第3話 プロキア連保共和国・・・戦犯者の特定
プロキア連邦共和国は、新しい国造りに向けて動き出した。
まずは、国内に残った、あるいはライナ共和国侵攻時に、戦争反対を唱え投獄されたり海外避難をしていて帰国した、政治家・評論家・民間活動家・軍人などで、暫定政府が組織された。
暫定政府の根底にあるのは、【戦争反対】である。二度と、ライナ共和国侵攻のような間違った行為をしない事。これが、すべての事象に対しての絶対条件であった。
しかし、人選において、軍人である(あった)事を理由に、リストから漏れるという事はなかった。軍人または軍関係者であっても、正義の志を持つ者は、数多くいる。
軍事政権を作る事は決して無いが、国防は今後も必要であり、偏った人選によるリスク回避や、強い求心力を持った人物、優れた指導者という観点からも、軍人排除という事はされなかった。
中央政府による、厳しい管理体制の元では、反政府行為ととられる行動は、うかつにはできないもの。上層部からの命令を受ければライナ共和国内の戦地へ赴かなければならない。実際プロキアでは、戦争に反対すれば、すぐさま投獄・拷問・処刑され、家族への危害も加えられる状況下においては、ほとんどの者は、命令に従うより他は無かった。それらを考え合わせれば、軍人である事を理由に排除 とはならなかったのである。
では、軍人の中で、誰が【正義の志を持った者であるか】逆に【戦争犯罪者は誰であるか】を確実に判断する方法はあるのだろうか?
スマートフォンなど情報発信機器・システムの発達で、先の侵略戦争でも、多くの動画等が全世界に配信された。よって、戦犯者選別のある程度の判断材料とはなったが、元帥や将官・佐官など上位の者を除いては、よほどの動画記録等が無ければ、なかなか特定が難しい問題ではある。特に、地方からの招集者などによる略奪行為等は、立証困難の可能性が高い案件である言える。
しかし、今回に限っては、海を隔てた隣国 ジパーナ国企業 【リライアンス通信社ライナ支局】の働きにより、大きな進展をとげたのである。
【リライアンス通信社】(RTC)
本社はジパーナ国にあり、通信社とはあるが、単なる通信事業者ではない。
世界的な通信関連総合企業である。
2015年に、ライナ共和国政府直々の強い誘致依頼を受け、ライナ支局を設立するに至ったという経緯がある。
インターネットが開発され、徐々に普及し始めた当初より、その可能性に着目し、研究・開発を続け、今や、その部門において世界有数の企業へと成長した、世界的な超優良企業である。
企業の強みは、高性能な情報収集・発信機器、高度なセキュリティーによる揺るぎない信頼、AI技術、スーパーコンピュータ開発、優れたカメラレンズ製造技術、音響技術といったところを、高レベルの段階で、統合活用している部分である。
その集大成として、世界トップレベルの人工衛星開発技術の保持があげられる。
安定した日が長く続く、ライナ共和国には、世界的な人工衛星打ち上げセンターがあり、RTCとの技術提携は非常にメリットが高かった。
RTCにとっても、人工衛星の販路拡大、30年間の税免除、工場施設地の無償提供、ライナ軍・警察による徹底警備、優秀な人材の紹介、政府からの情報・原材料の安価提供、ジパーナ社員への高級家屋無償貸与などなど、双方がWinWinの条件で誘致が成立し、実際に長きに渡り、非常に良好な関係を継続し続けていたのである。
2022年、サレミア半島侵略を受けた1か月後のジパーナ国 リライアンス通信本社では、会社役員(社長を含め7名)による、最重要会議が行われていた・・・・・
(社長)松永:「まずはこの会議が、今後の我が社の未来、いや、世界の未来を決定づけると言っても過言ではないほどの、重要な案件である事を伝えておく。」
6名の役員に緊張が走る・・・・・
「プロキア連保共和国による、サレミア半島侵略が行われた事は、皆も知るところである。幸い、我が社への直接的被害は無かったが、これで侵略が終わった訳ではない。と私は考える。あまりにも短期に侵略が成功してしまった事が問題である。
プロキア政府の連中は、今頃、侵略成功に酔いしれている頃だろう。そして次に思う事は、【更なる侵略】である。自国に何の被害もなく、広大な領土が獲得でき、世界からの非難はあれど、今更、諸外国はどうにも出来ない状態を作り出しているという事実は、暴君達を更に助長させてしまったことだろう」
(ここにも、将来を予見した、優秀な人物がいたのである)
「数年後、悲劇は繰り返される!と断言する。皆も知ってのとおり、ライナ共和国とは、非常に良好な関係が長きに渡り継続しており、我が社も多大な恩恵を受けている。そこで、私は今回の侵略を受け、我々は今後どのような行動をとらなければならないのか、我々にできる事は何かを考えてみた。
繰り返しになるが、この話は、【悲劇は繰り返される】とういう大前提に基づく話である。
我々は、衛星事業等も行ってはいるが、軍事企業ではない。たとえ再度の侵略が行われたとしても、軍事的な援助協力は、出来ないし行わない。このことは、諸君達も胸に深く刻んでおいてくれ。
それを踏まえた上で・・・我々の企業としての強みは何か?それは、世界最高峰の情報収集機器関連技術を持つという事であるのは、言うまでもない。
一旦戦争が始まれば、今度は、双方に大きな被害が出ると予測する。残念ながら、我々にそれを阻止する方法は無い。では、何が出来るのか?
次の侵攻に対しては、ライナ共和国は元より、その同盟国も、軍備増強を図り、監視も怠らないだろう。
戦争は、複数年に及び、両国の疲弊を招くと予想されるが、最終的には、ライナ共和国のサレミア半島奪回で、戦争終結を迎えるとまで予想する。実は、この事は、単なる私の想像だけではない。ある戦争シンクタンクからの情報でもあり、実は、我が国の政府戦略AIシステム【富士】で導き出された、極秘情報でもある。
(【富士】設計に至っては、RTCも加わっていたが、そのような極秘情報が、どのような経緯で、松永社長に入ったのかは、現段階では不明である。)
我々に戦争は防げない。では、何ができるのか・・・・・
それは、戦争犯罪の実態を全て明らかにし、例えどのような戦争結果になろうとも、侵略者の愚行を暴き、戦後、世界の審判を仰がせるという事である。
【戦争の実態・悲惨さを映像・音声を通じて、世界の人々に知ってもらう】という事は、【現代においては、戦争の実態は確実に暴かれる】という事実を世界中の人々に認識してもらえる。更にそれは、今後の紛争、戦争への抑止力を生み、未来の、戦争・動乱の無いの世界へと繋がっていくと、私は真に思っている。
では、具体的にどう動くかという事であるが、我が社の【ガイアル】(映像・録音装置)を特殊加工し、首都をはじめ、侵攻が予想される東部地域を中心に、極秘に埋設していき、終戦後に、それを回収。世界の人々に、戦争で何が行われたのかを白日の下にさらすという計画である。
もちろん、あらぬ誤解を招かぬよう、ライナ共和国大統領には、事前に相談をするが。
リアルタイムでの映像送信は、電波を察知され、装置の存在を知られてしまう可能性が高い。そうなれば、計画は全て無駄になる。
今までの戦争は、その悲惨な実態が闇に紛れてしまう事が多かった。しか
SNSの発達によりごく普通に情報発信が可能となった現代においては、戦争の実態も、ある程度、リアルタイムで発信ができる。
しかし、こと戦犯者の確実な特定や、残虐行為の現場映像となると、占領地において、様々な迫害・管理を受けている状況下では、なかなか困難であると予想され、一般的な映像だけでは、戦犯者の特定が全て出来ない可能性が高い。
そこで、クリアな映像・音声が記録出来れば、それらは戦争犯罪者を特定し、言い逃れを防ぎ、裁くための貴重な資料となることだろう。
趣旨・概要は、こういったところだ。
【戦争が起こらないようにできれば、それが一番良い。しかし我々にはそれが出来ない。ならば戦後処理に役立つ情報を収取する事で、ライナ共和国のため、世界のために尽くそう】
事が事だけに、極秘裏に動かなければならない。諸君の絶対的な協力が必要である。頼む、皆の知恵と力を貸してくれ」
(松永社長は、深々と頭を下げた。)
ライナ共和国大統領は、松永社長の申し出に、驚きつつも、その誠実さ・熱意に押され、情報収集計画の実行を決めた。
見方を変えれば、スパイ行為に等しい。運用を誤れば、国際問題へも発展しかねない。双方、信頼は寄せているが、危険な決断である事には変わりはない。
しかし、過去の戦争において、証拠不足により、戦犯者の特定が不十分であったり、特定できなかったのも事実である。
そして何よりも心を動かした言葉が、
『戦争・動乱の無い、平和な世界をり上げるために、戦争により行われる非道、残虐な行為をクリアに暴く事は必要です』の一言であった。
大統領は、特別チームを立ち上げ、RTC社員と共に、他国からの侵攻の際、重要と思われる地点でのビル建設時などに、【改良型ガイアル】を屋上附近の人の手の届かない壁面部分や、大型施設の内部支柱上部など様々な個所に、細心の注意を払いながら、極秘に埋設させていった。
最終的に、東部侵攻が始まるまでの8年間で、7,200カ所もの埋設が終了したのである。
改良型ガイアル
暗視撮影、世界最高解像度撮影、高性能少量光発電、気温差発電機能、自動撮影モード切替、超小型設計、記憶量限界3年分、始動命令電波による始動、無反射暗黒シート・電波吸収シート採用、取出時の3重暗号システム、敵による装置発見時の自動消滅システム(特殊な酸による装置内全融解、機械本体爆破)、超高性能収音能力、遠方音声ノイズ除去機能、高解像度顔解析撮影機能、無音動作、人感知時の近景・遠景多重撮影機能 などなど
終戦後に、奪還した戦地において、ガイアルは回収され、記録データの解析が行われた。それにより、プロキア連保共和国の残虐な行為が、クリアな映像・音声により、次々と暴かれる事になったのである。
また、プロキア連保共和国は、完全管理社会で、全ての国民の身体、経歴、音声データなど、様々な個人データを、中央政府内のスーパーコンピューターで保管管理していたため、戦後、それらのデータとガイアルのデータ、ライナ軍提供映像・一般映像、との照合が行われ、戦地において何が行われたか、そして殺戮者、略奪者などの戦犯者特定についても、高確率で暴いていった。
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