霊媒師
ボウガ
第1話
ある女霊媒師のもとを訪ねるA。彼も霊媒師で商売敵でもあるが、それにもまして気になることがあった。
「今日は、あんたに相談があってきたんじゃない、あんた、インチキ霊媒師でしょ、ほかの霊媒師連中が困っているんですよ」
単刀直入にいうと、彼女は顔色一つ変えずに行った。
「そうですよ?」
女霊媒師は、反省の色もみせずそう平然と言い放った。
「なんで霊能力のない人間が霊媒師をやってるんだ!」
「いえいえ、そういうものじゃないですか、誰もが霊能力のある霊媒師ではない」
「それはそうだが……分不相応の仕事をするものだ、あなたのやり方がひどいのは、嘘を嘘とわかって誇張し続けることだ!!」
ニヤリ、と霊媒師は笑った。
「どこの世界でもそうじゃないですか、仮想敵を設定し続け、彼らの陰謀によって、あなたたちはひどい目にあっていると宣伝する、そうすれば情報に疎く、本当の原因を追究しない怠惰な人間は、ああそうか、彼らのせいか、と思い込んだり、ああ、こいつらはいじめていいんだと思ったりする、誰もが口では差別を否定しているが、誰かを差別しなければ、人間は快楽を得る事ができない」
Aは目をかっぴらいて、一瞬たじろいでいった。
「私は強い霊能力がある、あなたにはいくつもの怨霊が取りついていますよ、碌な死に方はしない、なぜならあんたは人間の失敗をすべて霊のせいにしているからだ、悪霊やいい霊や守護霊やなりふりかまわず、全部霊のせいだ!という、おかげで霊が怒り狂って他の霊媒師は大変なんだ、この国は恨みや妬みだらけになる」
霊媒師は笑った。
「知っていますよ、それでも、需要がまず存在している、偽の敵に牙を向け、弱い自分を強者だと思い込み金をむしり取られる人間たち、あるいは彼らを馬鹿にして自分は違うと思い込み、自分は不運や不幸に見舞われず、優れていると思い込む連中、私は人についた悪霊を他人に擦り付けるくらいの霊力はありますよ、それで気づいたんです、最近世の中が不景気で、貧乏人がふえるばかり、他人に悪霊を擦り付けたがる人間は、まだいい生活をしている人間が多い、でも一方で不安なのです、いつ不安定な生活になるかわからない、あるいは弱い人間も、これ以上悪くならないように、仮想敵を求め仮想敵にマウントをとる、どうです、私は人を騙していますか?ありのままの姿を表現しているだけじゃないですか、私は助け合うのではなく“敵が欲しい・敵に勝ちたい”と言っている人間に、敵を提供しているだけです、世界を牛耳る悪霊や悪の組織なんて存在しない、あるのは、根本的解決をせず、彼らのせいにする需要です、私はこのふざけた世界で、人ではなく金だけが信用に値すると信じているだけです」
霊媒師 ボウガ @yumieimaru
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