第10話 有限空間に閉ざされた天才、音速を超える毛利の知恵
「くそ!! 何をされてるんだ!!?」
神崎が休憩室で苛立っている。
毛利も何をされているのか、数分はわからなかった。
しかし、それが確信に変わった時、これ以上の静観はできない。
「憶測ですが、恐らくロバートは天からもう一つの才能を与えられているのでしょう。」
もう一つの才能、それを見破ることができたのは毛利だけだった。
それは必然的に皆から質問を受ける。
「もう一つって何だよ?」
恭永が聞けば、その他の皆も毛利の話を聞こうとしていた。
「まだ、前半戦が終わったばかりですが、120点差は異常です。ロバートはこれまで10%の力も使ってきませんでした。この先も何が起こるかわかりません。詰まり、それは………」
毛利が結論を言おうとした時、神崎が遮っていう。
「今でも『10%の力』しか出していないということだな………」
そう、ただ前に立ってボールを取るだけ、そんな作業にロバートほどの目を持っているなら100%も力を発揮する必要がない。
毛利が言う。
「残念ですが、こればっかりは『神崎主将』でも不可能でしょう。」
その言葉に神崎が複雑な気分になるが、あの『有限空間』ではどうすることもできない。
如何に無限といえど、スローイン空間では限りがあり過ぎる。
上杉兄弟なら簡単に突破できるだろう。
しかし、神崎には流水の極意が無い。
「いいですか? この有限空間は簡単に攻略できます。まず………」
毛利が計略を授けると、神崎はそれを聞いて愕然とした。
そんなことにも気づけ無い自分が情けなくなったのだ。
「すげぇ!! 流石、斎賀高校の『軍師』だぜ!!」
恭永が絶賛する中で、毛利がため息ついて言う。
「何、これしきのこと………上杉 芯でも流水を使うこと無く攻略したでしょう………それとも、他の方法でも考えてみますか………神崎主将?」
毛利が神崎に問いかける。
一度タネが分かれば、いや、タネがわからなくても簡単に攻略できてしまう有限空間だ。
毛利からすれば100の回答が思い浮かぶのだろう。
神崎は歯を食いしばった。
「神崎、今は堪えろ!! この先も何が起こるかわからない。あのロバートがあれだけで終わるようなやつじゃないかもしれない。早めに全力を見極めないと120点差どころでは済まないぞ?」
恭永の言葉に神崎は従った。
試合が始まれば、ジャンプボール時に負けた斎賀高校からのスローインとなる。
しかし、どうしたことだろうか?
ロバートはベンチに下がっている。
「あ~~~っと、これはどうしたことだ? ロバート選手がベンチに居るぞ? これはなんという『屈辱』でしょうか? 敵がエースを温存しています。斎賀高校のバスケが舐められているということでしょうか!!」
真意は分からないが、舐められていると感じ取るのは無能の証拠だろう。
ロバートがベンチに下がる理由、それは、ロバート自身も気づいているのだろう。
斎賀高校を有限空間に閉じ込めたが、毛利がいる。
そして、ベンチに下がる真の理由はロバートの目にあった。
あの目は体力を異常に消耗するとかではない。
そんな発想は無能作家ではよくあるだろう。
強すぎる能力程、そういう下らない弱点を創るものだ。
無論、ロバートは全く疲れてなどいない。
10%程度の力しか出してない選手が疲弊するだろうか?
答えは当然noだ。
ロバートは神崎の攻めを三回程見てから即座に交代を要望し、試合に出てきた。
「またまた出てきてしまった~~~!! 斎賀高校、再び有限空間に閉じ込められたか~~~!!!」
実況と解説が絶望する中で、毛利はそれを嘲笑って言う。
「おや、こんな簡単なロジックも見破れないのですか? もう実況も解説も口を閉じていてください。無能が口を開くと恥であり、斎賀高校への『侮辱』ですので………」
毛利は神崎からボールを受け取るとロバートの有限空間からボールを開放した。
毛利のパスは簡単に通ってしまう。
「な、何だと!!?」
そう、『 』だ
簡単なことだ。
これを知らずして何がバスケだろうか?
「初歩の初歩ですよね………ロバートさん。」
それを見せられたロバートは笑っていう。
「全くだ………」
詰まり、こういうことだ。
これにより、簡単にパスを出せたということになる。
しかし、ロバートはこれに備えていた。
先程、ベンチに下がっていた理由、これが、『真の有限空間』となる。
先程までうるさかった実況と解説が黙りである。
「ここ(有限空間)を抜けたので後は、無限にお任せいたしますよ。主将………」
毛利が知恵でサポートすれば、エースに得点は任せる。
「ふん、よく言うぜ………まぁ、いい………」
ボールを受け取れば皮肉を言うが、毛利により突破できた以上、応えなければならない。
「インフィニティ・シャッフル!!」
神崎が無限を繰り出す前にロバートがボールを奪い取る。
「―――!!?」
後は上に逃げるだけ、しかし、ボールを上に上げれば神崎が無限の翼でボールを攫って行く。
「おのれ神崎め!!」
しかし、形勢は斎賀高校の方が不利だろう。
神崎がボールを奪えば着地やパスを『時のレジェンズ』へとクラスチェンジしたロバートに狙われている。
「まずい!! パスが出せない!!」
このままでは、神崎が捕まる。
「点差は120点、流石にこの毛利も黙ってはいないぞ………」
毛利がロバートに計略を仕掛ける。
その計略は
「くそ!!? 斎賀高校め!!」
攻めでは最強と評された神崎、知恵では毛利、上杉や氷川が抜けたと言え、斎賀高校には最強と天才がいる。
「俺の存在も忘れるなよ!!」
恭永もボールを持てば瞬足のギャロップステップで神崎にパスを繋いだ。
「パスはこの毛利によって守られています。皆さん、存分にパスをしてください。」
毛利がロバートを簡単な方法で止める。
流石のロバートも毛利の知の前ではこの有様だろう。
だが、ロバートの目はそれほど甘くはない。
「いいだろう。今の斎賀高校を強敵と認めよう!!」
ロバートが瞳を片方隠す。
人間の瞳には、動体視力以外にも能力がある。
そう、どんなに優秀なパイロットでも空の世界では己を見失う。
「有限の世界だとかなんだとか、人間には関係ない。『人を超えなければ入り込めない世界』に俺はいる………」
その言葉の意味は普通の目を持つ人間には絶対に理解できない。
人が言う天才飛行士もロバートの言う世界に行くことはできない。
「刮目しろ………これが天と目で翔ける新世界………俺こそが『天空のレジェンズ』だ………」
そう、ロバートがただ天を舞、銃弾を見切る目を持っているだけではない。
天と目を持つからこそ飛べる世界が存在する。
無限だとかでは絶対に超えることのない世界、毛利はそれを即座に理解する。
「なんてことだ………これでは、無限も意味はない!!? この強さは………上杉 芯でも届かない世界かもしれない!!」
ロバートが天で翼を広げれば、神崎の無限に羽ばたく翼は引きちぎられた。
『絶対空間』
有限でも無く、無限すら届かない世界、そこからロバートは神崎を見下ろしている。
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