第16話 真・色即是空 虚構の世界へ

 ロバートがリングを見失うことなど、常識では考えられない。


 非常識なことが起こった。


 それも、以上なほどの現象でなければならない。


「こ、これは………」


 ロバートが体感したこと、そう、この世界では必ず敵のほうが優れていなければならない。


「武田 謙信………いや、神崎以上の光を見せられた気がする!!?」


 そう、なぜ、武田が色即是空のレジェンズと称されないか、それは、この男が存在したからという理由でもない。


 単純にそんな言葉も扱えない科学者や政治家が多いだけ、彼らが使える言葉は『検討します』とこれくらいである。


 無能な集団はそういう風に組織を作る。


「そうさ。この俺こそが、色即是空に相応しい。『光のレジェンズ』だ!!」


 謙信の忍術は術を用いている。


 しかし、この『光のレジェンズ』は『    』を用いている。


「驚きました。あの位置には謙信の術が用いられていないというのに!!?」


 毛利は既に謙信の術を見破っているために、そんなことを言う。


「我々は何かをしたということができないということになるのです!!」


 この毛利の言葉に綾音が聞き返す。


「詰まり、どういうことなの?」


 詰まり、こういうことになる。


 神崎がスローインをするという行為、これが『味方』にパスをしたということにならないのである。


 それは、ロバートも同じで、先程、ロバートが『シュート』をしたが、トラベリングになる。


 詰まり、なにかしたと思えば、それは何もしてないということになるのである。


「神崎!! そこに俺はいないぞ!!?」


 神崎がパスした方向は恭永の居た方向である。


 しかし、『現実世界』では、そこに恭永は居ない。


 敵にパスしたのである。


「ありがとよ。斎賀高校!!」


 たちまち4点を許してしまう。


 10点のリードも虚しく、6点に減ってしまった。


 いや、そんな問題ではない。


 斎賀高校は上杉 海が居なければ、1点も奪い取ることができなかっただろう。


 この6点差を守りきらなければならない。


 神崎は今になって理解したのである。


「斎賀高校!! 声を出していこう!! でなければやられるぞ!!」


 神崎の指示に皆が声を出す。


 名乗りを挙げれば敵か味方かがわかるはず、その声を信じてパスをする。


 しかし、その後、どうする?


 見えている景色が既に現実のものではないかも知れない。


 ドリブルして進んでいる方向も理解できない。


 手掛かりになるものなど何一つとして存在しない。


 そして、神崎の声を出すという指示が浅はかすぎたのである。


 確かに、声を出せば人がどこにいるのかは大体検討はつく、しかし、性格な位置がわからない。


 そんな状況でパスをする勇気など持てることもできない。


 更に、声を出すということは、根本的な問題を解決してない。


 そう、仮に、運良く斎賀高校がボールを運んだとしよう。


「よし、ナイスパス!! あとはシュートだけだ!!」


 そう、肝心のゴールは声を出さない。


 詰まり、ノーマークだと思っても、敵がそのゴールを守っていないなら、そこにゴールは存在しない。


「おーっと、斎賀高校が良くわからないところでシュートを放ちました!! しかし、距離が全然届いていません。」


 その後は、簡単に得点を奪われてしまう。


 残り、4点差となってしまい、斎賀高校には攻め手がない。


「ちょっと、あれって、どういうことなの!!?」


 マネージャーの彩音が毛利に尋ねる。


 毛利は全く驚いていない様子だ。


「その前に、武田 謙信さんの色即是空について、解説します。あの技は初日では使えない理由がありました。」


 彩音は慌てて催促する。


「もう4点差だよ!! そんな説明してる場合じゃないよ!!」


 しかし、毛利にとっては危惧すべき状況でもない。


 毛利はマイペースを貫いて説明する。


「つまり、昨日の試合が終わってから『結界』を張ったのです。」


 『結界』、それを用意しなければ術は成立しない。


 その結界の正体は無数に                    。


 毛利があるものを取り出す。


「良く見ててくださいね。」


 そう言うと毛利がそれを腕に振りまいた。


 すると、毛利の腕が消えたのである。


「え!!? すごい!! こんな近くなのに腕が消えてる!!」


 そう、これは                     。


 こうすることによって、武田 謙信は特定の場所で消えることができた。


 しかし、『光のレジェンズ』は違う。


 結界など貼る必要もない。


 おまけに、消えるだけでなく、虚像を映し出す。


 『光の世界』に斎賀高校を閉じ込めてきたのである。


「だが、これしきの事なら、私の一計を用いれば簡単に跳ね返すことができます。従って、焦る必要はございません。」


 毛利はハッタリを言うような男ではない。


 知して乱れず、これしきのことでは驚かない。


 今すぐにでもタイムアウトを取れば、光の世界から斎賀高校を開放することは容易い。


 タイムアウトには限りがある。


 詰まり、ここでの最善の策は、『毛利』がなんとかするということ、毛利は敵の手の内が読めない今、この試合では先に動き始める。


 それは、上杉 海が斎賀高校のために力を残していったためである。


 それ程の相手ならば、上杉 海が恐れた相手の力を早めに見ておきたい。


 そう考えたからである。


「恭永さん、毛利です。」


 毛利の声に恭永が驚く。


「お、脅かすなよ!!? てか、なんでお前には俺の位置がわかるんだ? 俺から見たらお前は見えないぞ!!?」


 毛利は恭永の耳元でかくかく、しかじかと伝えると恭永はそれに従った。


「わかった。後は任せておけ………じゃなくて、な、なんにも見えないな~~~!!?」


 恭永の赤羅様な演技に光のレジェンズは怪しく思い始める。


「ふふ、その調子ですよ。」


 毛利が恭永を褒めると恭永はある場所へと向かった。


「ここでいいのか? 場所は合ってるのか?」


 これを見た光のレジェンズは何をしているのかわからなかった。


「なにをするつもりだ? 毛利?」


 光のレジェンズが毛利を警戒する。


 世界では、すでに毛利の智謀が明かされているが、智謀というものは、どれだけ警戒していても防げるようなものではない。


 どれだけ強固に守りを固めても、必ずどこかに隙が生まれる。


 光のレジェンズの幻術は完璧で、シュートすら封じられている。


 パスもドリブルもシュートも地形の把握すらできず、時間すら惑わす恐ろしい能力だ。


 こんな試合のデータが報告されている。


 ある選手が光のレジェンズと戦った時、光のレジェンズは何もしなかった。


 一方的にシュートを決められていたが、気がつけばコートが逆になっていた。


 詰まり、得点も思いのままに惑わすことができる。


「本当にうまくいくんだろうな!!? 頼む!! 奇跡よ!! 起きてくれ!!」


 恭永が手を挙げると世界が光の速さで回転し始めた。


「な、なんだこれは!!?」


 光のレジェンズが方向感覚を失い。


 毛利があっさりとボールを奪い取っていく。


「し、しまった!!?」


 しかし、ゴールの場所は誰にもわからないはず、それなのに、毛利はゴールの場所へと迷わずに進んでいった。


「ば、馬鹿な!!?」


 毛利が悠々とゴールを決めてから、振り返って言う。


「もしかしたらですが、『真の色即是空』は私なのかもしれませんね?」


 この言葉に、光のレジェンズは開いた口が塞がらなかった。


 なぜ、やつは、幻術を見破ることができたのか、神崎は毛利の智謀に嫉妬するもため息を付いて称賛する。


「流石は斎賀高校の名軍師だぜ………」

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