第5話
写真を撮ろう、そう言い出したのは、﨑里ちゃんだった。みんなで、写真を撮ろう。その声に﨑里ちゃんの苦悩が吐露されているように思えて、切なくなった。
「じゃあ、俺撮るわ」
と、﨑里ちゃんのスマホをひったくるようにして、何枚か撮影した。
「せっかくやけんさ、裕佳子ちゃんとお父さんのツーショットもいこう」
﨑里ちゃんが怪訝な顔をする。俺は構わずスマホを向ける。程よく酔った祐介さんはにこにこしながら娘とのツーショットに応じる。
「はい、裕佳子ちゃんとばあちゃん」
﨑里ちゃんは俺の意図を察したらしい。素直にばあちゃんと寄り添って写真に納まった。
「……じゃあ、裕佳子ちゃんと父ちゃん」
緊張した面持ちで﨑里ちゃんが竹史の横に座る。
「ちょっと、父ちゃん、もう少しくっついて。それじゃあ息子の彼女と仲悪そうやん」
遠慮がちにではあったが、父ちゃんは言われるがまま、﨑里ちゃんに寄り添った。今までやったら、もう絶対にありえん行動やった。胸の奥に何かがつっかえたようなやるせない気分になった。
「じゃあ、最後は久々に再会した友人どうしで」
﨑里ちゃんを横にした時より、一段と父ちゃんの顔が緊張した。かたや祐介さんの表情はにこやかだ。試しに言ってみた。
「父ちゃん、硬い。笑って」
顔をぎこちなくほころばせた。ほう、そげな顔できるんや、父ちゃん。
﨑里ちゃんに目配せしながらスマホを返そうとすると、祐介さんが笑いながら声を上げた。
「おいおい、肝心の、裕佳子と章くんの写真がないやんか」
ばあちゃんが、そうやわそうやわ、と言って、スマホを受け取り、俺たちの写真を撮ろうとした。スマホを向けながら言う。
「裕佳子ちゃん、もちっと寄って、ほら」
﨑里ちゃんが俺を横目で見て、遠慮しながら少しだけ間を詰めた。ああ、もう、ここは辛抱しどころやと思った俺は、深呼吸して極力平静を保ちながら、﨑里ちゃんにぴったりくっついて肩に手をまわした。肩を抱く左手がかすかに震えている。﨑里ちゃんはあからさまにぎょっとした顔をしたが、すぐにばあちゃんに笑顔を向けた。
「おっ、いいわあ」
ばあちゃんが嬉しそうに笑いながら写真を撮った。﨑里ちゃんがぽつりと言った。
「……スマホ、学校に持っていけなくなったじゃん」
ちょっと、﨑里ちゃん、それはひどいんやねえ?
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