第9話 りがいのり❤
ナツメの話は核心へと差し掛かった。つまり、お嬢がネズミになってしまった時の話である。
「
どうやら結界には、一箇所だけ他の場所とは違う特性がある場所があるようだ。
「
「うむ。そうだ。
ということは、だ。
「
「調娘の初代は、
「じゃあ、やっぱり調娘っていうのは継子の親玉みたいなものだってこと?」
「親玉――というより、ある意味では、母親みたいな存在とは言えるかも知れん。調娘と迷家は、
なるほど……母親かぁ……。
「じゃあ、迷家は調娘の継白ってことになるの?」
「ふむ? ……まあ……言われてみれば、確かに似たようなものではあるが。そもそも継白とは、平たく言えば、ただの常夜の品に過ぎん。それだけでは、それ以上でもそれ以下でもない。常夜の『
ナツメは少し考え込んでいたが、気分を切り替えて話を続けることにしたようだった。
「『絶対不可侵領域』は、様々な禁忌を持つ代わりに調娘に絶対的な守りの力を与える
また、弾く対象も細かく指定できるというわけだ。人外の侵入を禁じる。とかな」
それで、人は通れるけど人外は通れないなんて不可思議な状態になっているわけか。
「しかし、力の
お嬢が結界を越えて常夜側に入り込み、迷家の敷地内から離れてしまったことにより、迷家は調娘不在の空き家となり、迷家を守る結界が消失してしまったのだ」
常夜の物である迷家と、
そこが分断されたせいで、結界を形成していた力の供給源も断たれてしまった――つまり、電源のコンセントが抜けてしまったみたいな感じだろうか?
「先程のククリの言葉通り、調娘にとっての迷家は、継子にとっての継白に近しい。それが無ければ、調娘と言えどただの人だ。
調娘は、迷家の敷地内にいる限りは迷家の
例えるなら、魔法使いが魔法の杖を手放してしまった、ということになるのだろう。
「その一瞬の隙を見て、彼の者は迷家に侵入。迷家の
これが、お嬢がネズミの
ナツメの顔には、明らかに激しい怒りの感情が含まれている。基本的には思慮深く、慈愛に満ちた性格のナツメにしては、珍しいことだと思った。
それほど、ナツメにとっては許せない出来事だったのだろう。
「彼の者は、調娘の地位を簒奪するために、お嬢を迷家の外におびき出したのだ。お嬢のやさしさにつけ込むという最も唾棄すべき方法でな。
お嬢は変わった調娘だった。彼の者は、お嬢をお嬢たらしめていた物を利用した」
しかしナツメは、彼の者――ドブネズミの咎人に怒りを感じているのだろうか?
それも何か違う気がした。
「それは確かに、今までの歴代の調娘には通じなかった手であろうよ。
調娘としてのお嬢の未熟さが呼び込んでしまった顛末なのだろうさ。
だが……ニャニャミャイには、それが悪いものだったとはどうしても思えぬのよ。
なのに今お嬢は、自分の優しさを自分の未熟さだったと後悔している。
全ての原因は! ニャニャミャイさえいなければ」
多分、ナツメが怒っているのは……。
「それが……ニャニャミャイが、一番自分を許せぬ理由だ」
自分自身にだ。
穏やかなナツメとしては、ありえないくらいに熱のこもった感情の吐露だった。
ナツメもお嬢も、こうなってしまった原因はネズミの咎人ではなく、自分にこそあると思っているようだ。
だからこそ私は、余計にそいつを許せないと思った。
「ネズミの咎人? 今はそいつが、この先の迷家ってとこにいるわけ?」
「そうだ。お嬢の名前と
ククリは稀人。偶然開いた入り口から迷い込みはしても、出口もまた開かれている。調娘と言えど、ククリに対して妙な真似は出来ぬし、もしククリがあやつと相まみえることがあったとしても、あくまで調娘として振る舞ってくるさ」
お嬢がネズミの姿になってしまった事の顛末を話し終えたナツメは、ふぅと小さく息を吐いた。話すだけでかなりの体力を消耗してしまったように見える。
それほどナツメにとって、拭いきれない後悔と自責の念が、今も鋭く胸を突き刺し続けているつらい過去なのだろう。
ごめんね。話してくれて、ありがと。
私は、心の中でお礼を言った。
ナツメが少し落ち着くのを待って、話を再開することにしよう。
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