第23話 ほんとなにやってるんだろ❤

 ナツメの考えた作戦はこうだ。


「では具体的な話に移るが、この作戦の最終目的は、お嬢を迷家まよひがに送り込み、調娘つぎこの持つ最上位の管理者権限を使って迷家の管理システムにアクセス。迷家のシステムを奪い返す、というものだ」


 これが大まかな作戦目的の概要のようだった。


「ニャニャミャイだけでは手も足も出せぬ相手だったが、お嬢ならばあるいは……絶対不可侵のはずの調娘に勝てる可能性があるのは、本物の調娘だけということだな」

「う、うん……が、頑張る」


 うーん……。


 ありがたいことに二人はちゃんと内容を理解して話しあってるみたいだからその点は安心だ。

 だけど、私はどうにもこうにも話に参加するのが難しい。

 そもそも私だけが、肝心な迷家なるものに詳しくないのだから、話に入り込みようがないわけだけど。


 よし! 私は出来るだけ邪魔にならないように口を挟まず黙っておこう。


 私は口をつむぎ、一生懸命で可愛らしい二人をひたすら愛でていることにした。


「ニャニャミャイの見立てでは、現在の迷家は、調娘不在の非常時ゆえに、臨時的にそこにいた似非調娘えせつぎこに限定的な管理者権限を付与し、調娘の代理として迷家のシステムを管理させている状態にあると思われる」


 ナツメは言っていた――調娘は、迷家がなければただの小娘に過ぎない。

 それは逆もまたしかりであり、迷家にとっても調娘の存在は必要不可欠なのであろう。だから、代理を立てた、と。


「お嬢を迷家に戻すことさえ出来れば、お嬢の管理者権限は階層の最上位に置かれているであろうから、お嬢のほうが権限のレベルが上ということになり、迷家はお嬢側につくはずだ。そうなれば、似非調娘に付与されてしまった管理者権限の剥奪も可能になるはず」


 話はだんだんと、詳しい説明に切り替わっていく。

 二人の難しそうな会話を聞いていて、私がなんとなく分かったことと言えば、やっぱり私は何の役にも立てないんだなって言うことだけだった。


 私が一番年上なのに、ほんと何やってるんだろ。



***



「以上が、この作戦の詳細になる。質問はあるかククリ?」


 ナツメの説明は非常に分かりやすく、迷家のことをイマイチ知らない私ですら、自分が何をすればいいのか良くわかった。

さすがナツメだと思う。


「無い。でもなんだかさー。聞いてる限り、結局、重要な所は全部ツキミちゃんにお任せするってことじゃん?

ナツメは作戦考えてくれたからいいけどさ……ナツメがいないとこんな作戦考がえつかなかったわけだし?」


 二人が頑張ってくれているのに、私だけ、何も貢献出来ていない。

 こんなの……相棒でもなんでも無い。


「で、その作戦って、ツキミちゃんの情報をもとに考えたわけだからさー。つまり、始まりもツキミちゃんだより。終わりもツキミちゃんだよりってことでしょ? 私……三人一緒でここから出るとか大口叩いといて、なんか私だけ役立たずで。なんの力も無いし、情けないなーって」


 無関係……か。そうなのかな? やっぱり。


 イジケ気味にしょぼくれている私を見て、ナツメとツキミちゃんは驚いたように顔を見合わせた。


「何を腐っている。役立たず? ククリが? ニャニャミャイらの中で、ククリしか結界を越えられんのだ。ククリがいてくれないとどーにもならん。お嬢に負けず劣らず最重要な役どころだぞ」


 あの穏やかなナツメが、なぜか少し怒っているように見えた。自分の大切なものを侮辱された。そんな顔だ。


「そもそも、力が無いから情けないだと? 意味がまるでわからん。逆であろうよ。確かにククリにはお嬢のような力はないかも知れん。だがそれでも、それなのに、絶対的な力を持つ似非調娘の待つ迷家に単身で乗り込み、一対一でやり合おうというのだ。それの何が情けないと言うのか。

この作戦の全ては、ククリの仕事にかかっていると言っても良い」


 ナツメの言葉を引き継ぐようにツキミちゃんが言う。


「それに、始まりはボクじゃなくてククリちゃん。ククリちゃんが稀人まれびととしてここに来てくれなかったら、ボクもナツメも、それがルールだからって全部諦めてた。これは、ククリちゃんが始めたこと」


 ナツメとツキミちゃんはもう一度顔を見合わせ、頷きあった。


「ククリは、ナツメという名をニャニャミャイに与えてくれた」

「ククリちゃんは、ツキミの名前を思い出させてくれた」

「ああ全く。それがニャニャミャイたちにとってどれほど大きいことか。ずっと凪いでいて、どこにも進めなくなっていたニャニャミャイたちの心に、新たな風が吹いたのだ。ククリが、稀人たりえる由縁よな」

「ボクたちは、ククリちゃんのおかげで決めた。三人一緒に、ここから出ていく」


 三人……一緒……。

 そうだった。自分で言いだしたくせに。勝手に一人になっちゃったみたいな気持ちになって……何やってんだか。


 私達は、三人一緒に――もう二度と、絶対に忘れない。


「だから……作戦名はククリが考えてくれ」

「私が? え? いいの?」

「ククリが始めた戦いだ。ニャニャミャイたちはククリについていく」


 三人が揃って、初めて成し得る作戦なんだ。だから、作戦名も私がつけてくれ。

 この二人は、そう言ってくれているのだ。


 だけど、どうしようか? 責任重大だ。でも、ここは腕の見せ所。


「じゃあ……作戦名は――『ツキミちゃんはネズミじゃない作戦』! えー、言うまでもなく、ナツメの口癖にヒントを得ました。そしてツキミちゃんの名前が入っています。つまり、二人の想いも入れて見た感じです。そしてそれを私が考えました。三人が揃って初めて出来る作戦名。どうでしょうか?」


 はっきりいって、自信作です。三人の絆を感じる作戦名のはず。


「……すまん。人選ミスだったようだ。気にするな。ククリのミスじゃない。ククリに頼んだニャニャミャイのミスだ」

「なんでー。かわいくない?」

「だから、かわいいかどうかなど、どーでも……」

「ボク、好き。かわいい」

「それ、正解。さっすがツキミちゃん。わかってるー」


 驚愕の表情を浮かべ、ナツメはツキミちゃんを見た。


「正気かお嬢? いかん……お嬢に悪い影響が。早くなんとかしないと」

「ねー、かわいいよねー」

「うん。かわいい。かわいいは正義」

「それな。とりあえずかわいいなら、後はなんとかなるっしょ?」


 ナツメはこの世の終わりを悟ったかのように、全てを諦めた表情で天を仰ぐ。


「かわいい至上主義……なんと恐るべき感染力……」


 かわいいかどうか。女の子にとってそれは絶対的な評価基準なのである!


 って……男の子には理解し難いかも知れないけど、それって完全に冗談ってワケじゃなくってさ。

 イケてるかわいい格好でキメれば、なんだかいつもより強くなった気がするし、少しだけ勇気だって湧いてくるんだ。

 それが、女の子ってもんなのである。


 さあ……準備万端整った。戦いが、始まる。




――あとがき――

第5章まで読んでいただきありがとうございます。

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