エピローグ
合宿から戻ってしばらく。休日になって、約束していたように実家へと戻った。
二人で和菓子屋に寄って、手土産を買う。シュカは初めて見る本物の和菓子に目をきらめかせていた。
「健斗さんのオススメはどれ?」
相変わらず、というか。シュカが俺に歩み寄ってきてくれるのは、より顕著になってきた。我が儘を言うようになった、というのとは少し違うだろう。けれど、以前よりも距離はまた数段近くなっていた。
「そうだな……俺は塩大福が好きだけど」
「ご両親も好き?」
「多分。でも、水ようかんとかも好きだったはずだ」
「水ようかん? ようかんと何が違うの?」
シュカの知識はまだら模様だ。それは、俺が全能でないことが原因でもあるだろう。
違いが分からずもだついていると、店員さんが間に入ってくれた。そこからは、店員さんのオススメを聞きながら、お土産を見繕っていく。シュカは店員さんの話が面白かったようで、最後にはまた来たいと笑っていた。
「次はうちへ買って帰って味も楽しもうな」
「そうだね。味も知りたい。和菓子って奥深いんだね」
日本らしい特殊なことに、シュカは惹かれる部分があるらしい。田舎の写真を見ていたときにも、からぶき屋根に興味を持っているようだった。
外国のものに触れる機会は今のところないので、この興味が日本だからなのか。地球だからなのかは、定かではないけれど。色々なことに興味を持ってくれるのは嬉しいので構わない。
道中、得たばかりの和菓子談義をしながら、自宅へ到着した。
「ただいま」
「お邪魔します」
チャイムを鳴らして、反応も待たずに扉を開く。自宅なので遠慮はなかった。
シュカが後からついてきて、両親が家の中から玄関へと出てくる。両親がこうして出迎えてくれるほうだったとは、初めて知ったかもしれない。
「おかえり」
「いらっしゃい。シュカちゃん。上がって上がって」
「はい。こちら、お土産です」
「あら! ありがとう。気が利くわね。健斗の荷物は何?」
「こっちはあっちのご両親にだよ」
「そう。いいことだわ」
親父もシュカを気に入っているが、お袋のほうがその懐き方が大っぴらだ。シュカを大歓迎していて、息子のことなど後回しだ。
上がってといいながらも、玄関先で話がいくつか往復する。一段落ついて、俺から框を上がった。両親も俺の動きに合わせたように、家の奥へと戻り始めていた。
うちは日本家屋だ。それなりの屋敷なので、框が高くて台があった。シュカだって、多少は慣れているがそれでも不器用さが露呈する。先に上がった俺は、手を差し出して待った。
シュカが手を取って
「ありがとう」
と段差を上がってくる。
お互いに微笑み合って、奥へと入った。
今日は、あちらに行くのが優先だと両親には話してある。日中はあちらで時間を過ごして、夕食をこっちで食べてマンションへ帰ることにしてあった。
「もう、向こうに行っちゃうんでしょ?」
「後で帰ってきて夕飯食べるよ。先に行ってくる」
「ああ、挨拶してきなさい」
親父に言われると、職務の気配が強くなる。
でも、これは婚約者としての立ち振る舞いを言っているのだろう。お義父さんに嫌われてはいないけれど、だからって礼儀を欠くわけにはいかないので、俺は強く頷いた。
「気をつけてね。シュカちゃんも、実家でゆっくり休んできて」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行こう」
段差を引き上げてから、手を離していないままだ。
両親の前だとか、そういったことに思考は及んでいなかった。シュカも自然にしているものだから、尚のことだ。そのまま手を繋いで、あちらへ向かうための扉へと移動する。以前なら、縦一列に進んでいた通路だ。今はもう、隣同士だった。
向こうについたら何をしたいか、そんな話を緩くしながら、地下の扉へと進んでいく。シュカが丸く笑ってくれるだけで、俺には十分過ぎる週末だった。
「やーっと、自覚して進歩したのかしら?」
「そうだろうな」
「うちの息子ながら、あんなに鈍感なんて気がついてなかったわ」
「いきなりプロポーズなんてことになったから、混乱して誤認していたんだろう。二人とも」
「誤認するもの? あんなの分かりやす過ぎて、プロポーズなんてことがなくっても、婚約者にしてあげなくちゃって思ったわよ」
「契約だからどうしようもなくて俺たちが受け入れたと思っていたんだろうな」
「シュカちゃんが契約の強さを知っているものだから、尚更思い込んじゃったのね」
「背を押しただけなんだがな」
「あんなのどう見たって、二人とも一目惚れだったもの」
そんな会話を繰り広げられていたことも、俺たちの出会いがどういったものであったかの自覚も、俺たちは知るはずもなく感情を育てて進んでいた。
異世界人の許嫁! めぐむ @megumu
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