第31話 びーにいこう❤
これで、私が
――
と、ナツメは言っていた。
選んだ継白によって使える
私は、責任の重大さに少し身震いがする思いだったのだが。
しかし……ナツメの言葉は、こう続いた。
――が、そんなことはどーでもいい。
ナツメが言うには。
***
「どうせ何をやっても迷家内にいる
「その前?」
「ふむ。ここで重要なのは、似非調娘が、
私には、ナツメが言っていることがイマイチ理解しづらくて、首を傾げてしまった。そんな私を見て、ナツメはさらに詳細に作戦を説明してくれた。
「まずはその時までに、似非調娘の精神をギリギリまで削り、判断力を少しでも鈍らせておく。
そして勝負の時は、黄泉竈食を終わらした後、継白になる贈り物を選ぶまでのごく短い期間だ」
「んん? ごめん。どゆこと?」
そのタイミングでは、あくまで準備が整っているだけに過ぎない。結局、体質が変化しているだけで、私にはまだ何の力も……。
「似非調娘はこの後、継白を得たククリが何らかの
ナツメの瞳が鋭くなった。
「だからこそ、狙い撃てる」
普段は可愛いらしい猫が時折見せる、消えつつある狩猟本能の
「正しいからこそ、意識と注意力のほぼ全てをそちらに向けねばならぬ。
その時にだけ訪れるわけだ。それ以外の選択肢から目を逸らしてしまう、似非調娘の隙。用心深い似非調娘の、一瞬の余所見が。それが、ニャニャミャイらにとって、唯一無二の勝機となりうるはず。
そのタイミングで一気に奇襲を仕掛け、冷静さを取り戻す前にそのまま勝負を決めてしまう。二度目はない」
***
黄泉竈食を終わらしている私には、迷家にあるものなら何でも一つ、選んで持って還って良い――というルールが適用される。
ルールには調娘であろうと逆らえない。そもそも調娘と
じゃあナツメ……始めるよ。これが、何も出来ない私の、精一杯の戦い方だ。
ツキミちゃんはネズミじゃない作戦、開始!
「じゃあツキミちゃんの
私の言葉を聞いた似非調娘の顔がぐにゃりと邪悪に歪んだ。
それは……明らかに勝ちを確信した顔だった。
その顔を見て、ゾクリと悪寒が走る。
私は直感的に悟った――やはり、このまま行ってしまっては駄目だ。
ツキミちゃん。ありがとう。やっぱりツキミちゃんが私達の切り札だよ。
プランAは放棄。プランBに移行。
サブプランは全てが綱渡りだ。あまりに不確定な要素が多く、私ごときでは、やり切るのは困難だが。
判断は、私の裁量に任せる。二人は私にそう言ってくれた。
私が二人を信じているように、二人は私を信じてくれたのだ。
「……っていうのはリスクが大きいかもなんだってさー。迷家がどう判定するのかがツキミちゃんでも読み切れないって。その場合、私がツキミちゃんの
「な……に?」
似非調娘は、今度こそ本当の驚きの表情を浮かべた。
「でしょ?」
似非調娘は立場上、ルールの説明においては嘘をつけない。
「……そうかも知れません」
似非調娘は、苦虫を噛み潰したような顔になった。神経質な表情を浮かべ親指の爪を噛みだす。
ナツメの策を読み切ったと思っていたのだろう――いや、事実として読み切っていたのだ。
似非調娘はすこぶる頭が良い。
ナツメのこともよく知っている。ナツメが考えつきそうな作戦を推測し、それを看破し、先回りできる力がある。
最初にナツメが必死に考え練り上げた作戦には、完全に辿り着いていた。
あの勝ち誇った顔からして、迷家がどのような判定を下すのか、すでに迷家に確認済みだったのだろう。
だからあえて、こちらの策に嵌められたフリをしていた。
やはり、似非調娘は強い。
あれだけ周到に用意して積み重ねても、ナツメが言う「一瞬の余所見」すら見せてはくれなかった。
危なかった。ナツメだけでは負けていたかも知れない。
しかし、ナツメには仲間がいる。
こちらには迷家を知り尽くしているツキミちゃんがいた。ツキミちゃんのアドバイスが無ければ、ここで終了だったのかも知れない。
決して奢らず、自分の力だけに頼らず、仲間を頼り、人の力を活かす。それが、似非調娘には無いナツメの強さなのだ。
「でも私、貰えるものは貰っとく主義なんだよねー。せっかくだし、違うもの貰っとこうかなー。じゃあそういうことで」
「何をおっしゃっておられるのです? 何もお持ちになっていないようですが。何でも良いので一つお選びになってください。よくよくお考えになって……」
じゃあナツメ……今度こそ、始めるよ。
ツキミちゃんはネズミじゃない作戦プランB!
「悪いんだけどさ、私、最初から決めてんの。私はさー、迷家内の『空気』を持って還るよ」
「迷家内の空気? 空気とは?」
似非調娘は、目を瞬かせる。私の口にした言葉の意味が分からないらしい。
「稀人は迷家の中にあるものを一つ、どんなものであろうと、持って還ることができる。それが迷家のルール。唯一の例外は、調娘に危害を加えてはならないということ。だよね?」
「はい。そうですが……」
「空気って切れ目がないから、迷家の敷地内にある空気全部で一つってことになる。そういうことでいいんだよね……ルールの番人たる調娘さん?」
「はぁ? 迷家の空気を全部持って還る? だと? そんなこと出来るわけが」
「ほんと~にぃ? ツキミちゃんは出来るって言ってたけど?」
私は、これみよがしにニマニマと笑った。
ナツメ曰く。
――確かに今、迷家自体は似非調娘が掌握している。全ての事象についての裁定権が似非調娘にある以上、こちらの絶対的な不利はどうやっても覆らない。
しかし、コチラ側が有利なことも無いわけじゃない。それは、こちらにはお嬢がいるということだ。
迷家に関しての知識、情報量ではお嬢がいるコチラが大きく
そして何より重要なのは……似非調娘もニャニャミャイらの方が知識量で
これは、こと駆け引きに置いては、しばしば
誰よりも頼りがいがあるナツメとツキミちゃん。
二人がうんうんと頭を捻りながら、考え出してくれた作戦。悲しいかな、私は作戦立案にはほぼ関与できなかった。
逆に言うと、アホの私が関与していないからこそ、自信を持って遂行できる!
いや、言ってて本当に悲しくなってくるんだけど。
私が出来ることは、二人の考えたことを、全幅の信頼を持って、最後までやり通すことだけ。
「じゃあ、調べてみたらー? 迷家に聞いてみたらいいじゃん? 調娘は、迷家に確認することが出来るんでしょ? ツキミちゃんが言ってたし」
私は、ニタリと含みのある笑いを作りながら、自信有り有りな視線を似非調娘に投げかけた。
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