第12話 空を落とす無限

 主将命令ということで上杉 海はベンチに下がる。


 誰もが無謀と思ったことだろう。


 点数も100点差を超えている。


 だから、言う。


「主将命令なら仕方ないね。でも、それを守れるのは5分まで、それ以上は待たないよ。それでいいかい?」


 海の条件に神崎が応じる。


「いいだろう。5分で決着をつけてやる。」


 毛利は見抜いている。


 神崎は正気でない。


 詰まり、意識を失っている。


「まずい!! 今の状態で戦っては、事故が起きた時、どうなることか!!」


 しかし、もう遅い。


 試合は始まっている。


 ロバートがボールを持って跳躍する。


「海が現れる前に試合を決める!! 終わりだ!! 斎賀高校!!」


 ロバートが絶対空間である天へと翔ける。


 その空間では、ロバート以外存在が許されない。


 それを、一瞬だが攻略したようにも見えた。


 しかし、それでは攻略とは言わない。


 せいぜい相手を驚かせただけだ。


 攻略法など存在しない。


「勝った!! 俺の勝ちだ!! 斎賀高校!!」


 ロバートが勝利を確信した。


 その瞬間、音が鳴り響く。


『ドゴン!!』


 ロバートがそれを確認するために空中で振り返る。


 そこにはシュートを決める神崎の姿があった。


「馬鹿な!!?」


 ロバートが確認すれば持っているはずのボールを持っていなかった。


「な、何をしたんだ………神崎!!?」


 驚いているのはロバートだけではない。


 毛利や海ですらも理解できてなかった。


 神崎は神速を超えるほどの速さを持っているわけでもない。


 ロバートの動体視力はそれも見逃さない。


 そのロバートに気づかれずにボールを奪い取った。


 零でも使わない限り不可能だろう。


 だが、零も使えない神崎がボールを奪い取った事実が存在する。


 ロバートは否定した。


「そ、そんな馬鹿なことがあるか!!」


 ロバートは再び攻撃を仕掛ける。


 しかし、結果は同じだ。


 神崎はどうやったか、ロバートからボールを奪い取る。


 それをやってのけたのだ。


 そして、最悪なことに、それは今だからできることの可能性もある。


「そう、意識を取り戻した時、神崎は、それができなくなるかもしれません。」


 毛利の言葉に海が冷静にいう。


「その前に、神崎が何をしたか、俺達が見極めて神崎にそれを伝える。それが必要ということか………」


 海と毛利は神崎の動きに注目した。


 神崎の動きは、無限の残像を生み出す。


 それを見切るのは至難の技だろう。


 しかし、海は違う。


 流水の流れを感じるように、神崎の動きを探知した。


 伝達する波を肌で感じ取り、それをイメージする。


 無限の残像は波となれば一つの個体からしか発生しない。


 様々な場所から波が発生するわけでもない。


 神崎の動きは手に取るようにわかる。


 だが、問題はその動きになんの意味があるかだ。


 それがわからなければ意味がない。


(動きは捉えた。だが、何をしているんだ!!?)


 海は神崎の動く意味が理解できなかった。


 海にとって、無限の技術力を理解することができない。


 そして、ロバートを倒すことなら流水の極意で十二分だ。


 だから、海はこんなことを言う。


「毛利、俺にとってロバートは流水で倒せる相手だ。だから、神崎の動きを今から俺が伝達する。」


 それを聞いた毛利は『なるほど』と思う。


「わかりました。私が解析しましょう。」


 海は話が早くて助かった様子で神崎の動きを説明する。


「神崎は






 それを聞いた毛利は全てを理解する。


「そうか!!        ということか!!」


 『      』、それは









 神崎が正気に戻れば形勢はまた元に戻った。


 ロバートが再び得点を取り返す。


 神崎は得点差を見て驚く。


「お、追いついている!!?」


 いつの間にか点差は30点差になっていた。


「そうか、海先輩がここまで頑張ってくれたのか、流石は双流のレジェンズだぜ。」


 それを聞いた海は笑っていう。


「俺は約束を守ってベンチに居るぜ。」


 それを見て神崎は毛利の仕業だと思った。


「いいですか、神崎主将、      ですよ。それでまた得点を取り返すことができます!!」


 毛利が神崎にそれを知らせると、神崎は頑なに拒否をした。


「俺は俺のやり方でロバートを倒す。貴様の策に頼ってばかりでは主将失格だからな。」


 毛利は耳を貸さない主将に呆れて説明する。


「いいですか、これは私の策ではなく―――」


 神崎は毛利の言葉を遮っていう。


「誰の策であっても同じだ!! 俺は俺のやり方でロバートを倒す!!」


 毛利は再度神崎を呼びかける。


「ですから、この策は私のではなく―――」


 神崎はそれすらも聞かずにロバートへと勝負を挑みに行った。


 一度攻略したロバートの天空を違う方法で攻略しようとする。


 神崎の誇りの高さには飽きれるほどだ。


 だが、神崎の知恵は確かに進化している。


 斎賀高校で学んだことは多い。


 技術は無限、知恵も無限、神崎が目指している世界はそういうものなのだろう。


 そして、それが奇跡を呼ぶ。


「喰らえロバート!! これが俺の答えだ!! 『    』!!!」


 神崎が必殺技を放つとロバートは地上に引き寄せられた。


(な、なんだ!!? 何が起こったんだ!!?)


 ロバートは自分が地上に突き落とされていることを理解していなかった。


 攻略法は違えど、神崎はまた違う方法でロバートを倒してしまった。


 神崎が見せた答え、それは、『無限で空を落とした』のだ。


 翼を切り落とすことよりも神崎は空を落としたのだ。


「違う………俺が落ちたんじゃない………『空が落ちたんだ』!!?」


 人を落とすのは容易いことだろう。


 無能な人間どもにもできる。


 しかし、空を落とすとなると、並の人間にはできない。


 流水なら難なく落とすことも可能だろう。


 だが、神崎には流水の極意など習得していない。


 ならば、どうやってそれを可能にしたのか、答えは簡単だ。


「空を落とすのには波も魔術も必要ないってことだよ!!」

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