第3話 ハンドボールとバスケ、二重攻略の天才

 球技には、サッカーがあり、バスケがあり、ハンドボールなどもある。


 ハンドボールはバスケのように、手でドリブルができ、ゴールはサッカーのように広く、ゴールキーパーもいる。


「拙者がゴールキーパーで………」


 謙信がキーパーの配置についた。


 それを確認した尚弥が言う。


「じゃあ、僕が前出ますね………」


 神崎はハンドボールを持って尋ねる。


「バスケの勝負じゃないのか?」


 神崎の疑問に謙信が答える。


「無論、無限のレジェンズを『有限』にしたまで、これくらいのハンディキャップは当然でしょう?」


 神崎は謙信の言葉に呟く。


「有限か………」


 ハンドボールを見つめて上杉 芯のことを考え始めてしまう。


(あいつならどんなに不自由を感じても勇気で乗り越えてきた。命を賭けて………)


 神崎は命を賭けたことなど無い。


 暴力を許せば、戦争が起き、暴力を規制すれば、無能が付け上がって多大な税金を強要してくる。


 自分のことを自分でできる人間は、暴力に頼らず、税金を強要したりしない。


 暴力の世界も、無能の世界も、他人の才能を奪うだけ、海外では他人の可能性を奪わないよう教育を目指している。


 日本という無能の国は、他人を縛ってばかりだ。


「良いだろう………バスケしかできない俺だが、バスケだけならバスケらしくハンドボールの世界で『バスケ』をしてやるよ。」


 そういうと神崎がボールを構える。


 それを聞いた二人は、何を言っているのかさっぱりだった。


「神崎先輩、ハンドボールはハンドボールですよ? バスケよりも縛られた世界、片手でドリブルを始めたらもう片方の手でドリブルはできない。そんなルールの中で『バスケ』なんて出来る訳無いじゃないですか………」


 ハンドボールのルールでは、バスケやサッカーに似ているものがある。


 しかし、ドリブルだけがルールで支配を受けている。


 そして、バスケでは三歩歩いたらダメだが、ハンドボールは四歩歩いたらダメと言うルールだ。


 ハンドボールは普通、ドリブルをしながら逆方向に動けない。


 しかし、ドリブルをやめれば逆方向に三歩も歩き回れる。


 詰まり、ハンドボールの本質はドリブルをしてボールを持った時が『真の戦い』でもある。


「先輩、ハンドボールのルールわかってるんですか? ハンドボールにはドリブルも片方しか動けない『有限』、ボールを持ってからも三歩までの『有限』、有限に有限が続くスポーツなんで―――」


 尚弥がハンドボールを語ると神崎は右手でドリブルをし始めた。


「尚弥、俺は右手でドリブルをしているが、それでも『無限』を貫く………初めて良いのか? 左に行くから構えろ………」


 神崎先輩は笑みを浮かべていた。


 男のくせに女性にも見える整った顔、黙っていれば女性のように美しいが、勝負になると男らしさが際立った。


「始めるって俺は『零』を使うんですよ? わかってるんですか??」


 尚弥に敵意は無い。


 寧ろ、神崎先輩の誇りを心配している。


「安心しろ………俺はもうお前を『捉えている』。」


 神崎の言葉は何なのか、尚弥は妙な自信を感じ取る。


「ね~、毛利………この小説ってすごい濃厚だけど、続きないの?」


 霧崎 彩音が毛利に駄々をこねる。


「続き読みたい!! 続き読みたい!!」


 毛利がその小説を手に取ると理解する。


「この作品は飛翔可憐の作品ですね。まぁ、同一人物なんでしょうけど………」


 綾音が小首を傾げて疑問に思う。


「同一人物? 誰と誰が?」


 毛利は一言で片付ける。


「そこは置いといて、飛翔可憐の作品は無能な猿どもにパクられる上に宣伝しても嫉妬を買いました。パクられた内容は絶対に切れる剣の攻略法だとか、水蒸気爆発の無能賢者だとか、いろいろですかね。」


 綾音が難しそうな顔をする。


「日本人は昔からエロと野望しか知らないから仕方ないしやめたってことにしとくけど、続き読みたい読みたい読みたい!! 大体、この作者、飛翔可憐さんならどんな能力も攻略するでしょ? その上に敵を見逃して答えを知った敵に再び命を狙われるのに攻略するじゃない!! 無能のせいで、その人の才能が発揮できないとか海外じゃ考えられないわ!! 海外は得意分野を伸ばす時代でしょ? 日本は無能を使って何をするっていうの?」


 毛利が言う。


「人には、生まれながらにして革新の才能を持つものも居ます。その才能を真に持っているのは世界でも3%しか居ません。後はヤクザのでしゃばりが税金だのを何だのと国賊となって奪い取ることを革新だと思い込む猿も居ます。なので、無能が上に上がるのは仕方な―――」


 綾音がだだをこねる。


「やだやだ!! 無能が有能を推薦しないとかやだ~~~!! 有能を上に置けば高度経済成長になったりするのに、軍師を置かないとダメでしょ!!」


 困りながら、小説の内容を一部読み上げる。


「『全てはロジックに過ぎない』、絶対両断刀を素手だけで攻略、魔力でもなんでも切り裂く刀の峰には、流石に刃がなかった。その後、白刃取りができなくなった主人公に再び絶対両断刀が襲いかかる。それも攻略、小説の続きは上がってませんが、あそこでは、零を攻略しようとしているものが居ますよ?」


 毛利の指差す方向を見ると神崎と尚弥がハンドボールで勝負をし始めるところだった。


 少し時を遡ると、毛利は尚弥と謙信に計を授けていた。


「神崎さんは一度零の攻略法を知っています。それは、嗅覚的な対策でした。ですので、これを授けます。」


 そう言って、毛利は尚弥に小さな玉のようなものを差し出した。


「これは?」


 尚弥が聞けば、毛利が答える。


「匂いセンサーと消臭玉です。」


 この匂いセンサーは周囲の匂いを記憶させ、固定、固定させれば記憶と違う匂いを感知した時、音で知らせてくれる。


「すでに、皆様の匂いは記憶されております。従って、神崎さんの匂いの変化にも敏感です。」


 尚弥は適当に返事をする。


「はぁ?」


 二人が行ってから毛利が呟いた。


「最も、神崎さんは私とは違うやり方で攻略してくると思いますがね………」


 その話を聞いて綾音は驚いた。


「え~~~!!? そんなことしたら絶対に勝てないじゃない!! 敵が弱点を克服したんでしょ!! しかも、あの『零』を使うんでしょ? 勝てるわけ無いじゃん!!」


 毛利は黙って二人の勝負を見つめていた。


「だって、あそこには、匂いを付ける香料もなければ、『ハンドボール』しか無いんだよ!! どうやって勝つの!!?」


 そう、どんな無能でも運さえあればチャンスは有る。


 運任せで生きている猿どもが一度勝利すれば、敗者を殺すだろう。


 それは、無能は子供にも舐められる上に、大人になっても無能は無能だからだ。


 毛利の計略を克服した『零』が神崎に襲いかかる。


 しかし、神崎は尚弥の動きを『認識』していた。


「嘘でしょ!!?」


 綾音が驚いて空いた口を両手で隠している。


 皆が驚く中で一番驚いているのは毛利なのでは、綾音はそう思って毛利の方を向く。


 しかし、そこに毛利は居なかった。


「あ、あれ?」


 そう、毛利は驚いてなど居なかった。


 毛利は急いで体育館へと向かって走り出していた。


「す、素晴らしい!! 流石は神崎 真琴だ!!」


 寧ろ、わかっていたかのようだった。


「だが、零を認識したとしても『有限からの有限』だ!! 左になんて行けないよ!!」


 神崎が右にドライブインするも止められてしまうとくるりと回って左に方向転換する。


 しかし、左を走る時、右手が無防備となる。


 ドリブルは右手でしてしまっている。


 詰まり、無防備の右手でドリブルをしている。


「貰った!!」


 尚弥がドリブルカットをすれば手が届く距離だ。


「ダブルロール!!」


 神崎がローリングを決めれば、もう一度ローリングを決めてしまう。


 ハンドボールルールで右手でドロブルを継続するなら、それ以上を右ドリブルだけで前には出れない。


 おまけに、無防備な右ドリブル、ボールを奪われるのは必至だった。


 だが、神崎はダブルロールを決めてしまったのだ。


 バスケでもダブルロールを決めるのは稀だ。


 バスケの世界なら一度のロールで敵を抜き去った方が楽だからだ。


 しかし、ダブルロールを決めるとなると、口では簡単だが、圧倒的な技術力か勇気、実力差が必要だろう。


 上杉 芯がダブルロールを決めた時は、相手を知ったからだ。


 その圧倒的知性を上杉 芯は活かした。


 そう、神崎は圧倒的な技術の持ち主、しかし、今のダブルロールは紛れもなく『知性』によるものだった。


 スピードも技術も何も感じさせなかった。


 明らかに『知性』でのプレイだ。


 最後は、ボールを持って三歩歩き空中でスピンして六度のフェイントを重ねてシュートを放たれる。


 至近距離にいる神崎のシュートがいつ飛んでくるのか謙信には分からなかった。


 最後には、空中を舞い上がる長い髪の毛が落ちてきた。


 それを人差し指で絡ませる神崎、そう、神崎は尚弥に己の『髪の毛』を絡ませていた。


「素晴らしい!!」


 毛利が手を叩いて入り込んでくる。


「なるほど、殺意がなかったのは毛利の計略だったからか………」


 神崎が神妙に感じていた正体をなんとなく理解した。


「おい、毛利!! これはどういうつもり―――だ!!?」


 神崎は動けなくなっていた。


「神崎主将!! 一生付いて行きます!!」


 尚弥が神崎に飛びついていた。


「いつの間に!!?」


 そして、もう一人もいつの間にか、くっついていた。


「拙者、感激いたしました。神崎主将、不束者ですが、よろしくお願いいたします。」


 神崎は『にへ』っと表情が崩れる。


「ふぇ!!? か、神崎主将!!? そ、そんな『氷川』主将みたいな………あ、ちょ、ちょっと待て毛利!! お前の謀だろ~~~!!!」


 毛利は笑っていう。


「はてさて、何のことだか………それにしても、見事でしたよ………『零』を別の方法で攻略………完敗です………」


 神崎は毛利の計略を超えたと思い込んでしまった。


「ま、ままま、まぁな!! お、おお、俺が主将でいいぞ。軍師よ。飲み物でも持って来い!!」


 それを聞いた毛利は血管が切れそうになった。


「は~~~~~、私に200点のパーフェクトゲームされたやつが何いってんだ???」


 神崎は勝ち誇って言う。


「今やったら俺の方が頭も切れるんじゃないのか?」


 二人の争いはしばらく続いた。


 その後、綾音から神崎は過保護を受けることになる。

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