第38話 圧倒的挫折、今何試合目だ?

 気がつけば、繰り返している。


 そんな錯覚を感じずには居られない。


 では、なぜ、俺だけにその感覚があるのか、周囲を見回しても、皆が日常を過ごしているようにしか見えない。


「い、今………何試合目何だ………!!?」


 神崎にだけ訴えてくる文字、考えられることは、神崎以外の誰かが、絶望を体感して、この時間軸に訴えてくるということ、誰にも悟られず、神崎にだけ、なぜ俺を選んだのか、それがわからない。


(くそ!!?………こういうことは俺じゃなくて毛利に頼め!!)


 神崎が毛利を一瞥する。


 流石の毛利もその意図がわからなかった。


(なんだ!!? 何かを訴えるあの目は!!?)


 毛利は綾音にタイムアウトのサインを送る。


「ピーーー!! タイムアウト、斎賀高校!!」


 何があったかわからない。


 しかし、神崎は己の体の異常を見せる訳にもいかない。


 神崎でなければならない理由、神に対抗できる◯◯◯◯◯◯を持っているからだ。


 神は全知全能、もし、毛利に伝えれば、神への免疫がない毛利では露見させるも同じ、だが、このままでは、故障と思われてしまう。


 毛利は神崎が腕などを隠す故に故障を懸念するが、様子がおかしい。


 黙っていることしかできない。


 そんなときに、恭永が口走る。


「も、もしかして、神崎、腕を痛めたのか!!?」


 毛利が恭永を静止させる。


 恭永は『はッ!?』と気がつく。


 神に悟られたと、それに対して、神崎は答える。


「故障ならまだ良かった………俺が我慢するだけでいい。俺は『未来が今見えている』………つまり、俺達が勝つ未来が!!」


 根拠のない虚勢を張った。


 毛利は初めて見た。


 こんなにも弱々しい表情の彼の顔を………


 まるで、子犬のような眼差し、あの神崎がこんなにも自分を頼ってくる姿を………


「私にできそうなことがあれば聞きたいが、それが聞けない今、私に頼ることもできない。そういうことですか………」


 毛利がどうしようもない顔を見せると、神崎が弱々しく縋り付いてきた。


『た、頼む………助けてくれ………俺のせいで、負けるわけには、いかないんだ………』


 最強と評されて、最弱の烙印を押され、その最弱からかつては苦汁を飲まされた。


 頭では許せない相手だと、大嫌いで憎い奴だと思っているが、体では反面、最も頼りにしている。


 その証拠が今になって現れた。


「何を訴えているのかわかりませんが、話したほうが楽かもしれません。手の内がバレていても私なら『必ず勝てます』!!」


 そう、毛利に『神算』なら勝てる。


「今………『何試合目なんだ!!?』」


 また同じことを彼は口にする。


「そうかよ………じゃあ、なんで俺の腕にはこう書いてあるんだよ!!」


 神崎が涙を流しながら勇気を振り絞って見せる!!


『毛利には、すべてを話すな!! 毛利に話せば、対策はできるかもしれない。しかし、神がそれを知れば、試合は即終了、俺達の負けだ!!』


 そう記されている。


「―――――!!!?」


 これを見て、毛利は『確信』した。


 神は斎賀高校をこの後、恐れる展開が待ち受けていることを知る。


 そして、それを許しはしない。


 その前に試合を終了させる。


『今、何試合目なんだ………今、何試合目なんだ!!? 今何試合目何だ!!? 今何試合目なんだイマナンシアイメなんだ~~~~~!!!?』


 神崎が壊されていく。


「落ち着いてください!! 神崎さん―――」


 毛利が安心させようとすれば神崎が遮る。


「言うな~~~~!!!!!」


 毛利が絶望しそうになる。


(こ、この俺が………打つ手なしに陥るとでも言うのか………!!!?)


『ビィーーーーー!!』


 タイムアウト終了のブザーが鳴る。


「俺は行きたくない!! 俺が行ってはいけないんだ!! 頼む、時間をくれ!! 突破口を必ず導いて見せる!!」


 神崎が混乱状態に陥っている。


 パニックを起こした状態で試合に出すことは自殺行為、そんなとき、一人の男が高笑いする。


「はっはっはっはっは!! 面白い!! 審判、タイムアウトだ!!」


 神が審判にタイムアウトを要求する。


 再びタイムアウトとなり、神が時間を与えてくれた。


「俺は『神』だ!! 貴様の願いを叶えてやろう!! 己の無力さを恨んでせいぜい『神』にでも祈るんだな!!」


 大笑いしながら、神は神崎に時を与えた。


 絶望の中で、希望を求めて彷徨うも闇が広がるばかり、もし、未来を好きなように変えることができるのなら、それを止める必要がある。


 そう、方法は存在する。


 毛利はそれを思いつくべきではなかった。


「今、何試合目だ!!? 今、何試合目なんだ!!!? 毛利!!! 貴様何を思いついたんだ!!!? なにも考えるな!!!!」


 毛利は何を言われているのかわからなかった。


「ふっはっはっはっは、時が欲しいみたいだな!! 神であるこの俺が貴様にと時を与えよう!!」


 神崎は神ではなく毛利に懺悔する。


「頼む………何も考えないでくれ………俺がなんとかするから………」


 毛利は何を言われているのかさっぱりわからなかった。


 助けろと言われたが、何も考えるなとも言われる。


 毛利は笑ってしまった。


「はっは………はっはっは、つまり、神は私の『神算』を恐れているということでもあると………」


 その言葉に、神は怪訝そうに言う。


「は? 貴様ごときがこの俺に負けるとでも?」


 毛利は言う。


「あぁ、貴様は俺の知略に敵わない。それは証明されたということだ!! これが証拠だ!!」


 毛利が神崎の腕に書かれた文字を見せつける。


『毛利に助けを借りてはならない。神がそれを許さない!!』


 それを見て神は何を見せられてるのか理解できていない。


 神崎は神に対抗できる。


 故に、神崎の体に起きている異変が何なのか知ろうとしても阻止される。


 毛利は続けた。


「そう、貴様は何も考えていない。考える必要もない。脳の使い方なら俺が上だ!!」


 そう、毛利の奇策は計り知れない。


 毛利は神崎に告げる。


「私が考えることは、それが最適というわけではありません。必ず、答えは無限に存在します。漫画や小説、情報操作、フェイクニュースでは、可能ではないことを無理やり筆を進めて可能のように描きます。神崎さん、あなたはリアルを生きている。そんな甘えた猿と同じではない。私にできたのです。あなたならそれが可能です。私は青蘭高校戦であなたと上杉に可能性を見せられました。あなたはあの時、私の想像を超えていたのです。『自信』を持ってください。猿共の『過信』とは違うのです。」


 そう言うと、毛利は神崎の背後に回って気合を注入する。


「はッ!!」


 毛利は神崎に己の強い気を分け与えた。


 その気力は余りにも強すぎた。


 強すぎて目から涙が『ブワッ!!』と飛び出す。


 その気には、神崎の壮絶な人生を乗り越えた気力が感じられた。


 神崎にその気の強さが何なのかは理解できない。


 『天才』であるが故に、無能な地位だけの猿どもに『最弱』と烙印を押されて、這い上がってきた気力、御堂が毛利を評価した理由はここに存在した。


 『気力』の御堂と『精神力』の毛利、神崎にはその強さがなかった。


 これからも、この先もないものだろう。


 しかし、すべてを忘れることができた。


「最高の策を授けましょう………」


 毛利の言葉に神崎が少し驚く。


「ご安心を………勝負を◯◯◯◯◯◯◯◯ことです………あなたなら必ずできると信じていますよ………」


 その言葉に神崎は救われることになる。


 そして、言う。


「あぁ、確かに『可能性』は『無限大』だな………」

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