第4話 プロキア連邦共和国・・・新大統候補選出

 暫定政府は、新大統領の選任に苦慮した。

軍関係者は、軍人から、大統領を出したい。

政府関係者は、血縁議員や、親戚知人の政府関係者から、

民間人は、企業のトップや、各地の有力者から、

それぞれの思惑が絡み合い、話し合いは、全くまとまらなかった。

 地域の問題もあった。自分に密接した地域から、大統領を出したいと思うのは、皆同じであった。

 話し合いが進むほど、己の欲が出てしまい、復興のためにという大前提の部分が、置き去りになってしまったのである。


 しかし、このままでは、復興どころか、国民からの厳しい追及を受けかねない。


沈黙がしばらく続いたのち、誰かが口を開いた。

「アイザック・ヴィルデ博士に相談してみては?」・・・・・

このままでは、らちが明かないと判断し、膠着状態打破の為、皆がこの意見に賛同した。


 大統領選任に関係するほどの、アイザック博士とは、何者なのか?


【アイザック・ヴィルデ博士】

 博士は、世界的なAI技術の権威である。平和を愛し、ライナ共和国侵攻を初期の段階で、真向否定した人物でもある。

 本来なら、秘密警察などに捕まり、投獄されていてもおかしくはなかったのだ

が、アイザック博士を慕う人物は非常に多く、研究者はもとより、数々の企業トップ、政府・軍関係者にまで及び、そういった人たちのサポートで、家族と共に、ジパーナ国へ一時避難していたのである。そして、戦争が終わり、家族と共に帰国、かつての同僚・仲間で組織していた【チーム・アイザック】を再結成し、復興に向け、あらんばかりの努力を続けていたのである。

 国民的人望も厚い。それは、子供向け教育番組のレギュラーとして、科学実験や、日々進化する科学の世界を、子供でも理解できるよう、とても面白く、そしてわかりやく解説し、絶大な人気を博していたのである。

 また、博士には、双子の女の子がいて、SNSに、動画をアップしたところ、大手子供服会社役員の目に止まり、あれよあれよという間に、テレビCM出演。それがきっかけで、人気に火がつき、国民的子供タレントとなっていたのである。その双子姉妹 スルツカヤ と ハルツカヤ のパパとしても有名であった。

 妻も有名人であった。エレクトーン演奏の第一人者で、SNSのフォロワーは、全世界で1億人を超えている。


 だが、有名人だから、国民的人気があるから という理由で、政府から大統領選出手段の相談を持ち掛けられたのでは、決してない。

 博士が、復興の為、平和なプロキア連邦共和国を作り上げるために、【国家復興支援AIシステム】を開発しているとの情報を得ていたからである。

博士なら、何かよい方法を享受してくれるのではないか、政府関係者は、そう考えた。そして、博士が、暫定政府に呼ばれ、意見を求められたのである。


アイザック博士:「単刀直入に言います。国家復興AIシステム 【ハローシイ】により、まずは3名の大統領候補を選出し、国民投票により、大統領を決定する。というのは、どうでしょうか?」

 暫定政府構成員全員に、衝撃が走った。ある程度予想をしていた者もいたが、【AIにより我が国の大統領を決める】という事への衝撃は、かなりのものがあった。

(博士が話を続ける)

「ハローシイには、ありとあらゆるデータが保管されています。個人情報・企業情報など、ほぼ全てと言っていい程のデータがです。ご存じのとおり、我が国は、徹底した管理社会であり、中央政府により、ほぼ全てのデータが管理されていました。それを、ハローシイが受け継いだのです。この事が必ずしも、良い事とは考えていませんが、国の復興を目指すには、必要なデータであると考え、WSUの承認も得た上で、データの完全移行を行っていました。

 人間が話し合えば、そこには、利害が複雑に関係してしまいます。しかしAIには、それがありません。もちろん意図的にプログラムをすれば、意向に沿った結果は出せますが。

  ハローシイ は、100%正しい結果を出す とまでは言いませんが、少なくとも、大統領としてふさわしい人物の特定には寄与できるかと思います」


【ハローシイ】

((元々は、軍が開発していた、プロキア軍 国家軍事戦略AIシステム 【ププーシキン】を基に、平和目的のために改良した国家復興支援AIシステム(ププーシキンとは別機)である。アイザック博士は、ププーシキン開発の総合責任者であり、ププーシキンの全てを知る人物であった。戦争終結後早期に、ハローシイの開発・運用が出来たのは、ベースとなるコンピュータシステム機器が、プロキア国内の、とある場所に隠されていた事と、博士と一緒に避難した チーム アイザックのメンバーと共に、避難先のジパーナ国で、平和利用に特化したシステムの開発をすすめており、ほぼそのシステムが完成した状況で、帰国の機会を迎えたからである。))


 誰もが、いち早い復興を望んでいる。人と人との話し合いでは、結論が出そうにもない。AIに任せる事への不安はあるが、最終的に、国民投票による選出を行えば、国民の理解も得られるのではないか?・・・と、その場の者は考えた。


 【ハローシイ は、三名の大統領候補を選出した。】


 まず一人目は、【セルゲイ・ガイダル プロキア連邦軍極東地域 陸軍元帥】

 (65歳)である。この選出に驚きは無かった。

2m近い大男で、眼光鋭く、スキンヘッド。周りの者を圧倒する威圧感を持っている。その風貌により、誤解を受けやすいが、祖国を愛し、国民の平和を常に願い、陸軍元帥として任務を遂行している生粋の軍人であった。

 家族は、妻と子供が一人いたが、交通事故で死亡し、現在は一人身である。

<事故は不可解なものであった。見通しの良い、直線道路を妻が運転中、突然、車が蛇行し始め、民家へと突っ込んだという(目撃者証言による)、警察は、居眠り運転と判断処理したが、それを今だに信じてはいない>

 元々は、プロキア連邦軍本部の、陸軍統括元帥であった。頭脳明晰、部下への思いやりも深い。戦地へ兵を送り出す時に、必ず伝える事がある。

「君たちの家族・友人・知人が待っている。必ず帰ってこい。これ以上、無理だと思ったら、撤退するのも勇気である。勇気ある撤退 であれば、俺は全てを掛けて、君達を守る」と。

実際に言葉だけではなく、その通りの行動を起こしていた。

 下級士官や一般兵、特にプロキア連邦国内地方の小国からの派遣兵などは、戦争の駒ほどにしか思われておらず、勝てば、人がいくら死のうがかまわないという、プロキア軍においては、異質な人物であった。よって、元帥の行動を快く思わない者もいたが、いつも心から彼を慕う親衛隊が(軍人のみならず、政治家なども)元帥の周りを強力にガード・補佐しており、大事には至っていなかった。

 しかし、あまりにも人望が厚かった事から、彼の存在を恐れる上層部の人間が増えていき、やがては、それらの者の策略にはまり、失脚する事となる。

 だが、やはり彼ほどの優秀な人物は他におらず、ライナ国への侵攻が劣勢になってくると、非常事態に備え、ひとまず中央政府や軍本部への直接的な影響力が少ない、極東地域軍への配属として、復職したのであった。


二人目は、【グラディミール ペトロフ議員】(53歳)

 政治家の3世議員で、父は、財務大臣を勤め上げたほどの人物である。相次ぐ戦争で、プロキア国の財政悪化が顕著となってきていた頃に、財政立て直しを期待され、就任した。そして、次々と改革を進めていくのである。最大の功績は、自国内に眠る、無尽蔵の地下資源(石油・石炭・天然ガス・鉄鉱石・レアメタル)の再開発により、急激な輸出拡大を成功させた事で、莫大な外貨を稼ぎ、財政復活を果たしたのである。

 そんな父の背中を見てきたペトロフは、幼き頃より、政治家を意識する。

父も、息子に跡目を継がせるべく、英才教育を行い、成人後は自分の秘書として身近に置き、政治家として必要な事を教え込んでいった。

 父は、外交による他国訪問時や、各種レセプションに、息子を同伴させ、人脈造りの大切さを学ばさせると共に、幅広い見識が持てる大人に育て上げていった。

 家族は、妻と、長男、長女、次女の5人家族である。根っからの政治家家系であり、人望も厚く、世渡りにも、たけていた。若手議員の最優良株で、上層部もその才能・実績を認めており、更なる経験を積ませるために、様々な要職に就かせていった。

 表面上は、上層部には絶対に背かない という姿勢を貫いていたので、先の侵略戦争でも、賛成派とみられていたが、実は、他国侵略に心を痛めており、早期の終戦を願い続けていたのである。


三人目は、【イリヤ ハルトマン】(46歳)現在は町医者

 誰もが予想だにしなかった人選であった。

世界的な外科手術の名医ではある。若き頃より、特異な才能を発揮し、外科医としての地位を高めていった。やがて、その手腕は海外でも幅広く知られるようになり、他国政府を通じての要請による海外要人の手術も多数く行っており、国際外交に一役買っていたのである。

 では、そんな名医が、なぜ今、町医者をしているのか?

実は3年前、他国で行った国王の手術の際、命を助ける事が出来ず、責任を取るかたちで、第一線を退いたのである。もともと非常に生存確率の低い状態で、手術の成功率は30%にも満たないという状況であった。ハルトマン医師も当初は断りを入れていたのだが、中央政府からの圧力があり、手術を行う事となったのである。

 ハルトマンの余りにも早い、医師としての成功を、快く思わない者たちが、政治家に働きかけ、汚点を付けさせようと目論んだのである。

 結局プロキア国際医療センターを辞める事になったハルトマンは、生まれ故郷に帰り、そこで開業医として、新たな人生を歩み始めた。

 内心は、晴れ晴れとした気持ちでいた。国際医療センターという巨大組織での、終わる事のない権力争い、嫉妬、利益追求主義、医療機器・新薬導入の際の賄賂横行・・・巨大医療現場の実態を知り、嫌気がさしていたのである。

 だが今は、幸せを感じている。もともと話好きで、患者とはよく話をする。余りにも話が終わらないので、よく看護婦から

「先生、次の方がお待ちです。いいかげん、診察してください」

などと、しょっちゅう、怒られてた。

 何もただ単に話をしていた訳ではない。

住民と話をする事により、いろいろな情報が得られる。町の問題点とか、患者の現状・気持ち、近隣住民の様子など、一見、何気ない会話をしているように見えても、常に周りに人々の事を考えていたのである。

 「最近、〇〇婆さんを見かけなくなったなぁ」という話を聞き、気になって、買い物の帰り際、自宅に寄ってみたら、居間で倒れていて、間一髪、命を救う事ができたなどと言うエピソードもある。

 家族は、妻と、長女、長男、そして柴犬の コロ であり、豊かな自然の中で、畑での野菜作りを趣味に、心豊かな生活を送っていた。

 


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