第6話 絶望の空

 人間はパスを止めるのは至難の業だ。


 だが、ジャンプを封じることなど不可能だろう。


「う、嘘だろ!!?」


 ロバートがハーフラインからジャンプして、そのままダンクする。


 詰まり、ロバートがジャンプしたら誰も邪魔することができず、彼が得点を決めるまで、指を咥えてみているしかできない。


「す、すごい………あの技の仕組み、理論、実に理にかなっている!!」


 これには、流石の毛利も戸惑った。


 ロバートの飛翔・旋風脚、ロバートが飛んでからホップアップ、詰まり、ロバートがジャンプして地面に落ちる時、もう一度上に浮上する。


 オリンピックの走り幅跳びで8m飛ぶのなら、ロバートは16mは飛ぶだろう。


 バスケットコートは28m×15mでしか無い。


 詰まり、ロバートから見ればバスケットコートなど狭すぎる。


「そんなに下がっていて良いのか? 俺はここから飛ぶことができる。」


 ロバートがハーフラインを超えないうちに飛翔・旋風脚をする。


 空中にいる選手に接触すれば、ファールとなる。


 ロバートが一度飛べば、誰もロバートを邪魔してはいけない。


 それがバスケのルールなのだ。


「クソ!! ジャンプなんてどうやって止めれば良いんだよ!!」


 皆がロバートのダンクシュートを見守る。


「決まった~~~!! これが3Pダンク!!」


 ロバートの飛翔・旋風脚の秘密、跳躍するときに前宙する。


 前宙している時、足が天を向けば開脚し、スピンジャンプ、手も広げて推進力を得る。


 これにより、一度だけホップアップ現象が起きる。


 あとは、前宙を継続し、上の推進力から前方の推進力を得る。


最後に、状態を起こしてダンクシュート、並外れたバネを持つ外国人だからできる必殺技である。


「ダメだ。斎賀高校じゃ勝てない………」


 誰よりも高い位置でパスが飛び交い、どれだけのスピードを駆使しても天空には届かない。


「またロバートが飛んだ!! 斎賀高校、見守ることしかできません!!」


 そして、神崎のインフィニティ・シャッフルも空中という『有限』の世界では無意味だ。


 神崎が空中で無限を相手に見せても、一度しか飛べず、跳躍力も相手が上、無限に広がる世界も己の跳躍範囲まで、ロバートの跳躍は、その無限の範囲を超える。


「ピィーーー、第一クォーター終了!!」


 はじめは、ほぼ互角だったが、気が付けば25対14という11点差、恭永がベンチを叩いて悔しがる。


「くそッ!! 物理的に届かない!! あんなの相手に負けて本望だと!!? ふざけるな!! インチキだろ!!」


 恭永が毛利に感情をぶつける。


 しかし、毛利はこう返答する。


「相手に不正はありません。あれに負けるということは本望と言えるでしょう。」


 恭永は毛利の言葉に苛立った。


「お前は軍師だろ!!? いつもベンチから指示出してるだけで勝ってきたじゃねぇか!! なんとかしろよ!!」


 毛利の胸ぐらを掴む恭永に対して、毛利は返答する。


「圧倒的なスピード、圧倒的な高さ、そんなものを止める方法がこの世にあるのですか?」


 それを聞いた恭永は激怒した。


「てめぇ!! 圧倒的なスピードを止めただろうが!!」


 二人が揉めているところに神崎が止める。


「よせ、俺達、斎賀高校には外国人のような『バネ』も無ければ、長い手足もない。ロバートの飛翔・旋風脚は俺が真似てもできる技じゃない。おまけに、やるのバッシュに変な穴が開いてる理由、あれは推進力を得るためのものだ。あのバッシュも無ければできない。」


 それを聞いた毛利は『ほぉ~』とだけ言う。


「詰まり、俺達はやつのバッシュの穴を埋めてやれば、飛翔・旋風脚を封じることができるはずだ!!」


 それを聞いて恭永が納得する。


「奴のバッシュの穴さえ埋めてしまえば、ホップアップ現象がなくなり、ボールを持ったまま着地、やつのトラベリングって訳だ!!」


 毛利が一人の男を推薦する。


「敵に気づかれず、穴を塞ぐなら、零が使える尚弥に頼みましょう。」


 尚弥は神崎の期待に答えるために酔い止めの薬を服用する。


「任せてください!! 奴のバッシュの穴に接着剤を流し込んでやりますよ!!」


 第二クォーターが始まれば、尚弥が早速、零を用いてロバートの通気孔に接着剤を流し込んで通気性を失わせた。


 そうとは気づかず、ロバートが再び飛翔・旋風脚を使う。


「飛翔・旋風脚!!」


 斎賀高校はロバートの自爆を期待していた。


 しかし、その期待は裏切られる。


 確かに、ホップアップ現象は無くなったが、浮力が失われただけで、高度は維持された。


 ダンクまで届かなかったが、ロバートがボールをゴールのボードにぶつければ、上空にボールが投げ出された。


「何だと!!?」


 詰まり、飛翔・旋風脚の威力が落ちただけで、根本的な解決は何もしてない。


「あ、クソ!!」


 恭永がボールを取るために跳躍、しかし、斎賀高校に制空権はない。


「ち、畜生!! 技の威力を抑えただけで、状況は何も変わってない!!」


 神崎の着眼点は悪くはなかった。


 それが勝敗を変えるほどの影響力がなかっただけ、そういう勘違いは阿呆なやつほどしてしまう。


 税金を貰っていながら仕事と言い賄賂をしているゴミ共、コネで上がったが、実力だと思い込むゴミ、肩書を主張して天下りする無能、犯罪は通報するのが義務だと言い、上級国民を裁かないで給料を貰う警察、税金を貰ってるゴミどもは、ご立派ですねと言われると喜ぶ。


 その言葉が、以下にして皮肉なのかを知る。


「いや、そこに気付いただけでも『ご立派』ですよ。何も気づかないで生きてるゴミもいますからね………」


 毛利の言葉に、神崎が苛立って睨んだ。


 しかし、すぐに感情を抑えて冷静になる。


(考えろ………こいつ(毛利)には、ロバートの攻略法が見えている。そこに気付いている。こいつに気付けるなら、同じ人間である俺にだって気付けるはずだ………)


 神崎はとにかく点差を抑えるために、パスを回して時間を稼ぎながら、なんとか得点を奪い取った。


「む、無理だよ………」


 バスケというルールの中で、敵を攻撃して足を止めるという行為は許されない。


 ましてや、無能な監督様や反論を許さない法律までつくる無能共には、こういう答えしか導き出せないだろう。


「ロバートにファールして足を折ってこい。」


 無能なお前らでは、そこまでが限界だ。


「お、俺達は………黙ってみていることしかできないのか!!?」


 ロバートが容赦無く上から攻めてくれば、斎賀高校は簡単に得点を許してしまう。


「諦めるな!! 忘れたのか!! 上杉 芯は双流の極意を相手に知を絞って攻略したんだ!! 上から攻めてくる相手だって、『無敵』じゃないはずだ!!」


 神崎の激にロバートが言う。


「残念ながら、『敵無し』だ。俺と同じ天にも届かない奴など、敵にすらならん………俺達は『無敵』だ!!」


 ロバートがダンクシュートを決めれば、神崎はそれを黙ってみていることしかできない。


 歯を食いしばって耐えるだけ、それでも斎賀高校は諦めなかった。


 ロバートが得点を決めれば、即座に神崎へパス、インフィニティ・シャッフルでロバートが来る前にゴールを奪い取る。


 斎賀高校は必至に食らいついていった。


「この勝負は制空権高校の勝ちでしょうね。斎賀高校も頑張って食らいついていますが、ロバートを止めない限り、斎賀高校は得点を許し続けることになります。」


 解説がわかりきったことを言う。


「なるほど、では、ロバートをどうやって止めれば良いのでしょうか?」


 実況が解説に聞くと解説が悩んだ末に言う言葉、それがこれであった。


「う~~ん、身長とジャンプ力はどうしようもないですからね~~~。」


 会場にいる観客たちも勝負あったと思い、皆が他の試合を見に行く。


 いつの間にか、斎賀高校の試合はほぼノーマークとなる。


 ロバートが言う。


「斎賀高校よ。『惜しかった』な。」


 『惜しい』とは一体何のことなのだろうか?


 斎賀高校にとって、ロバートの言う『惜しい』は理解ができなかった。


 一人を除いては………


「要するに、ロバートの『究極技』は封じられたということですよ。」


 その言葉を理解するのが、斎賀高校の軍師である毛利であった。


「きゅ、究極技!!? それじゃあ、『飛翔・旋風脚』はただの技でしかないということなのか!!?」


 そう、バッシュの穴に空気が通ることで、他の空中技も用意されていた。


 しかし、すでにミスマッチの斎賀高校には、究極技は愚か、『飛翔・旋風脚』すらも不必要な相手と言える。


「クソ!! こんな時、上杉 芯さえいれば!!」


 流水の極意を得意とする上杉なら、流水の技でロバートを撃ち落とす事ができるだろう。


「あぁ………正直、上杉 芯がいたら………このアルテリア・ロバートは敵わないだろう………だが、『流水』が無いお前らに、俺を倒すことはできない!!」


 気が付けば、斎賀高校は36点差もつけられていた。


 ロバートの3Pダンクがどうあっても止められない。


 いや、斎賀高校は普通の2点シュートも止められない。


 前半が終了した時、89対50という大差がつけられていた。


 物理的に届かない『空』の世界、翼も持たない人間が空の世界に憧れるなど、夢のまた夢、儚いだけだ。


「斎賀高校は勝てない………」


 すべての人間が斎賀高校を見放した。

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