第17話 光すらも通さない世界、闇のレジェンズ
光のレジェンズは驚異的な影響力を持っていたが、毛利の反計によって、逆手に取られてしまった。
光のレジェンズなら一人でも試合を決める力を持っているが、毛利さえいなければ勝てただろう。
しかし、未だに存在し続ける上杉 海の流水波、そして、まだ真価を見せていないアル・TOAがいる。
最強の上杉 海が警戒している以上、毛利も動かなければならない。
「では、行きましょうか………謙信さん。」
毛利がそう言うと謙信は後から返事をする。
「は、はい………」
神崎には敬意をしますが、毛利からは恐怖を感じさせられる。
謙信は兄の行っていた言葉を思い出す。
「謙信よ。拙者は速さに敵う者を求めていた。しかし、速さではなく、知に敗れた。武を極めたものは強者を求めるだろう。そして、己よりもフィジカルのあるものに敗れる。だが、己の武器を最大限に発揮しても敵わない。あんな体験をさせられたのは初めてだ。毛利は青蘭高校を一人で倒すことができた男といっても過言ではなかろう。法律や権力者なら拙者を封じた気になっても拙者のスピードでいつでも瞬殺できる。だが、毛利は違う。説明することはできない。体験できるときにしておくとよいだろう。」
その言葉の意味がよくわかった。
「全く、この男が味方で良かった。兄者はこんな男と戦ったとは………」
謙信が姿を光でくらませれば、毛利は結界の条件を無視して好き勝手に消える。
一体、毛利がどんなトリックを使っているのか、そして、姿を表したかと思えば毛利が三箇所に現れた。
「な、なに!!?」
驚いたのはボールを持っている毛利が一人しか存在していないこと、光を用いているのなら、三人ともボールを持っているはずだ。
それなのに、三人の毛利がそれぞれ異なる動きをしている。
光のレジェンズは毛利の芸当にすっかり惑わされてしまう。
「ば、馬鹿な!!? な、なぜ、こんな事ができるんだ!!?」
斎賀高校が得点を簡単に決める。
毛利が用いた光のマジックは以下である。
毛利は先程と同じように、己の分身を生み出し、ボールカットを仕掛ければ、それが残像と知った時、本体の毛利にボールを奪われてしまう。
「い、今のが本体だったのか!!?」
光のレジェンズが毛利を追いかけるが、すでに、それも本体ではない。
「もう、何がなんだか………」
本来なら光のレジェンズだけで勝負を決めることができただろう。
それでも残り続ける氷川の流水波、その波は未だに大きくなっている。
しかし、波の周期は乱れている。
なにか胸騒ぎがするように、静寂を突き破ろうとする。
「ふん、斎賀高校、上杉 海、上杉 芯が居ないことを俺が後悔させてやる!!」
アルが遂に、力の片鱗を見せる。
「止まれ!!」
アルの周囲から光が消えていく。
いや、光が直進を阻害されてしまう。
「こ、これは!!?」
そう、重力が強まれば光すら直進をできなくなる。
アルの闇の力は重力、海がアルと戦った時、ボールが落ちた原因もこれだ。
しかし、光の直進を食い止めれば、海の流水波が巨大化していく。
「くッ!!? 海の奴め!! なんて置き土産を残していきやがったんだ!!」
アルの力を制限する。
海の目的がはっきりと斎賀高校に伝わった瞬間であった。
「だが、近くに主人が居ない力など、小賢しいだけだ!!」
アルが光と波を支配する。
ボールが重くなり、人の声も届かない世界が広がる。
「ボールよ!! 俺の手元へ来い!!」
重力を操るのだから、そんな事ができてもおかしくはない。
「お前たちは俺に近づくこともできない。」
アルがゆっくりとドリブルして前進する。
それを眺めることしかできない斎賀高校、そう、重力で身動きが取れない。
「く、くそ!!? こ、こんなのありかよ!!」
神崎が目の前を通り過ぎて行く、己の無力さに歯ぎしりすらしてしまう。
得点を奪われてしまえばアルは酷く疲れたかのようにして呼吸を乱す。
「はぁ…はぁ…、すぅ~~~………」
アルが呼吸を整えてから神崎と向き合う。
「ふん、海が残していった遺産はとても大きいようだな。」
アルがそう言って背を向けてディフェンスに戻っていく。
その言葉の意味を理解できない神崎ではない。
「いいだろう。貴様のスタミナが尽きる前に倒してやる………」
ここで第1クォーターが終了、斎賀高校が結果的には6点リードしている。
アルのスタミナが最後までつきなければ、このまま負けは必至である。
「………ヤツのスタミナが尽きると思うか?」
神崎が毛利に伺うと、毛利は答える。
「スタミナを消費する前に倒してあげた方が敵を尊重しているというもの、スタミナ切れに逃げるなら、試合に勝っても勝負に負けたことになるでしょう。」
毛利の言葉に神崎がこう返す。
「今の俺の心情にぴったりの言葉だな………」
小休憩が終わり、第2クォーターが始まろうとしている。
得点では斎賀高校が優勢、開始早々、得点を奪われる。
無防備を晒して2点、4点と一方的な展開が続く。
「くそッ!! ただ黙ってみていることしかできないのか!!?」
気がつけば同点となっていた。
重力で動けない人間がどう抗えばいいのか?
身動きが取れない相手から点を取る。
会場からは賛否の声が挙がる。
「卑怯だぞ!!」
「ちゃんとバスケの試合をしろよ!!」
斎賀高校は世界的に舐められている。
しかし、アルは世界中から非難を受けている選手である。
「アルとの試合はつまんね~よな~」
どの世界でもアルは嫉妬の的となるだろう。
絶対的な力を持つ故に、それを妬む者も多い。
アルは本物だから生まれてきてから、その宿命を背負ってきた。
そして、それを止めるものが未だに現れなかった。
周囲の無能の声が姦しい。
「フン、気にするな。俺達の勝負には関係のないことだ。」
神崎の言葉にアルが止まる。
「どういうことだ?」
アルが疑問に思うのも無理はない。
どう足掻いたってアルを止めることは不可能のはずだ。
「止める方法が無い。それが凡人、普通ってやつだ。なぜなら、身動きが取れないんだからな。」
その通り、神崎も今、身動きが取れていない。
「くだらん。俺の体力が尽きるまで、大人しく見ているんだな………指を加えて………」
リングの位置を光で惑わすこともあるの前では意味をなさない。
6点、8点と奪われていく。
「お、おいおい、本当にこれを何とかする方法があるっていうのかよ!!?」
恭永が焦りを見せる。
それを見て神崎もなんとかしようとするが、そう簡単な話でもない。
「お、おい、なんとかするんだろ!!? 早く何とかしてくれ!!」
恭永の最速に神崎も反発する。
「やかましい!! そこまで言うならお前がなんとかしろ!! お高く止まった税金取りのゴミみたいに口だけになるんじゃねぇよ!!」
神崎のいらだちが税金をもらって義務を果たさない人間としての下々共に飛び火する。
それを聞いた恭永がつぶやいて返す。
「いや、税金貰ってねぇし、犯罪者も裁けない政治家と一緒にすんなよ。というか、今実権を握っているのは毛利だろ!! 日本の経済も回復して税金0%じゃね~か!!」
話が試合から脱線してきた。
「くだらないおしゃべりは俺を止めてからにするんだな。」
アルが10点目のシュートを決めれば、二人が黙り込む。
「これで4点差だ。早く止めないと200点差も超えてしまうぞ?」
アルの圧倒的な力の前に、成すすべもない斎賀高校、そんな斎賀高校に突破口はあるのだろうか?
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