第4章 ヒーローにお願い。
第15話 ぴんくのしっぽ❤
霧の曲がり角を越えて、やっとのことで辿り着いたループの先――
ここまで私を連れてきてくれたナツメは、無事に仕事を終えられたことに安堵の表情を浮かべていた。
やはり共同作業というものは親密度を一気にあげてくれるものであるように思う。特にそれが、肉体的接触を伴うものであったならば、余計に。
ついさっきまで私は、ナツメの一番デリケートな部分を、私の
それは、ナツメの下半身からご立派に伸びていた。
ナツメはそれを私に向かって勢いよく振り、初めてで怯える私をやさしくリードしてくれた。
それは、とても雄々しく感じられ、触れているだけで頼りがいがあって、暖かった。
ナツメのご自慢らしいそれの扱いを私に委ねてくれたということは、ナツメが私を信用していて、私に対してそれなりに心を開いてくれている証になるのだと思う。
ちなみに――尻尾の話なんですけどね。
ともかく、無事に霧を抜けられたことよりも、ナツメが心を許してくれたことの方が嬉しかった。
まあ、私がナツメに対して抱いてる大きすぎる好感に比べたら半分以下だと思うけれど。
今、ナツメの顔には責務を果たし終えた満足感だけではなく、一抹の寂しさが漏れ出していて……それを隠しきれていない。
これもある意味では、私に親愛の情を抱いてくれている証にはなるのだろうが。
「さて……名残惜しくはあるが、お別れの時間が来たようだ」
必死に寂しさを悟られまいとしてくれているのが分かって、逆にきつい。
そりゃそうだよね。こんなにしっかりしているように見えるけど、本当はまだ小学生なんだから。
自らの感情は押し殺して、去っていこうとする私の背中を押そうとしてくれているのだ。
ナツメのことは気にせず、振り返らず進めと。
胸が締め付けられるのを感じた。
せっかく……共同作業でちょっとだけ仲良くなれた気がしたのに。
「ニャニャミャイが出来るのはここまでだ。ここから先は結界があって、ニャニャミャイはついてはいけ……む?」
ナツメは突然言葉を切った。ちらりと私の斜め後方を見やりながら、ふぅ……と小さくため息をつく。
「やれやれ……全く」
ナツメが見ている方向は、今さきほど曲がり終えた、曲がり角があったほうだ。
つられて私も振り返る。
が、ナツメの視線の先には、特に何かがあるようには見えなかった。
とは言え、当然ながら、ここからでは曲がり角の先を見通すことは出来ないのだが……。
私は、ナツメの視線の意図がよく分からず、説明を求めるようにナツメの顔を見た。
「ん? 何? ナツメ?」
ナツメはなぜか、質問にははっきりとは応えようとせずに、曖昧に誤魔化すような返答をした。
「さてな。ニャニャミャイにも何がしたいのかよく分からん」
ん? ナツメにも分からないって……どういうこと? 気の所為だったってこと?
若干の疑問が残ったが、ナツメが再び話し始めたので、それを遮ってまでそれ以上突っ込むのは野暮だと思い諦める。
「ここから先は結界があって、ニャニャミャイ『たち』はついてはいけぬ訳だが……」
ナツメは話を戻したが、その内容がさっきと微妙に違うのがすぐに分かった。なぜならば、ナツメは『たち』という部分にアクセントを置いて話したからだ。
しかもナツメは私ではなく、曲がり角の方を向いて話しているように見える。
「たち?」
ナツメはやはり何も応えず、しばらく何かを待っているかのように黙っていたが、諦めたように大きなため息をついた。
「いつまでそうしている気だ? 一体、どうしたいのだ?
ナツメが再度、私の後方に向かって呼びかけた。しかし……今見える範囲では、やはりそこには何もない。
「何かククリに言いたいことがあるのではないのか? お嬢」
「お、お嬢?」
私は驚いて振り返り、もう一度、曲がり角の方を見た。
「やはりククリは気づいていなかったのか? 結構バレバレであったのだがな。
何やらお嬢が必死に身を隠しているように見えたので、あえて今までは口にしていなかったが……最初からずっとククリの後をついてきているぞ。
ククリのことが怖い反面、心配で仕方がなくもあるのだろう」
しばらく曲がり角をじーっとよく見ていると、曲がり角の壁からチラリと一瞬だけ、細くてピンク色の尻尾の先が見えた。
「あ! 今の!」
あれは……恐らくネズミの尻尾だ。頭隠して、尻尾隠さず?
「まあ……ニャニャミャイもまさかここまでついて来るとは思っていなかったが。ククリのことが気がかりで、ここまで来てしまったようだな。
しかし、よく一人であの霧を抜けて来たものだ。
嘘でしょ? あの霧を、お嬢は一人で抜けてきたの?
私は足が竦んで……ナツメがいないとどうにもならなかった。
なのに、あの小さなネズミが……私のことを心配して? それだけのために?
私は信じられない気持ちで曲がり角を見つめたのだった。
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