第2話 時差による睡魔と新メンバー

 今回のクリスタル大会は前もって世界戦をやることとなっている。


 そう交渉を進めていたのは、毛利達だった。


 クリスタル大会に優勝する自信を持っていた毛利と翔太、特に翔太が先手を取っていた。


「あ、この話をもう一人の男がしてくると思います。それに関しても保険で承諾しといてください。どっちに転んでもそちらには利益に繋がりますし、僕は利益でなく目的が達成されればそれでいいので………」


 翔太が通信を切ると予言通り、毛利からも交渉がやってきた。


「懐かしい話ですね。あの時は『星のレジェンズ』に邪魔されてましたからね。」


 毛利の言葉に翔太が付け加える。


「試合では、僕の方が先を行ってたけどね。」


 それを聞くと毛利が不機嫌そうに笑顔を向けた。


「今度は二人だけでやりますか? 『先見のレジェンズ』さん」


 翔太は笑っていう。


「残念だけど、僕は未来が見えてる。大穴を当てることに宝くじを当てることだってできるのさ………君一人だけだと役不足じゃないかな?」


 毛利は呆れて言う。


「結局、あなたたち敦煌(とんこう)高校内最強は誰なんですかね?」


 一人一人の戦力が負けていた斎賀高校にとって、敵最強の戦力が誰なのかわからない。


 翔太がバスケットコートを覗き込むと毛利に言う。


「あっちでは流水のレジェンズと軌跡のレジェンズがやってるみたいだよ。丁度、君の疑問に答えようとしてるんじゃないかな?」


 それと同時に、クリスタル大会決勝戦のアーカイブも流れてきた。


 アーカイブからは懐かしい上杉 芯の声が流れてきた。


「じょ、冗談じゃないぜ………今のは、俺の究極の………」

「弟よ………こう考えたことはなかったのか? 流水とは流れ、流れとは人、俺たちは二人で流水を極めようと練習していた。貴様は二人で発生する流れを………二人で生み出す流れを知っているのか?」

「ふ、二人だとッ!!?」

「弟よ………母は弟の死を望んではいない。後は兄に任せよ。俺はお前の兄弟で親族、親族にもゲスな奴はいる。とりあえず、裏切ることはないだろう。それが阿呆共の家庭での話、だが、俺はお前と同志だ!! 芯!! 貴様を死なせたりはしない!! 二人の流技を見よ!! 双流の極意を!!」

「な、なんだ!!? お、俺の流水が………まるで見る影もなく………!!?」

「見事だ上杉、私と海の流水は二人でできる技、貴様がどれだけ真似をしようとしても一人では絶対にできん!!」

「ぐッ!!? し、仕組みはわかった………分かったが、たしかに、一人ではできないし、絶対に対抗できない!!」

「そうだ。元々流水の技は頭を使ってできる芸当、そして、流水のことはオレたちの方が詳しい!! 一人の流水も範疇の内よ!!」

「弟よ。もう立つな。よくぞここまで戦った。双流の極意を見せたのは降伏させるため、流水のレジェンズよ。後は俺だけで十分だ。弟よ。俺との流技をくらべてもわかるはずだ。技は互角、しかし、弟は満身創痍、命を賭けて俺を倒せたとしよう。その先には双流が待っている。もう休め………」


 その映像は世界中に知れ渡っている。


 バスケの国、準優勝のアメリカ、そして、バスケの世界王者・スペイン、第三位のオーストラリア、世界ではこんな話をしている。


「ふぅ~~~、正直、上杉兄弟がクリスタル世界大会に出てこなくてよかったですね。」

「あぁ、全くだ。双流の極意はどうしようもないでしょう。」

「斎賀高校の選手はたったの三人、神崎、毛利、恭永だけです。」


 そう、上杉 海は母親の病状が悪化したために、辞退した。


 御堂も魂だけで戦っていたためか、妹と再会できてから体に力が入らなくなったとか、戦士の休息だ。


 浅井に関しては、心臓停止、試合どころではない。


 上杉 芯は昏睡状態、目を覚ますこと無く眠っている。


 神崎が上杉の病室に立ち寄ると眼の前で嘆いた。


「くそッ!! お前との決着をつけるつもりだったのに、勝ち逃げしやがって!!」


 最強の名を与えられたことなど、とうに忘れた神崎だが、上杉との再戦に燃えていた。


 それだけに、やりきれない思いを本人の前で打ち明ける。


「………神…崎………か………」


 神崎はその声に驚いて即座に立ち上がる。


「い、意識が戻ったのか!!? 上杉!! 俺だ!! 目を覚ませ!!」


 神崎は叫んだ。


 ここが病室であることも忘れて、しかし、上杉は目を閉じたままで意識は取り戻していない。


「おま………えの………無限は………完…璧………だ………だが、………無限…じゃ……ない………」


 神崎は驚いて叫ぶことをやめていた。


 そう、上杉 海に悟られていたなら、上杉 芯に悟られていてもおかしくはない。


「す………を………限に…し…ろ………………世界を………任……せた…ぜ………」


 それを聞いた神崎は複雑な感情になってしまう。


「うるさい!! 俺が世界を取るのはお前のためじゃない!! 氷川のためだ!!」


 神崎は病室を飛び出した。


「すってなんだよ!! 俺の無限に何が足りないんだよ~~~!!!」


 これは何かの天啓だろうか、それとも、上杉 芯はまだ使命を果たしていないのか、神崎に伝言を残し、安らかに眠ったという。


 舞台が日本でないために、斎賀高校は時差ボケで戦わなければならない。


「やっほー、みんな!!」


 斎賀高校のマネージャーである霧崎 彩音(きりさき あやね)が海外進出に大はしゃぎ、元気だけが取り柄のようだが………


「でも、すっごく眠い………」


 神崎や毛利、恭永も眠気による頭痛に耐えながらも頭を振った。


「こ、こんな状態で試合をするのか!!?」


 神崎が弱音を吐いている。


 無理もない。


 丸一日寝てない状態で試合をするようなものだ。


「おまけに空気も違う。環境の変化で更に頭が割れそうだ!!」


 恭永の言葉に毛利も重ねる。


「皆様、ご安心を………斎賀高校の校長は正義の人、常識を弁えています。我々のために一週間早く行く手はずをしてくれました。資金もたくさんありますし、スポンサーも付きました。無論、金の亡者にも狙われてしまう。ガードマンも充実してますのでご安心を………それに、新メンバーもいます。」


 毛利が皆に二人の男を紹介する。


「どうも………浅井 尚弥(あさい なおや)です。」


 続いて、もう一人も続く。


「拙者は武田 謙信(たけだ けんしん)、兄者に頼まれて馳せ参じた。」


 二人の登場に名前を聞いて驚く。


「浅井?? 武田?? 兄者?? ま、まさか………!!?」


 方やは武田 拓哉(たけだ たくや)の弟でもう片方は浅井 勇気(あさい ゆうき)の弟である。


 弟達は、兄と高校が違っていたのだ。


「兄程ではありませんが、力になりましょう。」


 御堂、勇気が居なくなり、斎賀高校は不安定となったが、三人だけで試合をやる必要はなくなった。


 この国が夜になる頃、神崎達の国では昼間だ。


 眠れない神崎が体育館に現れると、そこには尚弥と謙信が居た。


「どうしたんだ二人共?」


 神崎が尋ねると二人は気を異常に高めているのが感じ取れた。


 そこに殺意は無い。


「拙者、力試しがしたい………」


 謙信の闘気は神崎に取って心地よかった。


 しかし、それはすぐに勘違いだと知ることになる。


「いいだろう。あの拓哉の弟だ。全力で―――」


 言い終わる前にボールを奪われていた。


「失礼、兄者を相手に三人がかりでも負けた先輩の実力を是非、拝見させていただきたい………」


 神崎がボールを取り返そうとした時、自分の手からボールが溢れた。


「え?」


 地面に転がっているボール、それは紛れもなく神崎のボールだ。


 顔を見上げると謙信はボールを持っていなかった。


「流石、神崎先輩………いつの間にボールを奪ったんですかね?」


 何が起こったのか、理解できなかった。


 いや、気付くことができなかった。


「面白い………二人がかりで来い………」


 そう、瞬足手前と零手前の使い手、零手前故に、後からボールを奪う取った犯人が尚弥だとわかった。


「先輩、『零』を止めれるんですか? 楽しみだな~………」

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