第36話 いえっぽいまよいちゃん❤
ツキミちゃんによれば、
***
迷家の敷地内の庭に、青ざめた顔をしたツキミちゃんがいた。ぶるぶると
かわいがっているニワトリやヒヨコたちが、心配そうに? ツキミちゃんを取り囲んでいる。
「うう……こ、怖かったぁ。にわにわ、聞いてくれる?」
ボス格なのであろう、まん丸に太った一回り
「変な喋る猫がいた……。霧の中から突然出てきて、目があっちゃった。『む? 妙に幼いが……新しい
その時のことを思い出したのであろう。ツキミちゃんはぶるりと大きく
「もしかして、ボクがまだちっさいから、大きくなってから食べようと思ってるのかな?」
そこでツキミちゃんは、何かに気づいたように声を上げた。
「あ! もしかして、あれが
ツキミちゃんは、しゃがんでにわにわ達を撫でながら、語りかける。
「でもお屋敷の中、広くて暗くて静かで……一人ぼっち怖いし、寂しい。……ボク、どうしよっか? どうしたらいい? ねえ、にわにわ」
にわにわは、カクカクと首を上下左右に揺らしてツキミちゃんの周りをくるくると歩いてるいる。
非常によくなついてはくれているようだし、慰めるようにコケコケとは言ってくれるのだが、当然のごとく質問に対してちゃんと返事はしてくれない。
相談相手としては、心もとない。
「お姉ちゃん……。お姉ちゃんとお話したいな……」
ツキミちゃんの真ん丸な目が潤んで来た。すると……。
「了解しました。何か他にご要件はありますか? 他にどのようなお手伝いが必要ですか?」
突然、誰かしらの声が聞こえてきた。
ツキミちゃんは、驚いて周りをキョロキョロと見回したが、誰もいない。
「怖がらせてしまったようで、すいません」
「お、お姉ちゃんの声? お化け?」
「いいえ。私はお化けではありません」
その声は、天から聞こえてくるような不思議な声だった。
都合、こちらから話しかけようとすると何となく自然と上を向く感じになってしまう。
「あなた、誰? お化けじゃないなら、何?」
「私は、家です。通常、迷家と呼称されています」
「迷家? ……迷家って、迷家?」
ツキミちゃんは、迷家の屋敷を指さし首を傾げた。
「はい。その迷家です」
「迷家ってお話できたの?」
「お館様がそれを望むのであれば」
ツキミちゃんは、目をぱちぱちと瞬かせてしばらく珍しそうに迷家の屋敷を見ていたが、すぐににっこりと笑った。
「ふーん。分かった。じゃあ……お話したい」
「了解しました」
「でも、迷家って呼ぶのもなんか変」
「変でしょうか?」
「変。だってそれじゃあ家みたい」
「家なのです」
「家はね、喋らないよ?」
ツキミちゃんの、その単純過ぎるが故に否定しづらい物言いに、迷家は切り返す言葉が見つからなかったようだった。
「なるほど。なんということでしょう。今まで喋ったことが無かったので考えもしませんでした。私は……もしかして家ではなかったのでしょうか? 千年、私は自分を家なのだと思いこんでおりました。衝撃の事実です。では、私はなんなのですか?」
「家っぽい何か」
「何か、ですか……本当に、私は一体なんなのでしょう……」
迷家は、アイデンティティが大きく揺らいでしまったようで、考え込むように黙ってしまった。
「じゃあ……あなたは、家っぽい何か――じゃなくて家っぽいマヨイちゃん!」
「私は、マヨイなのですか?」
「うん。マヨイちゃん」
「了解しました。私は家では無かったようです。なのでこれより、家っぽいマヨイになります」
ツキミちゃんは、嬉しそうに頷きながら、マヨイちゃんに質問をした。
「マヨイちゃんは、なんでお姉ちゃんと同じ声をしてるの?」
「マヨイは、唯一無二の我が友人、
「もしかして、ボクがお姉ちゃんとお話したいって言ったから、お姉ちゃんの声で話しかけてくれたの?」
「はい、その通りです。マヨイは、ユヅキに、お館様が泣いていたら守ってあげてとお願いされました。お館様は泣き虫だからと。ご迷惑だったでしょうか?」
ツキミちゃんは、クスクスと愛らしく笑う。
「お姉ちゃん、そんな喋り方しない。マヨイちゃん下手くそ。でも……ありがと。お姉ちゃんの声聞くと安心する」
「理解します。マヨイもたまにユヅキの声を聞きたくなって、音声記録をリピート再生したりしています」
ツキミちゃんは小首を傾げて尋ねる。
「マヨイちゃん、お姉ちゃんと知り合いなの?」
「ユヅキは、千年活動してきたマヨイに出来た、初めての友人です」
「お友達なの?」
「はい。ユヅキは言いました。俺はやっぱり
「あ、今のちょっと似てた」
「今のが、何度もリピート再生している音声でしたので。ユヅキがマヨイを友達と言ってくれた時の音声です」
「ふーん。そっか。マヨイちゃんも、寂しがり屋なんだ。かわいーね」
ツキミちゃんは、またクスクスと愛らしく笑った。
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