第12話

午後六時。バイトを終え、着替えを済ませたくらいのタイミングで豊は迎えに来てくれた。給油レーンに入り、車から降りるとタッチパネルを操作して油種を選び始める。そしてノズルを給油口に入れたタイミングで、俺に気づいた。

「お疲れさんっす」

 豊がハイオクを入れながら元気よく手を振ってくるので、俺もつい手を振り替えした。

「お疲れ。ガソリン入れてくんだ」

「そーっすね。まあ高いんでそんな沢山は入れんすけど」

 はははと豊が笑う。俺も笑い返しておこう。

「今からだとちょっと早いんで、飯食べてから行きましょう。いいっすか」

「おっけー。丁度腹減って仕方なかったんだよね」

「じゃあそういうことで」

 いいタイミングで給油が終わったみたいだ。豊が助手席に乗るよう手で促してくるので、俺は遠慮せず、しかし汚さず壊さず丁寧にを心掛けて乗り込んだ。入る前に靴の裏が汚れてないか確認しとけば良かったけど、まあ汚れてなかったし結果オーライだ。

「低っ」

 最初に感じたのは座った時の目線の低さだ。元々の車の形状もそうなんだろうが、車高を下げてあって、凄く低く感じる。

 あと、思ったより足元ゆったりだ。さっすが高級セダン。

「良いでしょ。乗り心地」

「ああ。最高。マジで」 

 感想を言おうと運転席側に顔を向けたら、シフトノブに目が行った。大きく長く、薄い青色で透明、そして中に気泡が入ってる、いかにも車のケツ滑らせてる車って感じのアレ。

「シフトノブいいねえ。いかにもって感じで」

「いいすよね。まあ後々他のに変えるんすけど。あと内装もまだまだ全然弄るんで、変わっていくの楽しみにしてて欲しいっす」

 まだまだ改造するんだ。まあまだ内装も外装もシンプルだし、全然改良の余地ありって事か。

 ん? 豊の言いぶりだと次もあるって事か? 俺今日だけだと思ってたから、今後も遊んでくれるかもってのはなんか嬉しい。友達がいなかったとかじゃないよ、まあ少なかったけど。友達が出来たらいつだって嬉しいもんだろ。

「じゃあ先飯行きますか。どこ行きます? といっても自分給料日前で金欠なんで、あんま高くないところがいいすけど」

「今日は乗せてもらうって立場なのに何もしないって訳にはいかないから、晩御飯は奢るよ」

「いやそれはいいっすいいっす! 申し訳ないっす。自分社会人なのに」

「でも高いガソリン入れて乗せてもらってるわけだし。あ。じゃあガソリン代ってことでどう?」

「いやいや」 

 頑なに遠慮するな豊。だが俺も一度出すと決めたものは出さなきゃ気が済まん。俺も引かない。

「……わかったっす。じゃあお願いします」

「うん。俺今お金に余裕あるから、ちょっといいとこ行こう。とんかつとか」

「え、マジで言ってます?」

「嫌いだった?」

「いや好物っすけど」

「じゃあいいじゃん。行こ行こ」 

「マジすか。いいんすね? じゃあお言葉に甘えて。いきますか!」

 お、段々豊も乗り気になってきたじゃん。そうそう、奢りたいって言う男には奢らせとけばいいのさ。

 ガソリンスタンドを出て、豊は車を良い音を立てて走らせる。いいとんかつ屋を知っているので、俺は豊かに言ってそこに向かってもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ろくでなし、半端な青春 ぽりまー @porima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ