第6話 プロキア連邦共和国・・・報道機関

 侵略戦争大敗前までは、TV局を始めとする報道機関は、全て中央政府の管理統制下にあり、反政府的な報道は発信しづらい体制となっていた。独立系メディアと呼ばれる組織も存在していたが、戦争に反対する報道や抗議行動を行ったために、戦時中、ほとんど解散に追い込まれてしまい、わずかなゲリラ的組織が残るのみとなっていた。


 最も大きな報道機関は、政府直轄機関の【プロキア国営テレビ ヴィラジェーチ】であったが、終戦後、WSUにより即刻、完全解体された。

 他のメディアは、中央政府に逆らえない状況下にあったことなどが考慮され、存続が許されたが、過激な思想のトップ及び幹部は、排除された。過去の報道等を基に、それらは判断された訳だが、それは、デジタル通信網の発達による【記録】というものに対する利便性と共に、脅威 を感じる出来事でもあった。・・・・・


 暫定政府は、召集するメディアの剪定に入った。ここでも大きな力を発揮したのが、チーム アイザックの各メンバーで、もちろん ハローシイ を駆使し、最良と言える選定を行ったのである。

 それは、暫定政府寄りの機関のみを選定したのではない。偏ったメンバー選出は、誤った判断をしやすい。それを踏まえて、総合的な見地から、召集機関が決定されたのである。


 国外に避難していた、独立系メディアや、ゲリラ的に活動していた組織は、堂々と、自由に、情報発信が出来る事となり、今回、政府に召集されるメディアの半数を占めるに至った。


 ヴィラジーチの他に、【ザーコン】という報道機関があった。ヴィラジーチほどの規模ではないが、プロキアでは有名な報道機関で、政府の意向に沿いつつも、ヴィラジーチとは一線を画したような報道をする機関でもあった。

 中央政府は、時折、その報道を快く思わない事もあったが、明確に政府に背いているわけでもなく、しかも社主は、前大統領の長男という事もあり、中央政府も、うかつには手が出せないでいる。

 社主の ワレリー ボルコフ は、幅広い人脈を持ち、常に国民の事を意識した豪快かつ愛情に溢れた発言・行動により、国民から絶大なる支持を得ていた。

 そんなボルコフは、報道機関で働く多くの者にとって、自身の目標とすべき人物であり、尊敬の念を一身に集める存在でもあった。


 その、ザーコン もメンバー入りを果たした。と言うよりも、暫定政府は、この、 ザーコンを外すという選択肢はゼロであった。

 極端に言ってしまえば、メディアへの事前説明の成功を握る鍵は、ザーコン であり、社主の ワレリーボルコフが、どう動くかにかかっていた。

 ボルコフは、圧力・買収・忖度・命令・虚偽を嫌う。

よって、暫定政府は、安易な根回し等を一切行わず、突然に暫定政府役員が赴き、参加を願ったのである。


 そして、いよいよ、報道機関が、中央政府に召集され、グラスコフ議長より、AIによる大統領選出の説明が始まった。現在の財政状況・通貨価値・国内治安の悪化・貿易赤字・戦争賠償・戦後補償・人口流出・戦犯者逮捕・政治家の確保など、様々な問題点を詳しく説明し、その上でAIによる大統領選出という結果を導くに至った経緯、問題点、効果等が説明されていった。


 当日は質疑応答が許可されていなかったため、表立っての混乱はないように見えた。というより、事の大きさに、沈黙してしまったというのが正解かもしれない。


(丸1日をかけた、概要説明が終わり・・・)


 (グラスコフ議長):「お渡した、資料を基に、各社ご検討ください。

どのような報道をされようと、政府が圧力・制裁をする事は決してありません。それは固くお約束します。

 その代わりと言っては何ですが、先ほども申し上げました通り、国民のために、どうすれば良いのか、早期復興を果たすためには何をすべきかを念頭に置いた報道をお願います。注目を浴びる為だけの、ゴシップワイドショー的な報道は、ご遠慮願いたい。

本日は、以上です。お疲れ様でした」


長い一日が終わろうとしている。

重くるしい雰囲気の中で、ザーコン社主のボルコフはグラスコフ議長に、こう言った。

「報道機関の者だけで、少し話がしたいのですが」

(グラスコフ議長):「承知しました」と言って、政府関係者を全員、退席させた。


(ボルコフ):「諸君、申し訳ないが、少し話がしたいので、ここに残ってくれないか。政府関係の方には、退席を願った」

当然、反対する者など、誰もいない。

全員が、席に着くと、ボルコフが、話を始める。

 

「AIによる大統領候補の選出・・・こんな馬鹿げた事を、我が国は実行しようとしているのである。思わず笑ってしまった。」


(一同が、困惑の表情を浮かべる)


「笑ったの言うのは、嘲笑たのではない。形容しがたい程のワクワク感。抑えきれない程の高揚感。今、私は、報道機関に携わる者として、震えるほどの感動を覚えると共に、今後の自身の行動に対する責任の重さに、押しつぶされそうにもなっている。

 暫定政府・・・いや、暫定という言葉が失礼に当たるほどの、素晴らしい人たちであるが・・・政府より丁寧な説明があったが、皆はどう感じた。

衝撃的で、まだ頭の中が整理できていない者もいるだろう。実は、私もその一人だ。

 現在、プロキアは、最悪の状況にある。そんな我が国の復興を掛けての、大博打と言っていい程の内容であったが、確信などないが、なぜだか大きな可能性を感じてもいる。

 なぜ、政府は、このような重要案件を、我々に事前に知らせたのだろうか。

切羽詰まった状況とは言え、ありえない事だとは思わないか。

 政府は何を我々に求めているのだろう。」


(しばらく、沈黙した後)


「政府は 【報道の持つ力】に掛けたのではないのか?

政府からの一方的な説明だけでは、到底、国民の理解が得られそうにもないものを、我々を巻き込む事により、より国民に理解してもらい、新大統領誕生に繋げようとしている様に思う。悪意な言い方をすれば、我々を政治利用する。という事である。

 諸君、大いに利用されようではないか。

我々の、これからの報道により、この国の運命が決定されると言っても過言ではない!

 各社の報道を、政府寄りにと言っているのではない。私には報道内容を統制する権利などない。そもそも、そのつもりなど微塵もない。

 しかし、これだけは言っておく。

注目を引く為ためだけの安易な報道、感情に任せたコメンテイターの発言、国民を誘導するかの様な番組制作、これらは、国民の判断を誤らせ、それは、復興への動きを止めてしまう事にも繋がりかねない。

 そうならないよう、我々の行動には、この国の未来がかかっている。 という事を強く認識して、行動してもらいたい。


 そして、これは、皆へのお願いではあるのだが・・・・・


 1週間後に、国民へ向けての政府発表があり、我々も、一斉に報道を始める訳であるが、その報道が始まるまでの1週間をかけて、皆にしてほしい事がある。


 それは、先の戦争について、

① プロキアが、侵略戦争を仕掛けたのであり、前政府が発表していたような、他国からの侵略を阻止するため などでは、決してなかった事

② 多くの子供を含む市民が虐殺され、町を破壊し尽くされたライナ共和国の現状を隠す事なく伝える事

③ 我が国も多くの戦士を失い、失意の者もいるが、そもそも、侵略を仕掛けなければ、それもなかった事

④ 戦地からの、物資略奪、子供・女性の誘拐の事実

⑤ 戦争にもルールがあると思うのだが、原子力発電所の占領・破壊や、ダム破壊など、タブーとされる行動を、平然と行ってきた事実

⑥ 国家財政は底を尽き、国際通貨価値は、もはや無し。外国産業も撤退し、戻って来てくれる見込みもない現実

⑦ 国際的に孤立化し、今後も、経済制裁を受け続ける可能性

⑧ 莫大な、戦争賠償・戦後補償

⑨ 治安の悪化

⑩ 捕虜の惨殺・虐待、強制就労


そして、現在、我が国は、大敗を喫したにも関わらず、他国の侵略を受けてはいないという事実を、今まで以上に、明確に報道して頂きたい。

 今だ、自国の非を認められない人々が数多くいる。復興を目指すにしても、まず、非を認めなければ、次の段階へ進めない。非を認めない国に、国際社会が、手を差し伸べてくれる訳がない。国の復興は遠い物になってしまうだろう。


 ジパーナ国 リライアンス通信社からの映像・・・目を覆いたくなるような映像・音声ではあるが、現状、自国のメディアでは、ほとんど報道はされていない。衝撃が強すぎるからだ。我々報道機関も、自重していたのは認めざるを得ない。しかしネットの世界では、カットされていない映像が、何万と投稿されている。我が国の若者の多くは、既にネットにより、その映像を目にしているが。  

 しかし、年配者には、なかなか事実が事実として届いておらず、また届いていても事実を受け入れられないでいる。

 このことは、今後の復興の大いなる妨げとなるであろうと、私は考えている。

 各社、事実を徹底的に報道してくれ。ありとあらゆる情報網を駆使して、事実確認を行い、それを国民に伝えてくれ。政府からの圧力はもう無い!、自由に、そしてありのままの事実を、報道機関の一員として恥ずかしくない、将来、埃りに思える行動を、まさにこの1週間、取ろうではないか!」


 衝撃的な映像ばかりで、ためらう部分もあるかと思う。戦犯者を特定する映像を流すという事は、国民を裏切る行為として非難を受けるかもしれない。

 しかし、それらの映像の多くは、もう既に世界中に広まっている。

遅かれ早かれの問題である。我々も腹をくくろう。

国民に、正しい情報を伝える事に全力を注ごう!」


「ウォー」

どこからともなく、歓声が沸いた。それに呼応するように、その場の全員が、声を張り上げる。

「オォー」「ウォー」「やるぞぉー」


 確かに、報道の持つ力は大きい。明日から、自国の運命を掛けた報道活動が始まるのである。

各社の代表は、そのことを噛みしめながら、会場を後にした。










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