第30話 これがわたしのたたかいかた❤
それにしても、やはり
つまるところ似非調娘の勝利条件は、私の企みを全て阻止して諦めさせ、一人だけで
「茶番はもういいでしょう。あなた様に残された選択肢は、
似非調娘の目には、微塵の油断もない。
「わたくしは、稀人様よりは
「そだね。さすがのナツメもお手上げかも」
「? お認めに……なられるのですか?」
「だって、どうにもならないものは、どうにもならないじゃん。絶対不可侵? なんだっけ?」
私が似非調娘の発言を全面的に肯定しても、似非調娘は変わらず猜疑心の強い目を投げかけてくる。
どう見ても、まだ警戒心を解いてくれてはいない。
あいつならきっとまだ何か奥の手を……と顔に書いてある。ある意味で、ナツメへの信頼感が半端ない。
この人マジで……ナツメのこと好きすぎでしょ。
やはり、似非調娘のナツメへのコンプレックスは異常なまでに強いようだった。
「調娘として、せめて稀人様だけでも、無事にお還りになられることを切に願っております。あいつにそそのかされ、いらぬことを企てた結果、
そそのかされた?
ナツメは何度も何度も言ってくれた。ニャニャミャイたちことは気にせず、ククリだけで還れ、と。
ククリは、無関係だ――今なら私にも、その言葉の真意が分かる。
この人は、ナツメのことばかり気にしているのに、対抗心ばかりが先走ってナツメのことを1ミリも理解しようとはしていない。私よりずっと付き合いが長いはずなのに。
二人の間に何があったのかは知らないけど、それがきっと、似非調娘の致命傷になる。だってナツメは、似非調娘のことを誰よりも深く理解しているようだから。
「分かった分かった。分かりましたー。じゃーあんたの言うとおり。私は還らせてもらおっかな」
私は、正門がある正面玄関の方につかつかと歩いていく。
私がどのような品を継白に選ぶのか、それを警戒していた似非調娘は虚をつかれたような顔になった。
「稀人様。何か一つ、お持ち帰り下さい。それがルールですので。そうしなければ、正門は開きません」
「そんなこと分かってるって。たださー。別に開かなくてもいいじゃん?」
「は? 開かなくてもいい、とは?」
似非調娘は、私の発した言葉の意図を必死に探り当てようとしているようだった。
私は正門に置いてあった自分の靴を掴んだ。綺麗に揃えて置いてくれている。こういうところが一々似非調娘らしいが……。
私は、似非調娘の方を振り返り、べーっと舌を出した。
「あんたがこっちから出ろって言うなら、私はあっちから出る」
「あっち? とは? 稀人様?」
「調娘と違って、稀人や
私は、勝手口がある方を指さしながらそう宣言した。
「裏門から? ……稀人様が
似非調娘は、困惑の表情を浮かべつつも質問に答える。
「たまに間違って裏門から
稀人様はすでに
稀人様は、この世界の住人になられたのです。もう、元の世界には戻れない。継白を選び、継子としての道を歩むよりありません」
つかつかと裏門の方に歩いていく私の後を、似非調娘が説明を続けながらついて来た。
似非調娘は、私はすでに知っていると思っていろいろ説明を省いたようなので、想定よりもルールを理解できていなかったのではないか? と思っているようだった。
「知ってるー。黄泉竈食しちゃったら、継子にならずに
「あいつが? ……あいつに何を言われたのか存じ上げませんが、継白を選ばずに、裏門から出て常夜に舞い戻ることに一体何の意味が? 明けない夜へと逆戻りするだけです」
「よくよく考えたらさー、常夜って歳取らないわけじゃん? それってサイコーじゃね?」
「本気で言ってらっしゃるのですか? それとも……あいつがそうしろと言ったのですか?」
本気なわけないのは似非調娘も分かっているはず。
似非調娘は、疑心暗鬼におちいったような表情を見せた。私の行動の意図が推し量れずにいるのだろう。
いや、私じゃないか。
私がナツメの名前を出した瞬間に、明らかに戸惑いの色が大きくなった。
似非調娘は、どうにもナツメを意識しすぎていて、いわゆる――孔明の罠だ状態になってしまっているのだろう。
ナツメの指示はこうだ。
***
「似非調娘は、ククリが継白を得て、継子になる。そして、なんらかの
「そりゃそうでしょ。実際そーなんじゃないの?」
ナツメは、首を横に振りながら話を続ける。
「迷家の加護を受け、迷家に守られている調娘は、迷家にて絶対不可侵の存在だ。そのフィールド内においては、無敵の存在。やはりお嬢に聞く限りにおいて、継子ごときではどうにか出来るものではないよ。そもそも、どうにか出来てしまうようでは務まりようのないお役目だからな。プレイヤーがゲームマスター相手に喧嘩を売るようなものなのだ」
ナツメは肩をすくめながら悪戯っぽく笑った。
「ましてやまだ継子になりたてで、
「しっつれーな! じゃー私、どうすればいいの? 私に出来ることって?」
「何も出来はしないさ。何も出来はしないのだから、それでも出来ることと言えば……」
***
「お世話になりましたー」
私は裏門につながる勝手口に自分の靴を置いて、それを履く。そんな私を、似非調娘は困惑顔で見つめていた。
「あのさ。私、さっきあんたのこと好きになれないって言ったけどさー……それって別に嫌いってわけでもないから。てか、むしろかなり好き寄りの好きになれない?」
「はい? 何を言って……どういう意味でしょうか?」
「今のだけはさ、そのまんまの意味だっての。『まだ』好きじゃないってこと。私が言うのもなんだけど、ホントめんどーなやつだよねーあんた」
似非調娘は、私の狙いがさっぱり読めないという表情で、さらに困惑の表情を深めてしまった。やっぱり理解はしてくれていないっぽい。
ただそれでも、この気持ちだけは、ちゃんと伝えておく必要があるように感じたのだ。
きっと、今までだってそういう人はたくさんいたはずだ。
似非調娘は、私と違ってとても優秀な男だ。相手の気持ちにちゃんと気づいて育んでさえいれば、選んでくれていた人はたくさんいたのだと思う。
「じゃねー。あ、でもさ……。やっぱ勿体ないかー」
「勿体……ない?」
その瞬間、それまでは困惑の表情を浮かべていた似非調娘の顔が、なぜか少しほくそ笑んだように見えた。
「迷家内にあるものを一つ、何でも持って帰っていいんでしょ? どんなものでもさ」
「はい。迷家の中にあるものなら何でも構いません。調娘に危害を加えないというルールの範囲内で、ですが。ただし一つだけです」
良し。言質はとった。
「しかしその質問、何度目でしょうか? やけにこだわり……」
似非調娘は、ハッと気づいたように目を見開き、そして大げさに、わざとらしいくらいに驚いた顔をした。
「そうか! だから、裏門から戻ろうとした!」
似非調娘が、狼狽した様子を見せる。私は、ニタリと笑う。
勝った! そう思ったからだ。
さあ、行こう。ツキミちゃんはネズミじゃない作戦!
これが……何も出来ない私の、精一杯の戦い方だ。
「じゃあツキミちゃんの
私の言葉を聞いた似非調娘の顔が、ぐにゃりと邪悪に歪んだ。
それは……明らかに勝利を確信した顔だった。
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