第35話 冷酷な眼差しと憧れの光
世の中には、何にも興味を示さず、強者を相手にして、恐怖しない勇者が存在する。
その経験を得て、さらなる思考へ目指すものはごく僅かだ。
悪人は悪人で進歩せず、己の好き嫌いに縛られるゴミであり、どれだけ肩書が立派でも、クズである。
「退屈な時間だと思っていたが、少しは楽しめたよ。」
では、神はどうなのかと言うと、全くの別物である。
強すぎて退屈、そして、好きなものを探しても見つからない。
クズに属するだろうが、別に、富や名声にも興味を示さない。
好きなものが何なのかで決まるだろう。
そう、彼が望んでいるものは、勝利への優越感、それを感じてみたい。
本当の勝利とは、どういうものなのか、味わってみたい。
「やはり、斎賀高校でもこの飢えは満たされないか………人の心など、とうに忘れた。結局、50%も力を出せなかったよ。」
最後の最後で、氷川が本気を出す。
それで、終わり、もう自分の出番も無いのだと、それが真実だと思いこんでいた。
「斎賀高校が得点を決めた~~~!!!」
そう、氷川にはまだ、余力が残されている。
「またまた斎賀高校が得点を決めた~~~~!!!」
まだ………また、斎賀高校が決めた。
「またまたまた!! 斎賀高校が!! 決めた~~~!!!」
神は狼狽える。
「ど、どういうことだ!!? これは!!!?」
気がつけば、無限の神崎だけではなくなっていた。
無限の世界に、あるものが飛び込んで来る。
動いてる神崎に、無限の残像、もはや、景色がすべて埋め尽くされる。
「どうした? 本気をまだ出してないんだろ? 出してみろよ。本気を………」
そう、無限の世界に、神が放った究極の◯◯◯ヂシュートが混ざり込んでしまったのである。
これにより、予備動作から無限のシュートによる残像も追加される。
詰まり、神崎が予備動作をしただけで、無限の残像が生まれ、無限のシュートも生まれる。
そして、そのシュートからボールの残像も生まれる。
バスケとは、シュート、ドリブル、パスの3つから始まる。
しかし、究極の◯◯◯ヂシュートは、それらを無視して得点をすでに決めている。
詰まり、ボールを持つ、『得点が決まっている』、シュートという順になる。
「み、見える………見えてしまう!!?」
氷川が動けなくなる理由は、神崎がボールを持つ前からシュートが決まっているという残像、それはつまり、斎賀高校の誰がボールを持っていても無限となって見えてしまうということだ。
「安心しろ!! 俺の流水でリングは守ってやる!!」
圧倒的な防壁、これで、シュートは入らない。
最高点を超えたボールを防げば、ルール上は反則、しかし、上杉がやったという証拠が残らない。
「まぁ、俺の流水は屋外の方が効力を発揮する。それがなぜだかわかるか?」
上杉が意味深なことを神に言い始める。
「何を言ってるんだ?」
毛利が視界に入ってくれば予測はついた。
「ま、まさか、無意味だとでも言うのか!!?」
毛利が笑って、指を鳴らせば防壁は不安定なものとなってしまう。
「波というものは不思議なもので、山などでも反射し、こだまします。詰まり、この体育館では、波というものが余り反射しないんですよね。防音設備だとか、波を吸収する舞台では特に、そんな使い手は現れるかわかりませんでしたけど、波を吸収させる素材をあちこちに貼り付けておきました。最も………」
言いかける毛利に神が口を挟む。
「汚いぞ!! 毛利!! 貴様、それでもスポーツマン選手か!!?」
毛利が無視して最後まで言いかける。
「最も、上杉 芯なら、これくらいのことは見切って対策されたでしょうけどね。」
それを聞いた神は初めて屈辱を味わう。
「ぐッ………!!?」
武力や能力では負けていない。
しかし、知力で負けた。
知で負けたものは最高の屈辱を受けるが目を背ける。
そして、決まって否定する。
俺は馬鹿じゃない。
俺は強い!!
俺はこいつよりも強いんだ!!
と知による敗北を認められない。
毛利を消せば俺達の勝ちということ、神が冷酷の眼差しを毛利に向ける。
「………消えろ!!」
毛利はうめき声を一瞬出して、気絶した。
「な!!? 毛利!!?」
斎賀高校を最も苦しめて、最も支えたかも知れない毛利が倒れてしまった。
「貴様!!? 何をした!!?」
そう、最強は最強でも、境遇が違う。
憧れが居て、目を覚まさせてくれる主将がいた。
「知が認められないなら、俺がお前の光になってやるよ………」
かつて、氷川主将が己の目を覚まさせてくれたように、神崎にもカルマが回ってきたのだろう。
上杉 芯の魂が最後に力を見せつける。
真空を作り、ボールをハーフラインに置いた。
「この体じゃあ、満足に戦えない。俺は見守っておくぜ………」
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