第10話 すすむいったく❤
ナツメにとって、お嬢が
話し終えたナツメは、かなり憔悴してしまったようで……ナツメが少し落ち着くのを待って、話を再開することにした。
「少し話が長くなってしまったが、ニャニャミャイとお嬢については、まあこんなところだ。
ここまで知ってしまったからには、知らぬ
ナツメは、満月のようなとっても甘い金色の瞳で、じっと私を見つめた。
「ククリがこの
進んで
「うーん……なんかさ、浦島太郎の竜宮城と玉手箱の話みたいだよねー」
私の言葉を聞いた瞬間、ナツメの目の色が変わった。もしかしてスイッチ押しちゃった?
「ふむ。いやいや……待てよ。あながち外れてはいないかも知れん。
浦島太郎の
やばい……やっぱり完全にスイッチオンしてる。ナツメは興奮した様子で早口で捲し立て始めた。
「原文の一つとされる
蓬莱山とは中国に伝わる不老不死の仙人がすむとされる
目がキラッキラに輝いている。この子は、本当にこの手の考察をするのが好きなようだ。完全にガチ勢である。
知りたいことはもう、ほとんど聞かせてもらった。約束だ。今度は邪魔しないで思う存分話させてあげようか。
「蓬莱山は中国の東にあるとされるが、中国の東には
常夜は『
しかし、自らはっと我に返ったナツメは、恥ずかしそうにこほんと小さく咳払いして、何喰わぬ顔で場を仕切り直した。
かわいいなあ全く。これを聞くのが嫌だなんて気の短いやつがいたものだ。
「ともかく、進めばククリは継白を得て、
進めば一つだけ得るものがあるが、様々なものを失うかも知れない。ニャニャミャイのようにな。戻れば得る物はないが、何も失わない」
ナツメが改めて、再度じっとこちらを見つめてきた。私の返答を待っているのだろう。
もう九割方、心の内は決まっているのだが。
「あのさー。これ、確認しとかなきゃなんだけど。なんで、私に声をかけてくれたの? なんで私の道案内をしてくれんの?」
ナツメは少し恥ずかしそうにし、聞き取りづらいくらい小さな声でぼそっと言った。
「クリ……泣い……から」
「へ?」
ナツメはぶるぶるぶるぶると
「ククリが、道に迷っているように見えたからだが。ずっとここにいるニャニャミャイは
ニャニャミャイですら一度も見たことがなかった故、稀人が迷い込んだと聞いた時は半信半疑であったが。……迷惑だったか?」
「迷惑なわけないじゃん! そうじゃなくて、私が言いたいのは」
どう言えば、いいのだろう?
「ナツメはさ、自分は何十年も出られなくて、ずっとここを彷徨ってんでしょ?」
「ふむ。確かにそれを言われるとな。頼りなく見えるのも無理はない。だがそれは道に迷っているからではなく、ニャニャミャイは結界のせいで……」
「そういう意味じゃなくってさ。自分は出たくても出られないわけじゃん」
「だからこそだろう? ニャニャミャイはずっとここにおるのだ。ククリよりずっと、ここに詳しい。このような
だから、そう言うことじゃなくってさ……。だって、私だったら。
自分がそのような苦難に直面していて、それでもなお、こんな風に人を助けようなんてしただろうか? 助かるのはその人だけで、自分が助かるわけでもないというのに。
なのにこの、自分を咎人だと蔑む子猫は、自分の行動に何の疑問も持っていない。
だんだんとムカムカしてくる。なんかさー、おかしくね?
「そっか。じゃあ決めた」
私が困っていたら助けようとしてくれる人。もしそんな人に出会えたとして、その人も困っていたとしたら、絶対に私が助けてあげるんだ。
ナツメとお嬢を苦しめたネズミの咎人が、この先にいる。
「ではもう一度聞こう。進むか。進まざ……」
「どー聞いても進む一択なんですけど」
ナツメは少し驚き、ひげをピクピクとさせる。
「なぜだ? ニャニャミャイのこのザマを見ておるのに」
「ぶっちゃけ私、ナツメみたいに頭良くないし、まだ、話ぜーんぜん飲み込めてないんだけどさ。それでも分かることはあるよね私にも。だってさー。なんか、いろいろムカつくんじゃん」
「何に?」
「だから、ここのルールとか禁忌とかってやつに。
大体さー、私、校則とかルールとかそういう系? 大っ嫌いなんだよねー。さすがに全部が全部とは言わんけど、ほぼほぼ無意味なやつばっかじゃん? ネイルの何が駄目なの? イミワカンナイ」
ビール瓶ケースから腰をあげる。鞄をしっかりと持ち直した。
「ナツメもお嬢も、絶対いい子じゃん? そんなん私ですら一目でわかるっつの。で、その何? ネズミの咎人? クソすぎー。なのになんでこれ、逆になってるワケ?
ルール作ったやつ、私よりバカなんじゃね? って話だし」
進行方向は決めた。
すっと曲がり角を指さして言ってやった。
「だから進む一択。早く迷家、連れてって」
ナツメは、諦めたように小さくため息をつく。
「だから知らぬほうが良いといったのだ……。ククリは……お嬢と同じ種類の人間に見えるよ」
「なになに? それってもしかして、さっき言ってた、とても愛らしいとかってやつ?」
ナツメは呆れたように苦笑をしつつも、やさしげに言う。
「なんだかんだでお人好し、ということだ」
――あとがき――
第2章を読んでいただきありがとうございます。
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