第17話 むかんけい❤
お嬢は、少し人見知りするきらいがあるものの、知り合ってしまいさえすれば基本的には素直で明るく朗らかな性格をしているようであった。
ナツメが愛くるしいと表現していたのが、ネズミになった今でも十分に分かる。
「私、
「ククリちゃん?」
「そうそう。お嬢もお名前、教えてくれる?」
「ない」
「ない?」
「名前も
ああ、そう言えばそうなんだっけ?
すっかり失念していた。
でも、大丈夫。
「あーそれに関しては全然大丈夫。安心して。絶対にお嬢の名前と
「は? ニャニャミャイ?」
不意打ちを食らったようなポカーンとした顔で、ナツメは私を見た。
私はもう、お嬢を助けることに決めている。勝手に決めちゃった。
だってお嬢は、それこそ命がけで私を助けようとしてくれたんだから。
どーせナツメは反対するだろうけど、拒否権は認めません。
「いや、は? じゃなくて。何のために苦労してここまで来たと思ってんの? しっかりしてよねー。ナツメだけが頼りなんだから」
「いやいやいや。ここに来たのは、ククリを
「あー……まー、それも確かにあったっけなー。でも、お嬢も来てくれたんだし? ちょっと予定変更?」
ナツメは、言葉尻に噛みつくように言う。
「しない! ククリのやるべきことは、
「今、無関係って言った? ナニソレ? 言い方な!」
このちび猫めぇ……。えっらそうに。
無関係。
一番言って欲しくない、グサッと心につき刺さる言葉だった。確かに私はナツメやお嬢みたいな境遇にはなってないよ。なんの苦労もしていない小娘かも知れない。
ナツメからしたら、何もわかってないくせに勝手に何いってるんだって……そう思われても仕方ない。
だからって。無関係って言って欲しくなかった。悔しいやら悲しいやらで、ムカムカが収まらない。
「そもそもニャニャミャイは結界を越えられんし、よしんば越えられたところで、
ナツメの顔の前にすっと手のひらをつき出して、ストップ! というジェスチャーを出した。強引にナツメの話を中断させる。
もう、ナツメのこの手のお説教は聞きたくない。私は、何を言われようとやると言ったらやるのだ。
「あーもう、うっさい! うっさい! うっさい! そーいうこと言うなら話がややこしくなるだけだから、ナツメはちょっと黙っててくんない? お嬢と大事な話してるのに、さっきから全然話が進まないじゃん」
「んな? ぐ、ぐむぅ……す、すまん」
ナツメは口をパクパクさせて不満げな顔をしていたが、結局、口を出すのを止めてくれた。
「とにかく、ナツメ……あー。ナツメかぁ。ナツメは思ったより駄目っぽいんだよなー。なんか頼りないっていうか。しょせんは迷子の迷子の子猫ちゃんってことかぁ。がっかりだなー」
「んな! ニャニャミャイは猫ではないぞ!」
「えー、怒るのそこぉ? まあ、そこにこだわってるのは知ってるけどさー」
頼りないだと! そこまで言うなら見ておれよ! とかそーいう感じの熱い反骨心的なもんはないん?
「あのさぁ、ナツメ……。ナツメは私達のヒーローなんだからさー。しっかりしてよー」
「ククリの言うことは、時折さっぱり意味が分からん」
駄目だこの駄猫。ここまで挑発して焚き付けても、
湿気ってやがる。こいつ、心が湿気ってやがるぜ……。
仕方ないなぁ……こういう時こそ、やっぱり相棒の出番?
ナツメの扱い方、だんだんと分かってきている気がするのだ。
押して駄目なら。
ナツメは、咎人の身で他人と深く関わるべきではないと心に決めていても、泣いている人を見ると放おっておけず、ついつい声をかけてしまう――そんなやつだ。
ナツメは結局――弱い者に弱い。
「じゃあ私が一人で取り返すし」
「な? それは駄目だよククリ」
「だから、ナツメは黙ってて」
「ぐぬぅ……」
ナツメは困った顔で口をつむぐ。
「ナツメなんてもう知らなーい」
「ククリ……ニャニャミャイはククリのことが」
「ナツメは黙ってて言ってるでしょ!」
「うぬぅ……分かった」
黙れと言えばちゃんと黙るのがナツメの憎めないところというか、この子のかわいいところだと思う。
「だからね、お嬢の本当のお名前、教えてくれる?」
「えっと……ツキミ。
「ツキミちゃんかぁ。うん、かわいい。いいお名前」
ツキミちゃんの名前を聞いたナツメが、なぜか、そわそわとしだした。耳がぴくぴく動き、尻尾もピンと立ち上がる。
うわぁ……いきなりどした? 今の会話のどこにスイッチがあったの?
「あ、あのなククリ! それについてはだな! 少々いわれがあって……」
「ナツメは黙ってて」
「でもなククリ。調娘の名前には、実はある伝統があるのだ」
「『あのな』も『でもな』もありませ……」
だめだ……ナツメが眩しいほど瞳をキラキラとさせている……。
物凄く口を挟みたそうに、尻尾と耳をピンと立ててこちらを見ている。
前足で、ふみふみと押してくるので柔らかな肉球のぷにぷにとした感触が気持ちいい。
例の、あのねあのね聞いて聞いてモードだ。
「もー、わかりましたー。発言を許可しますー」
このかわいさにはどうしても勝てない。仕方なく許して上げることにした。
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