最終話 敗北あっての勝利

 神が恐れていた毛利の策略はこうである。








 この奇策が神を捕らえることとなる。


 それを知らされた神崎を止めることができない。


 そう、毛利ならではの奇策と言える。


 しかし、この時間軸の毛利は何も考えずにヒントを出した。


 そう、勝負はとっくについていたのだ。


 毛利は『勝利』を『確信』していた。


 だから、何も考える必要がなかったのである。


「お、おい、毛利、本当に何も考えてないのか?」


 恭永がヒントを出した時、幾万の策を思い浮かべる毛利を懸念する。


 毛利の表情は清々しいものであった。


「今考えていることは、勝利の確信のみです………私の脳は神をも超えたという『優越感』それだけでいっぱいなのです。これ以上何を考えろというのですか?」


 恭永には、その言葉の意味もわからなかった。


「あぁ、この勝負はすでに終わっていたんだ………『斎賀高校の勝ち』で!!」


 神は笑っていう。


「何を世迷い言を………貴様らの敗北は逃れられない運命、負けを悟った者は皆つまらんことを言うものだ。負け惜しみほど見苦しいものはない。いいだろう。それが戯れ度とか神が見定めてやる!! 来い!! 『斎賀高校』!!」


 神崎が仕掛ける中で毛利は別のことを考え始める。


 何を考えたかと言うと、上杉や氷川、神崎のことだ。


 そして、計算を用いないで戦う御堂や桜井、超人となった勇気、上杉、神崎、氷川に勇気は脳で考えて行動する選手、脊髄反射を利用しないでここまで這い上がってきた。


 もし、彼らが脊髄で動いたら、そう考える。


 果たして、脳のランクを上げた人間の脊髄反射によるプレイ、見てみたいものだと考える。


「………惜しい人をなくしてしまった。」


―――ピィーーーー!!―――


 気がつけば、試合終了の笛がなる。


「ゲームセット!! 勝者!! 斎賀高校!!」




―――





「―――は!!?」


 誰かが目覚める。


「そうか………俺達は勝ったのか………」


 そう、ここは勝者のいる世界、勝者が宴をあげる。


 そんな空間、そして、彼らは語る。


「まさか、あんな方法で試合を終わらせるとは………感服しました。」


 毛利が考えた策略とは違う方法で神崎は勝負を決めた。


 そんな中で一人の男が上杉の墓を参る。


「みんな勝ったみたいだよ………君は勝利を確信していたんだろ?」


 上杉の墓を開けると一つのノートが現れる。


 そこには数式が描かれていた。


―――数学者として、私はこの式を残して去ることとなるだろう。


――この数式を戦友に送りたい。


―戦友は俺の墓を開けてもいい。


ただし、彼らが世界大会を優勝した時に開けよ。


 それに従って、桜井が一足先に数式を見ることとなる。


 その数式を桜井はオタクに見せることとした。


「す………すごい………この無限の数式、リミット、無限、これが神崎の真の姿………上杉さんはこれを見ていたのか………でも、神崎さんは脳のランクを一つ上げれるわけではない。この域にまで辿り着くことはできなかった。この数式を残した上杉さんは神崎さんを超えていたのでしょうか………気になります!! コンピューターで算出されるデータで彼らを測れるかはわかりませんが、僕は必ず、この答えを導いてみせますよ!!」


 それから時が経ち、オタクが学会で研究結果を発表する。


「―――従って、この仮説式は証明されたということになります!!」


 発表が終われば、毛利が拍手して彼を迎えた。


「流石はオタクだ。そこらの研究を発表し、難癖を片付ける勘違い無能やろうとは違う。彼らは妄想しているだけの猿だが、君はすべてを証明する『研究者』だ。『なりたい』から『なれる』とか、そんな『幻想』を抱いている『猿』どもとは違う。己の技量をここまで認めて最大限に発揮した。君のような人間がどれほどいるだろうか? なんて、昔は言ってたのだろうな。今では地位や肩書だけにしがみつく猿どもももうこの毛利の厳格な政治によって消えたに等しい、人が最大限に生かされる時代という新時代の誕生だ!!」


 オタクは苦笑しながらも言う。


「あはは、お陰様で周囲からガリ勉と嫉妬されることもなくなりました。警察も無能が多かったので、才能だけでなく、素晴らしい純愛も守られています。好きな人と結婚できるし、強欲な人たちはいません。真に無能な人間はわがままなままですが、人相学も発達し名前もすべてが運気に基づいています。」


 毛利は統計とか言うくだらないものも完璧な数式で完成させ、統計ではなく、『絶対真理』として究極の発明を成し遂げる。


「絶対真理を完成させたのは皆が力を合わせたおかげです。無論、オタクの算術もあってこそですよ。」


 それに対して、オタクが言う。


「国を治める毛利様が無能でなく、聡明な証拠です。国からの提案でしたからね。無能な人気取りだけの過去の総理やらではできないことですよ。」


 これを聞いて毛利は笑った。


「それはそうと、『例のアレ』はできたのか?」


 アタクは、それを聞いて答える。


「はい、試験をしようと思っております。」


 その後で、毛利は久々に戦友を募った。


 神崎や恭永、クリスタルバスケット大会を共にした戦友達を………


「え~~~、お集まり頂いた皆様、本日は、お日柄もよく―――あッ!!? さ、桜井くん!!?」


 桜井がオタクからマイクを奪って、堅苦しい挨拶を遮る。


「みんなも早く研究成果を見たいか~~~!!?」


 この声に一同が呼応する。


「おーーーー!!!」


 桜井が仕切るためにオタクは参った様子で機械を作動させた。


「それでは、上杉 芯vs桜井―――あ、ちょッ!!?」


 神崎がインフィニティを悪用して、桜井からマイクを奪いと取る。


「主将権限で、俺vs上杉 芯の1 on 1をシミュレーションする!! 異論は認めん!!」


 これに対して、毛利が笑っていう。


「はっはっは、このコンピューターが残したデータには、究極の神崎とそれを数式化した上杉がいるのだろう? だとしたら、このコンピューターの人工知能のスペックオーバーが懸念されるな。しかし、見せてもらおうか………最終的に勝つのは、シミュレーションのバーチャル世界でも、この毛利であろうがね………」


 この発言に神崎と毛利が一触即発、2人がコートに向かって退場する。


「あ~ぁ、行っちゃったね。先に見ちゃおうよ!!」


 毛利と神崎がエース対決を終える中で、桜井たちは試合を見ていた。


「ちッ、毛利のやつ、一瞬で勝負を狙いやがって………」


 毛利が笑っていう。


「ふっふっふ、敗北あっての勝利ですよ。神を超えたあなたを倒す方法など、これしかないかもしれませんね………」


 戻ってくれば、そこには完成された究極の神崎が存在していた。


 そして、無限をすべて捌き切る上杉の姿、攻防一体の上杉と無限の攻めをする2人の死闘は続く。


「はじめは神崎さんが得点を取り続けました。追い詰められた。上杉さんは攻防だけでなく、根元一気を用いて、攻防だけでなく、攻攻から防防、そして、攻防に戻ったり、混沌とした動きを取り始めます。ワンランク上の脳が無限の先を行く事はできません。そこで、『恐ろしいこと』を実行するのです。」


 上杉には、2回行動だけではなく、流水の極意がある。


 2人の勝敗は、もしかしたら、まだまだ研究不足かもしれない。


 無限と形を持たない流水、究極のシュートと軍神の戦略、◯◯◯◯◯◯と進化した脳、そして、上杉が不完全な肉体でなく万全の肉体であるということ、しかし、それらが勝敗を決めるかと言えばそうではない。


 人の夢は無限大だ。


 それに囚われ欲に負けるは容易い。


「そら、パスだ!! 行け!! 子龍!!」


 大人になって世界に挑戦する者がいる。


 彼が現役を続けられるのは、上杉のおかげだろうか?


(上杉、俺は今も世界の舞台にいる。今でも俺を導いてくれているのは、お前なのかもしれない。)


 子龍はボールを受け取りながら、英雄のことを考えていた。


(あの日、お前と戦い、俺は勝利した。しかし、俺はお前に勝ったとは思っていない!!)


 子龍がシュートを放つと当然のように決める。


「決まった~~~!! 10回制覇!! 優勝!! 優勝です!! 子龍が決めました!! この男の挑戦は止まらない!!」


 彼は世界優勝を10度も飾り続けている。


(お前と共に共闘したことはない。だが、俺はお前を追い続ける。)


「おめでとうございます!! 子龍選手!! 今のお気持ちを!!」


 子龍はインタビューでこう答えた。


「俺は無敗と言う結果を持っていますが、無敗ではありません。その選手は約束を果たしてくれました。」


 この答えは記者に伝わることはない。


「どういうことですか? 無敗であって無敗ではない? その選手とは子龍選手ですか?」


 子龍が天を仰いで言い放つ!!


「いつか、決着をつけてくれ!! 待っていてくれよ!!」


 幾千の時を超えて、天上世界では、猛者がぶつかり合うことだろう。


 競技は違えど、夢は無限大。


「………俺とやるつもりか?」


 誇ることもあれば、尊重することも多い、誤解することもあれば、認めることもできる。


「俺は誇りを賭ける!!―――貴様は何を賭けるんだ!!」


 偉人の歴史は無能の中で埋め尽くされる。


「下らん。」


 闇の中でも這い上がる者と光の中を突き進む者。


「俺の忌々しい過去(魂)を賭ける!!」


 生きてきた己を賭け合う2人、雌雄を決する刻。


 光は光のまま、光に紛れた闇は混沌としているが光へと変えられる。


「あんたの負けよ!!」


 汚れを知らない光に彼は何を見たかは誰にもわからない。


「挨拶が遅れた。ここの主将だ………」


 闇がない世界は無限大。


「ちッ、これからお世話になる………主将………」


 主役だとか口走る者、思っている者、すべてが闇である。


 彼らは誰一人、主役と思っていない。


 子龍も上杉も氷川も………


 老害は未来を託さない肥えるだけの可燃物、可燃物に可能性はないが、彼らにはある。


 その可能性は永遠だろう。


                     クリスタルバスケ・ワールド【完】

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