第5話 プロキア連邦共和国・・・政府説明
暫定政府は、ハローシイ が選出した3名を中央政府へ呼び寄せた。
政府関係者5名を加え、国家最高セキュリティーを備えた機密会議室にて、新大統領候補として選出された事、及びその経緯、今後の行動についての説明が行われたのである。司会の者より、軽い挨拶、各自の紹介が行われた後、議長の、エフゲニー グラスコフが、口を開く。
「まずは、遠路はるばる来て頂き、感謝します。
この国は、自らが仕掛けた侵略戦争に大敗し、国力を大きく低下させてしまいました。経済は停滞し、国民は失意のどん底にいます。巨額の戦争賠償・戦後補償を考えると、我が国の未来は暗黒の闇の中へ、突き進んでいると言えるでしょう。
しかし、暫定とは言え、政府の人間として、少しでも前に進む事を考えなければなりません。
僅々の課題として、国を率いてくれる中心となる人物を、一刻も早く決めなければなりません。しかもその選出方法は、旧政府関係者の多くが、戦争犯罪者として捕らえられてしまった今、従来の方法(中央議会からの選出)では、議員選挙から始めなければならないため、時間が掛かりすぎてしまいます。
急な話ではありますが・・・AI技術の権威 アイザック博士は、皆様もご存じかとは思いますが、そのアイザック博士が開発した、国家復興支援AIシステム ハローシイは、3名の新大統領候補を選出しました。それが、あなた方3名です。
驚かれるのは無理もない事だと思います。しかし他に方法が無かったのです。それほど、この国は、あらゆる面での立て直しが急務であり、早期に、ニューリーダーが必要なのです。
最終的には、公正な国民投票により、あなた方3名の中から、新大統領を決め、国を率いて頂きます。もちろん、ここにいる政府関係者は、全力でサポートさせて頂く事を堅くお約束させて頂きます。
本当に申し訳ないのですが、辞退 という選択肢はありません」
しばらく沈黙が続いた後、イリヤ ハルトマンが口を開く
「ここに見えるお二人は、私のような者でも知っている国民的に有名な方で、お一人は軍人、もうお一人は、政治家。大統領候補として選出されたのにも、納得がいきます。
ですが、私は、しがない町医者です。AIの判断ですから、政府の方に、なぜ?
と問いかけても、回答は出来ないでしょう。百歩譲って、国民投票に出ても、私が選ばれる確率は、ゼロです。それは断言できます。
辞退する事は、出来ないとおっしゃいましたが、辞退したら、私をどうするおつもりでしょうか」
グラスコフ議長が答える。
「何もありません。ご自身はもちろんの事、ご家族等に対しても、何かするという事は決してありません。こんな事を言うと、かえって脅迫めいた印象を持たれてしまったかもしれませんが、本当に何もありません」
「ただ・・・私たちは、ハローシイが選出した、ここにおられる3名の方を、あらゆる機関を使い、誠に勝手ではありましたが、出来る限りの事を調べさせて頂きました。
スーパーAIが選出したとはいえ、我々なりに、納得が出来なければ、国民に伝える事など出来ないと考えたからです。申し訳ありませんでした。」
「我々は、調査を進めるうち、徐々に、新大統領候補は、あなた方しかいない。という確信を持つに至りました。経歴がどうのこうのと言うより、その生きざまに感動し、失意の国民を救うリーダーにふさわしい方々である事を、ここの5名ならず、特別選考チームの誰もが感じました。」
計り知れない重圧はかかると思いますが、よろしくお願い申し上げます。」
政府関係者全員が、立ち上がり、深々と頭を下げた。
沈黙をしていた、セルゲイ ガイダル元帥が
「今後、我々にどうしろと言うのですか?」と尋ねた。
(グラスコフ議長):「それにつきましては、副議長の レジーナ グリンカ がお答えします」
(グリンカ副議長):「では、今後の流れについて、ご説明を申し上げます。
いきなり、国民に国民投票をと伝えましても、混乱を生ずるばかりです。
そこで、まずは国内の主だったメディアの長に集まってもらい、概要を説明します。
当然、そこでも少なからずの混乱は生じると予想しておりますが、ここに、会議資料があります」
と言って1冊の分厚い資料を取り出し、3名の候補者に渡した。
資料は厚さ3cmもあり、それを見ただけで、政府関係者の本気度・努力がわかる代物であった。
「この資料を基にした、政府からの説明に、丸1日を要します。その日は、質疑応答は行いません。そして、その資料を各自持ち帰って頂き、社内で検討して頂きます。その期間は3日間。
そして再度、ここへ集まって頂き、質疑応答を行います。政府側が即答出来なかった案件につきましては、更に翌日、回答の事とし、更なる質疑応答も行います。
質疑応答には3日を掛けます。
合計、7日をかけての、説明会となる予定です。
そして、メディアへの説明会が終了した翌日の午後1時に暫定政府より、国民に向け、全国TV放送にて、説明を行います。
後先になりましたが、説明会の出席者は、各メディア(社)のトップ及び社員2名の合計3名までとし、録音・撮影は自由。
但し、事が事だけに、政府発表がされるまでは、いかなる報道も行わないよう徹底します。事前にその点が確約できたメディアのみ、参加を承諾し、万が一約束を守れなかった場合は、警察力を始め、あらゆる政府機関・国防機関の力を行使し、会社の存続どころか、個々の命さえ危うくなると、伝えます。これに限っては、単なる脅しだけでは済まされません」
(極秘資料といっても過言ではない、政府資料を渡し、録画・録音まで許可するとは異常である。しかし、これには大きな狙いがあった。
まずは、透明性。真に、国民のために、そして、国の復興のためであると言う事を、理解してもらうには、隠し事をせず、全てをさらけ出すしかない。と考えたこと。
もう一つは、メディアによる、悪意を持った編集、放送を阻止するため。
一般に、動画や、音声の一部分だけを流し、事実とは異なる方向へ故意に導くことは、日常茶飯事的に行われていたが、参加者全てが、録画録音を行った中で、偏った編集をすれば、直ちに他のメディアにそれとわかり、追及を受ける事となる。
また、間違った解釈を防ぐ狙いもあった。人は物事を、自分に都合よく解釈してしまがちである事から、誤認、誤解防止の意味合いも含んでいた。参加者を各メディア3名としたのも、同様の理由からである。)
「更に、もう一つ、各メディアに徹底させる事があります。
それは、反論は自由ですが、その場合、対案を必ず出させるという事です。中には、政府関係者でない自分達が、なぜそのような事までしなければならないのか。それを考えるのは、政治家の仕事だろ!と言いだす者がいる事は想像だにしています。
ですが、我が国は、一刻も早く、大統領を決め、新政府を立ち上げ、国政を正常化させなければなりません。政治家だとか、一般人だとか言っている場合ではないのです。対案を出させると、そこには、大きな矛盾があったり、実行不可能な部分があったりするものです。更に突き詰めれば、私利私欲に繋がっている場合がほとんどと言えるでしょう。それは、我々も、この案を決定するまでの段階において、経験してきております。
反対を唱えた者の対案に対し、議論がされれば、されるほど、結論は、この案に近づいてくるのです。」
「メディアからの情報発信期間は、1週間、我々政府側も、あらゆる手段を使い、情報発信を行っていきます。
これまでの行動は、AI利用による大統領選出への理解と、候補者の方の、事前の印象付けと言いますか、どのような方なのかを国民に、メディア機関という政府機関とは別の所から発信してもらう事により、より信頼性ある情報である事を、国民に理解してもらう狙いがあります」
「そして、いよいよ、皆さんによる、政策方針の発表となります。それは、TV生放送や雑誌出版などにて行い、SNSによる即時配信も実施します。
国民投票は、その1週間後です。この間、様々な議論がされる事でしょう。
我々はメディアを最大限、利用します。もちろん、メディアに対して、圧力を掛けたりする事はありません。ですが、メディアは、全体として、我々の案・意向に沿った報道をしてくれると信じています。そうなるよう最大限、説明責任は果たしていきますし、議論すればするほど、【代案が無い】という所に行きつくはずですから」
「我々は、まずは、政策方針を考えればいいのですね」
と、ペトロフ議員が言った。
(政府関係者側に、安堵の色が広がる。)
「はい、お願いします。TV放送では、政策発表時間を、お一人、1時間として予定しておりますが、あくまでも予定ですので、内容はもちろんの事、発表時間についても自由にお考えください。
なお、私どもの方で政策内容を事前確認するという事はありません。
お会いしたばかりの方々に、信頼 という言葉を口にしても、軽々しく思われるばかりかもしれませんが、私どもは、あなた方に絶大なる信頼を寄せております。」
と、グラスコフ議長が答える。
(ペトロフ議員):「承知しました」
後の二人も、結局、明確な反対はしなかった。
ハルトマンは、政府関係者の熱意に押されてしまった事と、自分が大統領になる事は絶対に無いという思い。そして復興のために、なんらかの形では寄与したいという思いがあったからである。
ガイダル元帥は、最初から何かを心に決めているような雰囲気を醸し出していたのだが、それが何かは、現段階では知る由もない。
とにかく、政府案に反対する発言は無かった事から、承諾を得たと、捉える事にした。
(グラスコフ議長):「それでは、私どもは、マスコミへの説明会準備に入ります。政策発表の件、よろしくお願いします。」
何とも言えない緊張感の中、ひとまづ、3名の候補者への説明は終了した。
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