人々を開放する為に戦ったと思っている人が多い事を残念に思っております。

 当局では、開戦前の両国の様子から、戦争終了後の両国の様子

その間の、政府からの報道と現実との相違などを、時系列的に報道を行って行きます。  

 我が国では、政府により、海外サイトへのアクセスが遮断されました。国民運動のおかげで、かろうじてテルグラフのみ、閲覧投稿可能な状況にありましたが、インターネット等に無縁な高齢者等によっては、テレビ報道による、我が国に都合の良い報道しか見聞き出来ませんでした。しかし世界では、我が国の起こした残虐な殺戮行為がインターネットを通じて、広く拡散しています。

 それを、今から、プロキア国民が見る事になります。海外避難していた人などは、既に目にしている映像もあろうかと思いますが、これからは、それらの映像に加え、リライアンス通信社ライナ支局から提供された、衝撃的な映像も加えて放送されます。

 余りにも衝撃的なため、受け入れられない方もあるかもしれませんが、しかし、事実を事実として受けなければ、国の復興など、夢のまた夢。

 罪を認めない国に、他国が救いの手を差し伸べてくれるはずもありません。

これから、放送される事実に目を背けないで頂きたい。見る事を放棄しないで頂きたい。」

  社主の挨拶が終わり、次に、開戦前の平和なライナ共和国の映像が流れた。

その後、時系列的に、映像が流れ、その度に、解説者や、コメンテイターが、意見等を述べていく。


 侵略地の民家から、プロキア軍兵士が、次々と家財を持ち出し、仲間と笑顔で話している映像が流れる(リライアンス通信社 提供映像)

 政府が、【迫害を受けている市民を救出するため】としていた地域の映像である。盗んだ物品を輸送するための、政府が手配した専用列車へ、大量の略奪品を積み込んでいる映像も流れた。

(スマホ等の発達した現代においては、誰もが普通に映像記録が出来る時代になった。中央政府からの弾圧が無くなった今、日々、何千、何万もの映像が国内外から投稿されていたのである)

テレビ番組の司会者:「これが、現実です。私たちは、取り返しのつかない事をしてしまいました。旧政府のプロパガンダは、全くの嘘です。もし、この映像を見ても、信じられなという方は、ライナ共和国へ行って、その目で見て来てください。

 私たちが侵攻した地域の人に、話を聞いてください。残念ながら、全て映像通りである事が証明されますから」

 コメンテイターも、沈痛な面持ちで、コメントをしていく。


 侵攻地域の、子供・女性が連れ去らていく映像。女性が屈辱を受ける画像。

(流石に、こういった映像には、画像処理が施され、個人の識別が出来ないように加工がされてはいるが)

また、こんな映像も流れた。

住民が一列に並ばされている。その後方には、初めて戦場へ来た召集兵士がおり、上司から「訓練だ」と言われ、一斉に銃を撃つよう命令される。

 百名近くの人間が、一斉に、手前に掘られた溝の中に倒れていく。その後、ブルドーザーで、溝が埋められていく。

 各コメンテーターも言葉を失う。


 ライナ共和国の映像。一般人の集合住宅に、プロキア軍のミサイルが命中し、住宅が崩れていく。泣き叫ぶ人々、子供を失い半狂乱の母親、悲惨な光景が延々と放送される。

 戦争終盤、プロキア国も、ライナ協和国の反撃を受けて、首都の民間住宅などに、ミサイルが当たってしまい、犠牲者が出てしまった。

 中央政府は、「許す事の出来ない、野蛮な行為」として激しくライナ共和国を非難し、国民の団結を呼びかけていたのだが (その映像も流される) プロキア軍は、その1年以上前から、所かまわず、ライナ共和国へ、ミサイルを撃ち込み、一般市民を惨殺していたのである。


 後ろから、自国の兵士に向け銃を構える兵士。戦争放棄して、脱走する兵士を射殺するためだ。実際に、自国兵士を殺害する映像も流れた。

(おそらく、プロキアの兵士が撮影したのであろう。こういった映像は、SNS等へ投稿せず、そのまま隠し持っていれば、わからない。今なら大丈夫と判断し、投稿したのであろう。・・・正義の志を持った者は、どの国にもいるのである)


 死体に、地雷を仕掛け「馬鹿が絶対に引っかかるぜ」とニヤニヤしながら話す、プロキア兵士。 

 略奪の証拠を消す為、民家に火を放つ兵士。


 ダムに爆薬を仕掛け、「これで、やつらの足止めが出来る」と、ホッとする兵士。

(実際に大きなダムが爆破され、市街地が水浸しになり、水面に死体が浮いている映像が流れる)


 プロキア軍基地・・・「ミサイル発射!、殺せ!殺せ!殺しまくれ!」上級士官が、兵士に、狂ったように命令する。(この映像も、プロキア兵による投稿と思われる)

<プロキア軍が劣勢となり、勝敗の大勢が見えかけて来た頃、軍の上層部の人間が考えた事と言えば・・・このまま敗戦となれば、戦犯者として処刑される。故に、敗戦などありえない。国民など、どうでもよい。手段は選ばない。ただ勝つために、突き進むのみ。・・・ そこまで追い込まれていたのである>


 終戦後、多くの子供・女性が監禁場所等から、解放されていく映像。

インタビューに答える女性。悲惨な状況が語られた。

 

 何も伝えられていないプロキア国民が、支配地へ、呑気にバカンス旅行に出かける映像。方や、同時期に、ミサイルやドローン攻撃により、家族を失い泣き叫ぶライナ共和国市民の映像。これらが交互に流される。


 自国の戦死者は数百人と発表していた、中央政府高官の映像。

食料・弾薬の補給も受けらず、死んでいく多くの、(地方からの)自国招集兵。

部下を置いて、真っ先に避難する上級兵士の笑顔の映像。


 占領地の重要な物資輸送路である、巨大な橋を爆破された際、「損害はない」と発表していた政府高官映像と、実際に破壊され、修復不可能な状態にある橋の映像。


 食料・天然資源の輸出禁止により、全世界の国々が苦しんでいる動画


海に浮かぶ、無数の機雷。


解放を目的としていたはずの大地に仕掛けられた、除去に数十年はかかるであろう、おびただしい地雷


 これらを、各メディアが、一斉に、一週間に渡り、延々と放送し続けたのである。

新聞社・雑誌社は、戦争特集を組み、悲惨な画像を次々と載せた。


 ネットの世界では、無修正の残忍な画像が、投稿され続けた。

そこには忖度など全くない。

個人のプライバシーもない。

ただ起こった事を、そのまま流す。

(それが、ネットの世界の恐ろしい所ではあるが)


(ある程度の規制を設ける国もあったが、余りにも情報量が多いため、完全には制御出来ない状態に陥っていた)


【小さな存在の、個人であっても、今は、情報発信という大きな武器を手に入れた

事を強く印象付ける戦争でもあった。】



 大量のネット投稿は、【世界中の人々が、真に、戦争の実態・恐ろしさ を知った瞬間】でもあった。

 制限のない無差別投稿には、賛否両論あろうが、結果的には、世界各地で今だに行われている戦争・紛争の収縮または終了に繋がって行ったのである。

 (様々な問題も抱えながらも、インターネット・SNSは、世界の人々の、戦争に対する考え方を、大きく変える事になった)


テレビ放送は、生活に必要な情報番組以外、全て侵略戦争関連の番組しか放映されない。

 新聞、雑誌等も同様で、ほとんどの国民が、自国の犯した罪の大きさに、打ちひしがれたのである。


 プロキア連邦共和国の国民は、疲弊した。疲弊し尽くした。

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