第5話 無限を超える『飛翔のレジェンズ』

「う、嘘だ………あの無限の神崎を止めただって!!? お、おい、毛利!! お前知っててこんなことを!!? おい、なんとか言えよ!!」


 恭永が毛利に縋りついて言う。


「無論、存じていました。私は軍師です。ですが、私が動く時は、敵が『不正』を働いた時、『正々堂々』の『バスケ』で負けた時、それなら負けも本望でしょう………」


 恭永は何かを感じ取っていた。


 まるで、クリスタル大会の死闘を繰り広げ、決死の覚悟で戦っていたあの時の毛利ではなかった。


「お前は、本当に『毛利』なのかよ!!!」


 恭永が叫ぶと神崎が『ドン』と地面を叩いた。


 皆が注目する中で、神崎はゆっくりと立ち上がる。


「黙ってろ恭永、俺達は『同志』だ。だが、『同志』であって、『同志』じゃない。俺が表で最強にならなきゃならない。それだけだろ?」


 神崎にとっての斎賀高校とは、どういうものなのか、それに関して、理解できることはないだろう。


 神崎は正当な環境で生きてきた。


 不当が神崎の味方になるほど、神崎には運がある。


「………カンザキ……」


 飛翔のレジェンズが神崎の真似をして己の長い髪をマフラーのように巻く。


「………イッショだな……」


 この挑発行為に神崎は歯を食い縛る。


「舐めるなよ!!」


 飛翔のレジェンズがボールを構えて名乗りを挙げた。


「俺の名は………アルテリア・ロバート………だ。」


 ロバートは名乗った直後、神崎を抜き去ろうと仕掛ける。


 しかし、無限の神崎に敵うはずがない。


「サスガだ………ダガ、貴様デは、勝テない…!!」


 ロバートが跳躍してパスコースを探す。


 神崎も応戦して跳躍、空中戦となる。


「な、なんて高いんだ!!?」


 ロバートの方が神崎よりも身長が高く、ジャンプ力も高い。


 外国人のバネや体格では、日本人は敵わない。


「ヘイ!! ロバート!!」


 ロバートがパスを繋げば、そのパスは高く、斎賀高校は届かない。


「ロバート、ナイスランだ!!」


 神崎が先に着地してロバートを迎え撃つために先回りする。


 ロバートでは、神崎を抜くことができない。


 しかし、ロバートが跳躍すれば空中でパスを取って、そのままダンクシュート、そう、いくら地上最強でも無限の届かない世界では、神崎も無力ということになる。


「えぇ、神崎は即座に世界で己の無力さを知るでしょう。私が伝えるまでもないということです。」


 毛利にはわかっていた結果だ。


 神崎にとって、この露骨な差に驚き、己の『無限』が以下にして『有限』だったのかが、わかりやすかっただろう。


「なるほど、これが、俺の無限に足りなかったものか………」


 ロバートはシュートを決めたあとで言う。


「サイガコウコウはオレタチにカテナイ………!!」


 神崎は髪を解いて姿勢を低く構える。


 完成された必殺技は常時発動し、神崎の動き一つ一つが無限の世界へと相手を引き込む。


 ロバートが追いかけたのは、神崎による無限の残像、先程の配慮した神崎の動きではなかった。


「斎賀高校も得点を返した~~~!! 2対6、流石は神崎選手!! 強すぎます!!」


 もしの話をするなら、クリスタル大会で神崎に十二分な練習時間が与えられてたなら、斎賀高校vs城ヶ崎高校の勝敗も変わっていただろう。


 斎賀高校が勝てたのは神崎が無限に目覚めなかったからだ。


 無限に目覚めなくても僅かなスタミナが神崎に残っていれば勝っていただろう。


「だが、この戦いはジャンプボールから始まる………斎賀高校はどの道、後手だ!!」


 ロバートが説明すれば斎賀高校は負けていた。


 無限を止める手段が仮になかったとしても、斎賀高校にロバートを止める術はない。


 桜井を失い、御堂も失った。


 そんな斎賀高校には、制空権が無い。


「あ~~~っと、斎賀高校、また上を通されてしまった!! 制空権高校の攻撃が止まりません!! このままでは、斎賀高校に勝ち目がありません!! 初戦敗退か!!?」


 神崎は苛立った。


 このままでは100%勝てない。


 神崎が抗うがロバートの攻撃は止められない。


「まだわかっていないようだな。上空、天高く挙げられたボールにお前たちは届かない。これが、俺達の必勝、そして、不敗の戦術、俺達に届かないお前ら斎賀高校に勝てるわけがないだろう!!」


 ロバートの極論には敵わなかった。


 それが真実だから、神崎も言い返せない。


「まだだ!! まだ終わってない!!」


 神崎がロバートにファールする。


「ピィーーー!! 白、4番、ファール!!」


 神崎がシュート前にファールしたことでスローインとなる。


「やった!! 神崎のやつ、ロバートを止めやがった!!」


 ロバートも少しは驚いたようだった。


「やるな神崎、だが、そんなものは何の意味もない!!」


 ロバートの言う通りだ。


 シュート前にファールしても相手のスローインから始まる。


 相手のスローインのパスが高すぎるため、結局、斎賀高校はボールに届かない。


 相手がシュートするのをただただ見守っているだけ、そう、斎賀高校は相手のシュートを眺めることしかできない。


「圧倒的無力、斎賀高校!!」


 神崎が髪型をもとに戻せば、ロバートは未だに髪でマフラーを巻いたままだ。


 ロバートは神崎に言う。


「どうした? この俺はまだ必殺技も出していないぞ?」


 その言葉に、神崎は驚愕した。


 ロバートには、必殺技がある。


 そう、ロバートにとって、今の斎賀高校など、10%の力で十二分に倒せる。


 必殺技を使うまでもない。


 もし、ロバートに必殺技があるとするのなら、この状況を早急に打開しなければならない。


「くそ!! おい、尚弥!! お前の零でボール持った瞬間を叩いてやれよ!!」


 恭永が尚弥に不意打ちを提案する。


 尚弥の零手前といえど、十二分な戦果が得られるだろう。


「うぷッ………き、気分が悪い………」


 尚弥は吐き気と戦っている模様、恭永は呆れてしまう。


「くっそ~!! 俺がなんとかするしかねぇか!!」


 恭永は自慢の瞬歩で敵の一瞬を突くつもりだ。


 しかし、奴らのボールを持つ位置が高すぎる。


 手の届く距離なら瞬歩も意味があるだろう。


「くそ!! 高すぎる!! これじゃあ、俺が瞬歩を見せるだけ意味がない!!」


 恭永の言葉にロバートが返答した。


「無駄なことを………俺達が斎賀高校を調べてないとでも思ったのか?」


 その言葉に、恭永はすべてを悟る。


 例え、零や瞬足で不意打ちを狙ったとしても敵はボールを下げて持つことはない。


 そして、無限であって無限ではない。


 神崎の無限は空中では無力、人間のジャンプは無限ではない。


 『有限』だ。


 神崎が空中からシュートを決めようとした時、ロバートの守備範囲が異常だった。


 空中では有限同士、しかし、ロバートには身長とジャンプ力、そして、滞空時間も相手が上だ。


「丸見えだぞ………神崎!!」


 ロバートのブロックが炸裂する。


 ロバートがゴール下を固めて、他の四人が外でディフェンスし始める。


 尚弥が不調故に、ロバートがゴール下で陣を取る。


「まずい、斎賀高校はゴール下を封じられたか………」


 斎賀高校の試合をライブ中継から見ている上杉 海が思わず言う。


 外の攻撃も身長の高い制空権高校に部がある。


「神崎、こっちだ!!」


 恭永が神崎にパスを要求、神崎がパスをすれば、恭永は神崎にパスを繋いだ。


「なるほど、勝つために神崎にボールを託したか………チームとして最善の選択を彼はした。だが、勝敗は変わらん。」


 ロバートが恭永に感心すれば、ロバートは神崎を待ち構える。


 神崎が自慢の無限を使ってハーフライン付近まで逃れる。


「24秒だ!! 打って!!」


 綾音がタイマーを気にすれば神崎がシュートモーションを取る。


「喰らえ!! これが元最強の3Pシュートだ!!」


 このロングシュートは止めようがない。


 そして、シュートは最高点に到達した時、シュートカットしてはいけない。


「『飛翔・旋風脚』!!」


 しかし、神崎の超ロングシュートはロバートの必殺技によってボールを奪われてしまう。


「ば、馬鹿な!!? ボールを取っただと!!?」


 そう、ロバートは嘘を付いてなどいない。


 ロバートが実力の片鱗を見せ始めた瞬間でもある。

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