第34話 神速 vs 無限、軍師と軍神

 氷川 翔と浅井 勇気のコンビプレイ、神速と超速のコンビ、だが、浅井 勇気の憑依した宿主は雷に打たれて居ない。


「ふ、俺の体は奇跡の体………この体ではお前(氷川 翔)とバスケができそうにないな。先に帰らせてもらうぜ………」


 そう告げて、二人の選手がもとに戻った。


「浅井………俺を倒した最強の選手、君と決着を付けたかったが、御堂で力を使い果たした。だが、この体は俺の体よりも裕福に育ったみたいだ。こんなに体が軽く、思い通りに動かせるなんてね………一度でいいから、自分の本気を出してみたかった………勝負だ。神崎くん………いや、『神崎主将』………」


 その言葉を聞かされた神崎は複雑な気分になってしまう。


 当時は恨んで闘争本能剥き出しであった。


 しかし、神崎は艱難辛苦を一人で乗り越えてきたわけではない。


 あの時の氷川は神崎の暴走を受け止めて改心させるために戦った。


 今では立場が逆だ。


「氷川主将………」


 そして、違うのはもう一つ、あの時の神崎ではない。


 今では、心が乱れていようとも、神崎はインフィニティ・シャッフルを自然と出せる。


 心の強さは未熟だが、技量がそれらを凌駕していた。


「インフィニティ・シャッフル!!」


 無限の残像がすべて本体に感じられる。


 簡単に点を取られてしまうが、神はカバーしない。


 2人の勝負を楽しんでみている。


 余裕の表れか、傲慢か、それとも、敬意を示しているのか、神が命じる。


「氷川よ。神崎を見事に倒してみせよ。」


 氷川は即座に返答する。


「倒せるかどうかはわかりませんが、やれるだけやってみましょう。」


 氷川が構えたと思えば、ゴールがはずんだ。


「何!!?」


 振り返れば氷川の残像がその場に残ったまま得点を決めていた。


「ま、まだ残像が残っている!!?」


 体が負傷してない故に、真の力を発揮している。


 残像が残っているのではない。


 神速でその場に残像を残し続けている。


「これが俺の真の力、『真・神速』とでも言っておこうか………どうする? 無限の残像と神速の残像、どっちが上か比べてみようじゃないか………」


 神崎の残像が技術によるものなら、氷川の残像は本体を残してのもの、詰まり、『空想』の残像と『物理的』な残像といったところだろう。


 エネルギー消費量は氷川の方が激しいだろう。


 しかし、氷川の体力は異常だ。


 そして、見えないプレッシャーは神崎の精神を尋常ではないほどに削り取っていく。


「どうした? 最強のレジェンズはこの程度なのか?」


 いつの間にか後ろを取られている。


 神崎が振り返れば、驚いてバックステップする。


「それはすでに残像だ。」


 慌てて振り返れば、そこにも残像が残り続ける。


「見せてやろう。俺が夢に見ていた必殺技を………そして、一瞬だけ、超人からボールを奪った幻の技を………ここに再現ではなく、完成させよう………」


 いつの間にか、何十人と氷川の残像が残っている。


「なるほど、神の俺様にも匹敵する実力がありそうだ………神速とは、良く言ったものだ………」


 神の力を持った者が2人も現れたということだ。


「これが、真・神速◯◯!!」


 最強の本領が発揮され、手も足も出ない神崎、無限の人材を用意しない限り、神崎は倒せない。


 しかし、氷川はそれを一人でやってのけてしまう。


 いや、問題はそこではない。


「まさか………俺の無限は………!!?」


 そう、神崎はインフィニティ・シャッフルを仕掛けるが、氷川には効果がない。


「そう、俺にはすべてが止まって見える。」


 しかし、見えてはいるが、認識できない。


 圧倒的なスピードがあっても、技術がなければ宝の持ち腐れ、氷川は神崎の動きを認識することができない。


「見えてはいるが、認識ができてないみたいだな………」


 圧倒的な技量は敵を赤子のように扱う。


「例えば、こういうことだな………」


 神崎が一つ動作をすれば、無限の残像が見える。


 いや、そう認識させる。


 気がつけば、氷川はコートの隅に追い詰められていた。


 そう、どれだけスピードが速かろうと、真の技術を持つものには敵わない。


 そんな世界観を知れる人間も一部しか居ない。


「ふふ、確かに、そうかも知れない。でも、圧倒的スピードも君に捉えられなければ、同じことだろう。そして、最後に勝つのはどっちかもわかるだろう。」


 互いの実力は均衡している。


 そうなれば、体力や精神力が勝敗を分けることとなる。


「はぁ………はぁ………」


 先に息が乱れたのは神崎、氷川は呼吸一つとして乱れていない。


「そろそろ感じさせてくれ、貴様の魂を………」


 氷川の気迫が変わった。


「なッ!!?」


 今まで本気ではなかったのだろうか、動きが何倍も速く見えてしまう。


「い、今まで本気じゃなかったのか!!?」


 神崎が半分だけ覚醒し◯◯◯◯◯◯を開放する。


「なるほど、それが神に対抗する力か………」


 氷川が本気を出していなかったのは本当だ。


 ここからは死にものぐるいで攻めてくるだろう。


 互いに実力差はない。


 いや、神崎のほうが上だ。


 だが、神崎は劣勢、一方的に振り回され始める。


「なぜだ………なぜ、俺の方が劣っているんだ!!」


 答えは簡単だ。


 氷川はあの時も本気を出していなかった。


 それに、今も本気を出しているのか、理解しているものがいるだろうか?


 一人だけ、それを理解するものがいる。


 毛利だ。


 神崎がなぜ、氷川に勝てないのか、その理由も明白だ。


 そして、毛利のことをよく知る者が言う。


「おい!! もう時間がねぇんだぞ!!」


 恭永だった。


 それを聞いて神崎が戸惑う。


「まだ、本気を出してないってことなのか?」


 世間では、城ヶ崎高校があと一歩まで追い詰めて勝てたなどという。


 無論、条件しだいでは勝てただろう。


 しかし、あの時で考えれば、無限の覚醒をし始めていた。


 だが、完成はしていなかった。


 チームのために練習していなかった神崎と己を極めるために練習していた氷川、本気を出すところまで追い詰められたのは事実だろう。


 氷川が本気を出した相手は御堂と世間では認識されている。


 世間とは、そんなものだ。


 氷川が本気を出したのは御堂だけではない。


 氷川は本気を三回ほど引き出せるなどと考えていた。


 しかし、毛利戦で力尽きていた。


 青蘭高校戦では、氷川が足手まといとなっていた。


「私情を挟むとは、軍師失格ですかね………上杉くん………」


 そう、毛利もそれどころではなかったのだ。


「あぁ、私情を挟むのは失格だろう。だが、俺も今は軍神失格だ………」


 最強と最強、天才と天才、この世にそれらは一人で十分打などとほざく阿呆がたくさんいる。


「真の天才は天才を好む、アインシュタインのような盗作野郎ではない。」


 流水と知略が周囲で激しくぶつかり合っていた。


―――パァン!!!


 何かが弾ける音、2人の戦いは恭永にも想像がつかない。


 流水と神を止めた知略、それらがぶつかり合っている音だろう。


「俺を倒すなら知の限りを尽くせ!! 毛利!!」


 上杉が真にライバルと認めた男は、毛利なのだろうか?


 そして、毛利が真にライバルと認めた男は………


「あなたとは、決着をつけたかった!!」


 失格、その言葉が答えだろう。


「勝つのは俺だ!!」


 ここにも時間を忘れるほどの決着が望まれていた。


「えぇ………ですが、流水は波、ここは体育館………戦場が体育館でなければ、あなたは私に勝っていたでしょうね………」


 毛利は流水の弱点を見抜いている。


 それに関しては上杉も驚くまでもないと言った様子、そして、返す。


「俺の流水に勝てても俺には勝てるかは別だぜ………力無き者は知で相手を制する阿呆の法だとかではなく、知でいつも戦ってきた。それが俺達の勝負だ!!」

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