第14話 神技と暗黒、そして、上杉 海の杞憂

 試合が終了し、アルテリア・ロバートは一時的に斎賀高校の選手となる。


 ロバートにとっては、光栄なことかもしれない。


 あの上杉 芯のために戦える。


 敗北したからと言って負け惜しみを言うことはなかった。


「立派ですね。もし、あなたの選手に一人有能なものがいれば、あなたはパスすることができた。しかし、あなた以外は計略によって、動きを封じられた。最後に、あなたが止められたのは、あなたにパスする相手が居なかった。それだけです。」


 ロバートは毛利の言葉に呆れて返す。


「完敗だ。しかし、今は次の試合に専念したらどうだ?」


 ロバートが一人の男を見る。


 暗黒のレジェンズと言われた男、その名はアル・TOA(ティーオーエー)という変わった名前である。


 アルはこちらを見ずに、他の男を見ている様子であった。


 しかし、その先にはすでに誰も居ない。


 気がつけば、海も居なくなっていた。


「はい、はい、わかりました。」


 海がスマホを切れば母親が突如倒れて病院に送られたという。


 海は再び母のために帰国する事になってしまった。


「待ちな………」


 海が帰国に足を進めようとした時、神技のレジェンズが現れる。


「俺になにか?」


 神技のレジェンズがボールを転がした。


「拾え………」


 海は理解できずにボールを拾った。


 神技のレジェンズが不意に襲いかかる。


 海は流水の極意を用いてボールを大きく縦回転させ、途中でドリブルを入れると飛びかかってきた神技のレジェンズの腹部に手を置いて空中へと受け流す。


「見事だ。だが………」


 海は立ち上がると己の手のひらを見つめた。


「ボールはここにある。」


 海は確かに、ドリブルをして手でボールを受けたはず、しかし、そこにボールは存在しなかった。


 神技のレジェンズがボールを見せつけている。


 上杉 海の瞳は変わらない。


 闘争本能を見せたこともない。


 殺意に負ける前に、愛を優先する。


「す、すごい………!! 君は一体何者なんだ!!?」


 そう、真っ先に出てきた言葉がこれである。


 神技のレジェンズは海が違う世界の人間だということを感じ取った。


「君、すごいね!! いくつなんだい!!?」


 海は彼の才能に興奮しているようだ。


「やめとけ、そいつは神崎よりも技量が上だぞ。」


 二人が振り返れば、そこにはアル・TOAがいた。


 アルは手を挙げると周囲が何故か暗くなる。


 まるで暗黒に包まれたかのようだった。


「な、なんだこれは!!?」


 神技のレジェンズが苦しそうに言う。


 しかし、海は無事なようだ。


「貴様が上杉 海だな。次の試合は俺とだろ? 逃げるつもりか?」


 アルは神技のレジェンズからボールを奪い取る。


「海、お前は俺に勝てない。違うか?」


 アルがそう言うと海はこう答える。


「あぁ、俺は二人には勝てない。」


 負けを認める海、周囲が明るくなれば神技のレジェンズが立ち上がる。


「貴様、俺と本気でやるつもりか!!?」


 神技のレジェンズが目の色を変えた。


 それは、闘争本能を瞳で表す。


 この眼こそ神技のレジェンズが望んでいたものだ。


 アルは冷静に言う。


「やるなら相手になってやるぞ………」


 二人が本気になってぶつかり合おうとする。


 異常な闘争本能に一人の男が力の一部を見せつける。


「やめようか、ここで戦うよりも試合で戦ったらどうかな?」


 上杉 芯を相手の時に見せてくれた双流の極意も海にとっては、ただの技に過ぎない。


 神技のレジェンズは左手を構える。


 アルからは暗黒、そして、海の流水、三人がボールを奪い合えば、海は二人を止めるために力を開放する。


「流水奥義・絶!!」


 海の流水奥義にアルが動く。


「黒滅!!」


 神崎が見せた闇よりも深く、全てを奪い取った。


「神技………『インフィニティ・シャッフル』。」


 神技のレジェンズは左手だけで無限を作り上げた。


 その無限は片手でありながらもアルと海から視界を奪い取る。


 視界が暗くなれば光を己に当てるだけ、しかし、最終的にボールを持っていたのは海である。


「………!!?」


 海は力の一部を見せたまで、しかし、左手一本しか使ってない男を相手に紙一重でボールを奪ったに過ぎず、本気でやりあえば勝てない可能性があるのでは、と警戒した。


「やれやれ、みんな本気は出さずにやって、ボールを取ったのは海だったか、でも、『双流の極意』は使えませんよね?」


 アルが言う通りで、『双流の極意』は海一人でできる技ではない。


 どうやら、アルも本気を出していないようだ。


 海は黙って帰国した。


 海は一つの可能性に賭けて呟く。


「斎賀高校は勝てないかもしれない。だが、チームが機能すれば勝機はあるだろう。いや、この流れを残しておくとしよう。」


 海は斎賀高校のために、流水の波動を残していった。


 これが吉となるか凶となるか、余計なことをしたのかもしれない。


 それでも、それに賭けなければならない。


 そう思えたのである。


 翌日、斎賀高校と暗煌高校の試合が始まろうとしていた。


 審判が試合開始を仕切る。


「整列、礼!!」


 選手一同が挨拶をする。


「お願いします!!」


 ジャンパーは神崎、それに対しては、アルが現れる。


 審判がボールを構えれば真上に放り投げる。


 技量に優れる神崎の跳躍は早く、アルは飛び遅れてしまう。


「ちッ!! 『暗黒世界』!!」


 ボールは最高点に達する前に飛ぶとジャンパーはペナルティとなる。


「なに!? 馬鹿な!!?」


 神崎がボールの軌道を見誤ったのか、ボールを叩くのに躊躇ってしまった。


 その隙をアルが掴んでボールを叩く。


「馬鹿な!!? 神崎がボールの軌道を読み間違えただと!!?」


 しかし、ボールの軌道が更に変わる。


「こ、これは!!?」


 アルは勝ちを確信していたが、更にボールの軌道が変わったために空振りしてしまった。


「なに!!?」


 アルが面食らってる時に神崎も着地寸前である。


 ボールの軌道が二度も変わったために、戸惑ってしまう。


「こ、ここで合っててくれ~~~!!」


 なんとかボールを掬い上げることに成功した。


「ち、海の野郎………やってくれるぜ!!」


 この技は『流水のレジェンズ』が見せてくれた『流水・遠隔操波』であり、斎賀高校に苦戦を強いられた必殺技でもある。


 それにより、ボールは斎賀高校のものとなった。


 だが、アルの力は海に匹敵するのだろうか、ボールの軌道が変わってしまう力を持っている。


 海は飛行機からラジオ放送を聞いて、『遠隔操作』したということになる。


『最初にボールを手にしたのは、『斎賀高校』!! しかし、速攻はせず、慎重な立ち回りをしています!!』


 この実況を聞いて、海は安心する。


「全ての波を読み、増幅する俺の『遠隔操波』、波を読めるものは居ないが、『未来』を読めるヤツがいる。」


 海がもう片方のイヤホンで『未来のレジェンズ』と評された者と通話していた。


「あぁ、しかし、海さんの波で勝てるのは1チームだけです。『敵』は『アル』だけではありませんからね。もし、他にも『強敵』が居たら、斎賀高校の『邪魔』になる可能性もあります。」


 海の懸念は晴れぬままに祈る。


「そうだな。強敵の出現か神崎の『成長』により、変化するかもしれない。俺が近くに居れば、不安に思うことなどなかっただろう。」


 そう、波が読めれば神崎は即座に攻めることができただろう。


 しかし、身長にならざるを得ない。


 一度でもボールを手放せば、二度とボールに触れることはできない。


 そんな試合を斎賀高校は経験している。


 もし、波が読めれば、相手がボールを操っても、波がカバーしてくれる。


 敵の能力を無効化することができると同時に、神崎の無限も無効化されてしまう。


「ちッ、考えてても埒が明かねぇ!! 出たとこ勝負だ!! 『インフィニティ・シャッフル』!!」


 そう、海の波が神崎の無限を阻害してしまう。


 無限の残像が不意に消えかける。


 ボールの起動が波によって変えられてしまう。


 崩れだ無限の残像は崩壊し、神崎とボールを引き裂く。


「ば、馬鹿な!!? この俺がドリブルミスだと!!?」


 アルも驚いている。


「ちッ、どうやらこの試合、一番の敵はあいつなのかもしれねぇな………」

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