第18話 だからおねがい❤
ナツメの
ナツメは目をキラキラと輝かせ、語りだす。
「
ナツメはかわいらしい小さな手からにゅっと鋭い爪を出し、『月娘』と達筆な字を地面に書いた。
「月の娘? うーん……よくわかんないけど、かぐや姫的な?」
「ほう? またまた面白いことを言うなククリは……まあ、当たらずとも遠からずかも知れん。日本最古の物語と言われる竹取物語。かぐや姫は月の世界の住人だったという話だが――それはすなわち
まあ確かにずーっと夜の世界の常夜を、月の世界と呼ぶのに違和感はない。
「また、かぐや姫は求婚してきた者たちに様々な
ひたすら楽しげにナツメは語る。
「まあそれはともかくとして、時代が進み、月からの使者という役割より、
ツキミちゃんは、こくこくと頷きながら言った。
「そう言えば、おばあちゃんにもお母さんにもお姉ちゃんにも月ってついてる」
「であろうよ」
ノリノリである。ナツメは鼻息も荒く、ひどく興奮したご様子で、早口で自分の思いついた説などを捲し立てていた。だが。
「ふーん。そんな由緒正しきいわれがあるなら、凄く大切な名前だってことじゃん?」
「当然だ。愛情とともに名を授けたのであろうお嬢のご両親は勿論、偉大な調娘の先達から脈々と受け継がれてきた月の字には歴史と……」
「そんな大切な名前が奪われちゃったんだー。じゃあ、ますます、絶対取り返さなくちゃじゃん? でしょナツメ?」
続く私の言葉を聞いた瞬間に、ナツメのピンと立っていた耳と尻尾がしなしなと萎れてしまった。
しまったぁ……そう来るかぁ……とナツメの顔に書いてある。
「そうしてやりたいのは山々だが、それは無理だと言っておろうが……」
「分かってる分かってる。ルールがあるってんでしょ? でもさー、ルールっていうのには、必ず抜け道があるもんなんだって。ナツメは頭いいけど、頭固いとこあるんだよなー」
「抜け道など」
「絶対ある! 皮肉な話だけど、
反論できなかったようで、ナツメは少し言葉に詰まった。
「う……まあ、な。確かに……それを言われてしまうとな……。あやつはとても
「まあ、ナツメも頭いいけど、ちょっと人が良すぎるとこはあるよねー」
善意につけ込むみたいなのは苦手そう。
そこら辺はまあ、相棒の私がフォローしていくとしてだ。
「ナツメはナツメらしく、ナツメのやり方でやればいい」
「ニャニャミャイらしく?」
「そ。考えても見なって。こっちには迷家を知り尽くしている調娘のツキミちゃんと、すごく頭が切れるゴミ山の賢者がいるんだよ?」
「ゴ、ゴミ山? 賢者? なんだそれは? もしかしてニャニャミャイのことか?」
「ボクが考えた。ナツメにぴったり。似合ってる」
どうもナツメには了解をとっていない呼び方だったらしい。ツキミちゃんにとっては自信作であったようで、ツキミちゃんは誇らしそうに小さな胸をはる。
「ふむ。そう言えばお嬢、ここのことも天神様の細道とか名付けていたな。みながそう呼ぶようになった」
どうやらツキミちゃんは、呼び名やあだ名を考えてつけるのが好きなようだ。
「ともかくその二人の強力な布陣に加え、私もいるわけでしょ? んで私は! 私は……あー……まあ、なんだろ? 頭脳労働方面じゃあんま役に立てないかもだけど……でも、私ならほら! あの結界を越えられるんでしょ? これ、かなり重要じゃん?」
照れ隠しに頭を掻く。正直なところ、頭脳担当は無理だ。自慢じゃないが、私のオツムの出来は壊滅的と言える。
「ルールの抜け道を探して、ついでに三人一緒にこの天神様の細道からも抜け出しちゃえばいいんだって」
「三人一緒?」
ナツメは、眉を潜めて聞き返すが、私は全く悪びれずに言う。
「そ。ここまで連れてきてくれたナツメには悪いけど、私の中には最初から、一人で出ていくって選択肢なんてなかったから。私を
ナツメは――弱い者に弱いのだ。
ナツメはなんとかして私を
ちょっと卑怯だけど、私の今のこの立場は、ナツメを動かすのに利用できる。
私は、手を突き出す。
「ナツメ。ツキミちゃん。あれだよあれ! 桃園の誓い的な? 我ら三人! 迷い込みし時は違えども、出ていく時は同じ! みたいな?」
ツキミちゃんはすぐに私の意図を理解してくれたようで小さな手を重ねてくれた。しかし、やはり肝心のナツメが中々のってこない。
渋い顔をしたまま、こちらに近寄ってこようとしない。
ナツメが、私とツキミちゃんを危険に晒したくないと思ってくれているのは分かるんだけど……。
「あーもうナツメはほんっとワガママだなー。私たちは絶対、三人一緒にここから出ていく。それ以外は認めません! これからしっかり作戦練らないといけないんだから。勿論、ナツメが考えるんだよ? ナツメは絶対似非調娘なんてやつより凄い。ナツメの言う事なら私もツキミちゃんも信じられる……だからお願い」
やっぱり、最後は小細工なしの押しの一手。正面突破しか無い。そう思った。
自分が一番言いたいことを、精一杯の心を込めて、ストレートに言うことにした。
「だからお願い。もう一回、ニャニャミャイを信じろって言って!」
ナツメはしばらく放心したように私を見つめていたが、ゆっくりと近づいてきて観念したように、ゆっくりと手を重ねてきた。
「やれやれ……まったくこれだから
ナツメの顔は、吹っ切れたように清々しかった。
「さて、やれるだけやってみるとしようか」
絶対頼りなる。
「大丈夫だ。ニャニャミャイを信じろ」
そう思わせてくれる表情だった。
――あとがき――
第4章まで読んでいただきありがとうございます。
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